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67.対魔王とお邪魔虫

 誠に遺憾ながらファールードと共に世界樹へ向け進んでいる。

 彼はもちろん隠遁(ステルス)が使えないのでそのまま駆け足で並走しているけど、場所は枝の上じゃなく柔らかい腐葉土を踏みしめる形だ。


 既に魔王も吸収されたモンスターも出てきているから隠れる必要が無いとはいえ……堂々と地面から進むのは気になって仕方ない。

 なるべく接敵を避けるため、モンスターと出会っても奇襲できるよう枝上から行きたいのだが……。


「ちゃんとついてこいよ。ウィレム」

「誰に言ってんだ? お前こそ、もっと速く進めないのか?」


 この調子だし、傲慢不遜のファールードがコソコソ移動するなんてあり得ない。


「ふん! 速度が速ければいいというものでもない。モンスターを出会い頭に襲撃できるよう進むのだ」

「へいへい。魔王やモンスターの位置は把握してるのか?」

「使い魔がいるだろう?」

「そら連れてきてたけど、今はもう上空を飛んでないよな」

「当たり前だ。魔王のスキルを喰らうと厄介だからな。大丈夫か? ウィレム」

「……つまり、使い魔が最後に目撃した位置に向かってんだな」

「その通りだが、すぐ分かる。魔王は派手好きなようだからな……ククク」


 勇者の持つ三つあるスキルの一つ「英雄」は、俺以外に効果を及ぼす。

 

「しかし、お前も英雄の影響を受けるんじゃ」

「そうだな」

「おい、何でそんな自慢気なんだよ」

「ククク……行けと言われて行かない選択肢は俺にない。それだけだ」

「英雄を喰らわない秘策でもあるのか?」

「ウィレム。大賢者から英雄の詳細を聞いているか?」

「……」

「全く……お前は抜けが多すぎる」


 ぐ、ぐう。これには言い返せねえ。事実だからな。

 自分に影響がないからといって、英雄のことはエルラインに聞いていなかった。

 といっても勇者のスキルについては全てエルラインからハールーンへ情報が伝わっている。

 

 俺が言い返せないのを見てとったファールードは、これ見よがしに嫌らしい顔をしてご講演をはじめやがった。


「ウィレム。英雄スキルとは魅了系スキルの最高峰だ。さすが勇者のスキルってところか」

「それは知ってる」

「……。口の減らない奴だ。まず英雄スキルは発動時間こそ数秒ではあるが、一度受けると解呪は困難という性質を持つ」

「ふむ」

「ちゃんと聞いてるのか?」

「一応な」

「ふん。聞いていたとしても、お前の頭はスポンジだからな。まあいい。英雄は一度喰らうと、相手を気絶させない限り解除できないと認識するがいい」

「おっけー」


 めんどくせえ。とっとと喋ればいいのに。勿体ぶりやがって。

 俺の不満を感じ取ったのか、奴はまたしても大きなため息をつきやがった。全く走りながら器用な奴だ。

 

「無い頭だから仕方ない。いいか、ウィレム。英雄が発動。魔王と目を合わせずとも魔王がこちらを認識するだけで問答無用でこちらが魅了される」

「えげつないな。視界に入るだけでアウトか」

「そうだ。魅了された場合、魔王を一番の朋友と考えるのだ」

「そらまた……嫌らしい効果だな」

「分かったならもういいな。ちょうど魔王がいそうなところが見えて来た」

「派手にやってやがるな。誰かいるのかもしれない」

「接敵したらすぐに退避しているはずだが……まあいい、行くぞ」

「言われなくても。先に俺が行く。英雄は俺に効果を及ぼさないからな」

「ふん」


 前方の巨木から火の粉があがっている。

 かといって龍のような巨大モンスターの姿が見えないから、これをやったのは魔王だろうとファールードは判断したってわけか。

 仲間の誰かがやったかもしれないけど、俺たちはみんな火災に注視しているからこうまで派手に木を燃やすことなんてないはず。

 山火事は恐ろしいからな……飛行して逃げられるならともかく火の手って思った以上に早いんだ。

 

 火の粉があがっている巨木から延焼はするだろうけど、この辺りは開けた土地になっているので最悪の事態は避けられると思う。

 俺に火の粉が飛んで来るかもしれないけど……。

 

 ともあれ、魔王を探さないとな。

 巨木は高い位置にある葉から燃えているから、まだ下の方の幹まで火は燃え広がっていない。

 今ならまだここを抜けることができる。

 

 行くぜ。

 一息に駆け抜けようと息を入れた時――。

 

 ザバアアと派手な音を立てながら、バケツでひっくり返したような水が大量に降ってきた。

 

「ファールード!」

「ククク……まだそこにいたのか、すまんすまん」


 こいつうう。水だから実害はないけど、びしょ濡れになってしまったじゃねえか。

 頭を振ると髪から水しぶきが飛ぶ。顔に垂れてくる水を拭い、前へ進む。

 

 ◆◆◆

 

 火の手があがっていた巨木を横切り少し行くと魔王を発見した。

 魔王は知的生命体を探し、抹殺しようと動くと聞く。俺たちを感知していたのか知らないが、彼女の視界に入るとすぐに俺へ目を合わせ可愛い顔に似合わずニタアと笑みを浮かべる。

 

「英雄!」


 いきなりかよ。

 幸いターゲットは俺に向いていたらしく、何ら効果を及ぼさない。

 鈍感万歳。何か言ってて悲しくなってくる……。気にしたら負けだ。

 

 魔王が俺へ英雄の効果を発揮していると思っている今が千載一遇のチャンス! この隙に一発で仕留めてやるぜ。

 俺は背中の槍を抜き、振りかぶる。

 

超筋力(力こそパワー)!」


 いっけええええ。

 

「ブレイブ!」

 

 対する魔王はブレイブで身体能力を引き上げる。

 しかし、俺の槍はもう魔王の腹へ突き刺さろうとしているぞ。

 

 期待とは裏腹に、魔王は体がブレるほどの速度で右へステップを踏む。

 一方で俺の槍はそのまま後ろの巨木へ突き刺さった。

 

 どうだ?

 

「完全には躱せなかったようだな」


 魔王の左肩が大きくえぐれている。しかし魔王はやはり人とは根本的にことなるみたいだな。

 何故なら傷口が露出した箇所からは血は一切流れていない。削れた部分はまるでそこに最初から無かったかのように空虚になっていた。

 

「ファールード! 俺はこのまま畳み掛ける!」


 焼けた木の向こう側にいるファールードへ聞こえるよう力一杯叫ぶ。

 まずは弱った左側から突く。悪く思うなよ。こっちだって必死なんだ。


 両手に翅刃のナイフを構え、上半身を屈めた前傾姿勢で魔王へと駆ける。

 狙うは左腕。

 肩から大きく抉れた魔王では、腕に力が入らないだろう。

 そこを狙う。


「何!」


 あろうことか魔王は左腕を守らず、肘を折り曲げ首の前に差し出してきたのだ。

 一瞬動揺したが、構わず翅刃のナイフを振り下ろす。


――ゴトリ。

 魔王の左腕が地面に音を立てて転がった。


 一体何を考えているのか分からないが、躱すこともできたろうに。

 片腕でどこまで戦えるのか見せてもらおうか。

 間髪おかずにナイフを切り上げ、お次は魔王の首を狙う。


「ショックウェーブ」


 しかし、魔王の力ある言葉と共に奴の体から衝撃波が発され、俺は真後ろに吹き飛ばされてしまう。

 ちっ、さっきだんまりだったのは魔法を準備していたからか。

 衝撃波の威力は凄まじく、太い枝まで大きな音を立てて地面に落ちた。


 全身が痛むが、大したことはない。動くに支障はねえぞ。

 首を振り立ち上がる。

 一方の魔王はニタアと顔に似合わぬ笑みを浮かべ、次の呪文を準備しているようだった。

 後方ではファールードが俺と魔王を外界から隔離すべく作業を始めたようで、ひっきりなしに大きな物体が落ちる音が響いてくる。

 

 吹き飛ばされ衝撃で頭がクラクラしつつも、魔王を睨みつける。呪文はどうなってる?

 チッ! ダメだ。これは魔法が発動する。ここから走っても今からだと間に合わねえ。

 魔法の発動を止めるには発動前なら集中を乱せばいい。しかし、準備が整い最後の呪文を唱えるだけの状態になれば口を塞ぐしかないのだ。

 超敏捷なら……いや、ここは一か八かにかけるにリスクが高い。超敏捷でギリギリ間に合うかどうかだからな。

 あれだけ発動までに時間がかかるんだ。これから来るのは最大級の魔法に違いない。うまく発動を止められなかったら、こっちが致命傷を負う。


 ――彼女の足元から風が吹き上がる。続けて、両手を天に掲げた。

 アレは……。考えるより先に俺の体は動く。


「シャドウ・サーバント」


 もう一丁スペシャルムーブを行くぜ。

 指先を動かしたその時、後ろから肩を掴まれ引き倒された。

 な、なんてことしてくれんだ。

 今のでシャドウ・サーバントが消えてしまったじゃねえか!

 魔王以外にいる奴と言えば一人しかいない。

 普段なら常に警戒しているのだが、まさかここで手を出して来るなんて。こいつ、目的を分かってんのか?


「ファールード!」


 俺を引き倒した犯人の名を叫ぶ。


「悪い悪い……ククク」


 全く悪びれていないファールードの声。


「何のつもりだ!」

「なあに、魔王が発動させようとしているアレ。もう二度とお目にかかれないと思ってな」

「大人しく後ろに引いておけ!」

「問題ない。魔法とスキルは同時には使えない」


 そううそぶき、ファールードは俺の前に出る。

 確かに魔法とスキルは同時には使えないが、クリムゾンフレアの威力はとんでもないんだ。まともに対峙することもないだろうに。

 その時ちょうど魔王が最後の呪文を唱えた。


「クリムゾンフレア」


 俺たちの頭上に赤い小さな球体が現れる。


「任せておけ。ククク……」


 ファールードが不敵な笑みを浮かべ万歳のポーズを取り愉悦に染まった声をあげた。

 もう知らねえぞ。勝手にしろ。

 自分の身だけは守ろうと、再度シャドウ・サーバントを出し大木の後ろへ走る。

 

 彼が笑っている間にも赤い球体はぐんぐん膨張を続ける。

 それに対しファールードは笑い声をあげたまま、球体を囲むように石壁を落とす。

 

 しかし、球体の膨張は止まらず石壁を突き破り直径が十メートル近くまで成長した。

 

「ファールード、逃げろ!」


 いけ好かない奴だけど、ここで倒れられたら俺と魔王を隔離するって役目を果たせない。

 どうする? 超敏捷で奴を安全圏まで連れだすか。


 だが、あいつはまるで動揺する素振りを見せない。それどころかますます増長し昂っているように見える。

 そうこうしている間に球体が赤く染まり、ぼこぼことマグマのように脈打ちながら、バチバチと稲妻が渦巻き始めた。

 

 来るぞ。クリムゾンフレアが!


「面白い。実に面白い」


 ファールードは背を逸らし嗤う。

 それと同時にファールードと球体を遮るように鉄の板、石の壁、鉄の板と幾重にも折り重なっていく。

 

「魔法とはいえ、効果を発揮すれば炎なのだろう?」


 ファールードが両手を掲げると、球体の上から大量の砂が降ってくる。

 よくこんなもん持ち歩いているな……こいつ。

 

 砂と爆発する炎がせめぎ合い、炎を覆う砂が確かに効果を発揮する。

 しかしそれでも、ファールードの出した幾重もの壁を貫きながら炎の弾が壁を大きく揺らした。

 本当にギリギリだったが、ファールードはクリムゾンフレアを全て壁で防ぎ切ってしまう。

 

「ククク……収納」


 壁を収納し、俺へ顔を向けるファールード。


「ファールード、早く見えないところまで走れ!」

「ククク……ハハハハ」


 ダメだ。愉悦に浸ってやがる。

 魔法とスキルは同時に使えない。しかしだな、魔王は既に魔法を放った後だ。魔法を放つと硬直時間がある。

 しかし、クリムゾンフレアは発動するまでの時間が長いんだ。魔法の効果が終わる頃には動ける。

 

「英雄」


 予想通り来やがった!

 魔王の凛とした声が響き、ファールードは一瞬体を揺らすと笑い声が止まった。

 

「ファールード?」


 彼の名を呼ぶが、反応が無い。

 俺の声を無視したファールードは、クルリと踵を返し魔王へ顔を向ける。

 その目は赤く光を放っていた。あの目が操られている証拠ってやつか、分かりやすいが……ファールードと魔王を同時に相手取るとなると……。

 ゴクリと喉を鳴らし、身構える。

 

 ファールードは両手を開き悠々と魔王の元へ歩を進めて行く。

 

「我が盟友魔王よ。お前こそ……俺にふさわしい」


 魔王はファールードの言葉へニタアと嫌らしい笑みを浮かべた。

 

「盟友ならば、一番に打倒せねばな!」


 え?

 ファールードが手を振ると、魔王の頭上に直径一メートル、高さが三メートルほどある石柱を出現させる。

 石柱は重力に従い、そのまま落下。

 

「ブレイブ」


 対する魔王はブレイブを発動させると、石柱を左手で軽く受け止め横に放り投げた。

 

 ファールード……お前は一番の親友に対していきなり石柱でぺしゃんこにしようとか歪んだ愛情を持っているのかよ。

 彼の斜め上の行動に空いた口が塞がらない。


 茫然としていると、魔王が俺の方を指さす。

 

「魔王……そうか、先にウィレムと戦いたいというのか……」


 ファールードの言葉に魔王は無言で頷きを返した。

 すると、ファールードは眉をひそめやれやれと大げさに肩を竦める。

 

「仕方あるまい。盟友たるお前の頼みだ。ウィレムとの一騎打ち、このファールードが差配しよう」


 もう意味が分からねえ。


「ファールード、どうなってんだ?」

「ウィレム。心配するな。何者にもお前と魔王の戦いの邪魔はさせん。しかし、俺が差配するのなら、一度仕切り直しをさせてもらうぞ」


 言葉がまるで通じねえ。

 意味が分からん。

 頭を抱えようとすると、頭上から大量の赤ポーションが降ってきた。

 

「痛え!」

 

 瓶に入っているポーションが当たると痛いじゃねえか。

 幸い瓶が割れることは無かったが、地面に転がった赤ポーションを一つ手に取る。

 これは……上級ポーションじゃねえか。不味くて飲めない奴だよ!

 

「魔王。お前も受け取れ」


 今度は魔王の頭上に緑色のポーションが大量に降ってくる。

 あれは、HPを回復させるポーション。おそらく最高級のやつだ。

 ポーションに当たるのを嫌がったのか魔王はわざわざブレイブを使ってまで落下するポーションを避けた。

 

「魔王。遠慮せずに使うがいい」


 ファールードのありがたいお言葉を無視して、魔王は彼を素通りし俺の元へゆっくりと歩いてくる。


「グレーターヒール」


 魔王が回復呪文を唱えると、右の肩口から影が伸び右腕が再生してしまった。

 その間に俺は持ってきた赤ポーションを飲む。

 

「ファールードの意図通り、仕切り直しってわけか。いいぜ。思惑通りにはいかなかったけど、結果的に俺と魔王を隔離するって目的は達成した」

「早く終わらせろよ。魔王。次は俺とやろう」


 いちいちイラつくことを言うファールードを放っておいて、翅刃のナイフを両手に構える。

 ひょっとしたら、アレが突破口になるのかもしれないな……転がったポーションにチラリと目をやり前を向く。


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技をコピーする能力で無双する!

・タイトル

外れスキル「トレース」が、修行をしたら壊れ性能になった~あれもこれもコピーし俺を閉じ込め高見の見物をしている奴を殴り飛ばす~

・あらすじ

落とし穴に落とされ、ある場所に閉じ込められた主人公が修行をしてチート能力に覚醒。バトルものになります。どんどこ更新していきますので、暇つぶしに是非見て頂けますと幸いです。

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