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57.古代遺跡のリッチ

 俺たちはハールーンが手配してくれた馬車に乗り古代遺跡に向かっている。

 彼は気前よく馬を二頭と御者までつけてくれるという豪華仕様な対応をしてくれた。


 最初一人で行くことも考えたけど、メンバーは文字解読をやってもらうにゃんこ先生に初遭遇のモンスターのステータスを見てもらうためにエステル。

 そして、彼らの護衛を村雲と千鳥の二人に頼んだのだ。

 御者を入れて合計六人となかなかの大所帯になってしまったが、キャンプ道具もあるし食料も豊富に積んでいる。

 どれくらい古代遺跡で時間を取られるか分からないことから、ハールーンが週に一度のペースで食料を手配してくれることになっているので長期滞在もどんとこいだぜ。


「くああ!」

「忘れてないって。突っつくな」


 俺もいるとばかりにカラスが俺の頰をつつく。

 といってもこいつは只のカラスではない。使い魔である。


 ハールーンが使い魔を用意すると言っていたのだけど、ワオンが使い魔を所持していたので彼の使い魔であるカラスがついてくることになった。

 使い魔はスキル無しの場合、中級上位の「ファミリアー」という魔法を使って親しくなった動物を使役する必要がある。

 使い魔になったペットは主人と視覚、聴覚を共有することができるようになって、離れていてもその効果は消えない。

 使い魔は元の動物より知性も高くなり、元のペットの種類によっては喋ることだってできるようになるという。

 残念ながら、カラスは声帯の関係から喋ることはできないが人の言葉は理解するとワオンの言である。


 使い魔がいることで何かあった場合、こちらからワオンへすぐに伝えることができるってわけだ。


 それにしても、馬車を使うとはやいはやい。途中街道沿いで一泊し、翌日は道なき道を進むと古代遺跡が見えて来た。

 古代遺跡は遥かな昔に存在した街の残骸で、所々崩れた石を積み上げた外壁に囲まれている。

 街のシンボルとして高い塔があり、離れていてもその姿がハッキリと確認できるほど巨大だ。

 

 ◆◆◆

 ――古代遺跡に入る。

 元は家だったのだろう瓦礫がそこら中に転がっていて、瓦礫の隙間からは雑草が生え放題。しかし、塔だけは一切傷がついておらず昔日の威容をいかんなく感じ取れた。

 

 それにしても……。

 

「首が痛くなるほど高いですね!」

 

 エステルが手を額に当て、塔を見上げている。

 俺が思ったことを先に言われてしまって、言葉を飲み込み「うん」とだけ彼女に返す。

 

「これは聞くのと見るのとではまるで違うね」


 にゃんこ先生も髭を揺らし目を見開いている。

 

「これってどれくらいの高さがあるんですか?」

「六十階まであると聞いているね」

「うひゃあ。それはすごいですね」

「現在の技術ではこれほどの高層建築物は建てることができない。古代の神秘だね」


 うむうむとにゃんこ先生は満足そうだ。

 

「中にモンスターがいるかもと聞いてますので、見てきます。千鳥、エステル、一緒に頼む」

「はい」

「はいです」


 エステルと千鳥へ順に目を向けた後、体の向きを変え村雲を見やる。


「村雲さん、ミャア教授と御者……ついでにカラスもよろしくお願いします」

「しかと承りましたぞ。若」


 んじゃあ、中を見に行くとしますか。

 ていってもこれまで何度も冒険者が来たことがあるんだろ。俺が行く意味は本当にあるのか今だに疑問だ。

 何も無かったとしても、にゃんこ先生にアカシックレコードなるものを解読してもらえれば何か分かるかもしれないしな。

 転んでもただでは起きねえ準備はしてきた。

 

 ◆◆◆

 

 塔の中は床こそ埃まみれになっていたが、外と同じで壁は全く年代の経過を感じさせず綺麗なままだった。

 フロアは一部屋になっており、上に続く階段だけがある殺風景なもので、他には何もない。ところどころ壁に穴が開いていて光が差し込んでいるから暗くなくていいな。

 

「ストーム殿。床に何か文様があるみたいでござるな」

「ん、言われてみれば確かに」


 足で砂埃を払うと、赤色の線がいくつか見えてくる。


「ちょっと確かめてみるか。せっかくだし」

「そうですな。モンスターもいませんし」


 うん。遮蔽物が全く無いから何かいたらすぐに分かるよな。

 だから、もしモンスターが姿を現しても奇襲されることもないだろ。

 

 三人で協力して赤い線に沿って埃を払っていくと、文様の全容が少しづつ姿を現してきた。

 しかし、見えてきたものの何を描いているのかまるで分らないなあ。

 

「ストームさん!」

「ん?」


 不意に切羽詰まったようなエステルの叫び声がしたので、思わず彼女へ目を向ける。

 下を指さしてもう一方の手を口に当てているな。

 

「ってええええええ」


 いつの間にか俺の立っている場所の床が消えているう。

 当たり前だが、俺は重力に従い落下した。

 

 ◆◆◆

 

 体をかがめ、着地の衝撃に備えようとするとすぐに床に足が付く。

 どうやら、十メートルから十五メートルほど落下したみたいだな。


「大丈夫でござるかー?」

「ストームさんー」


 上から覗き込む二人の姿が見える。

 二人の顔が見える穴の大きさから察するに、穴はちょうど俺一人分がすっぽりハマるくらいのサイズみたいだな。

 

「大丈夫だ! 暗いから周囲が確認できないくらいだよ」

「モンスターがいるかもしれませぬう」

「それも問題ない。気配がしないからな」


 真っ暗闇でも俺の気配感知能力は変わらない。例え身動きせずに待ち構えていようが俺のセンサーからは逃れられないのだ。

 

 その時、急にフロア全体が真昼のように明るくなる。

 

「え?」


 眩しさに目を細めていると後ろから声が!


「全く騒がしいね」


 な、何。気配はまるでしなかったぞ。

 動揺したまま声のした方へ振り向くと、少女……いや少年が無表情に佇んでいた。

 肩口くらいまでの紺色の髪に愛らしい人形のような顔立ち。肌は異常ともいえるほど青白く……小柄で華奢な体つきをしている。

 歳の頃は十五歳くらいに見える。最初顔を見た時に少女だと思ったんだけど、そうじゃない少年だ。

 何故なら、彼は腰にシルクのローブをまとっているだけで上半身が裸で素足だったから。体を見たら性別は一目瞭然だぜ。

 

 それにしても……完全に不意をつかれるとは……何者だこいつ。

 

「き、君は?」


 我ながら間抜けな質問をしてしまった。

 しかし言葉とは裏腹に俺は全感覚を研ぎ澄ませ、いつでも動けるよう油断なく構える。

 

「僕? 僕はリッチのエルライン」


 エルラインが名前だとして……。

 

「リッチ? そんな種族聞いたことがないな」

「種族……ではないかな。それより君はここに何しに来たんだい? 用が無ければ無駄に騒がないで欲しいんだよね」

「あ、え、えっと……」


 口ごもっていると、エルラインは子供っぽい笑みを浮かべて右手をくるりと回す。

 すると、何もない空間から大きなルビーのはめ込まれた杖が出現した。

 

「ふうん。武器を構えないんだね」

「敵意を感じないからな……君は魔法使いか」

「まあ、そう考えてもらってもいいよ。ウィレム」

「え?」


 どうして俺の名前を呟こうとするより早く、エルラインは更に言葉を続ける。

 

「世界樹のことを聞きにきたんだろう?」

「そ、その通りだけど……」

「どうして僕が知っているのかって? そうだね。ちゃんとタネも仕掛けもあるよ。うん」

「見ていたのか? 俺たちのことを?」

「うん、そんなものさ。まあ、立ったままじゃなんだし」


 エルラインは杖を振るうと純白のテーブルセットが現れた。

 

「アイテムボックス……?」

「そうじゃないよ。これは魔法。あ、それと」


 エルラインは顔を上にあげ、固唾を飲んで見守るエステルと千鳥へ目を向けた。

 

「君たちも降りておいでよ。ティーパーティでもしながら話をしよう」


◆◆◆


 ティーカップに湯気を立てる紅茶を注ぎ、クッキーまで出したエルラインは満足そうに椅子に腰かける。


「世界樹のことを教えて欲しいんだ」

 

 改めてエルラインへ頼むと彼は子供っぽいクスクスとした笑い声をあげて俺たちの顔を順に見る。

 

「うん。いいよ。全て語ろうじゃないか」


 紅茶を口に含み、コトリとティーカップをテーブルへ置くとエルラインは語り始める。


「世界樹は魔王を産む。果実の色が変わるのはそろそろってことだよ」

「ま、魔王……それっておとぎ話じゃ……」

「そうだったら幸せなんだけどね。現実はそうじゃあない。いいかい、ウィレム」


 エルラインは(うた)を詠みあげるように謳うように続ける。

 魔王とは世界にたまったゴミが長い年月をかけて蓄積する黒い霧のようなもので、およそ二千年周期で出現する。

 出現した黒い霧は人型を取り、先に知的生物から襲い始めるのだそうだ。無差別に無慈悲に。魔王は滅ぼされるまで止まらない。食事も摂らず不眠不休で動き続ける。

 

「恐ろしいでござる……」


 絶句した千鳥が嘆くように呟く。

 

「魔王は天災みたいなものだよ。台風や地震と似たようなものさ」

「そうは言っても、殺し尽くすまで止まらないんだろう?」

「まあそうだね。知的生物にとっての天災が魔王だよ。なんとかして滅ぼすしかないんだよね」

「そんな軽々しく言うけど、簡単に行くものなのか?」


 俺の問いにエルラインは肩を竦め首を傾ける。

 彼の赤い目が一瞬光った気がした。

 

「強さはそうだね。そうでもない。モンスターランクだとSS、レベルでいうと九十九より少し強いくらいだよ」

「……強いって……」

「そうでもないさ。みんなでかかれば怖くないってね」

「うーん。それだったら、ハールーンがあれほど必至になって世界樹へモンスターが近寄らないようにする意味が分からない」

「彼らが知っていることは二つあるんだ」


 一つは果実の色が変わる最終段階になると周辺のモンスターを世界樹が吸収し、魔王を生み出す糧にしてしまうってこと。

 吸収させなければその分、魔王の復活を遅らせることができる。しかし、年数の程度の差はあれ、いずれ魔王は復活するそうだ。

 二つ目の事実が非常に厄介だった。吸収したモンスターは魔王が出現すると真っ黒な形になって魔王へ付き従って破壊活動を行う。

 

「厄介過ぎるだろ。魔王……」

「クスクス……でも無敵ってわけじゃないだろう?」

「そうだけどさ……」

「もう一つ、彼らが知らない事実もあるよ」

「まだあるのかよ」

「魔王のSPとMPは無尽蔵だね」

「……」


 ん、でも。ここまで話を聞いて不可解なことがある。

 

「そもそも俺がここに来なくてもよかったんじゃ。魔王のSPとMPのことは最初の二つの事実に比べれば些細なことだよな」

「そうだね。今の人間社会に伝わっていることは三つ。『魔王の復活』『魔王が災厄』『モンスターを吸収し手下にすること』だね」

「じゃあ何故、俺がここに?」

「当時は君をというつもりで呼んだわけじゃなかったんだけどね。君の父と会う機会があってさ。既に人間社会で知られている三つのことを彼に伝えた後、ここに実力者を連れて来るように言ったんだよ」

「それって……五年くらい前のことか?」

「そんなものかなあ。父親とは会ってないのかな?」

「うん、俺の父さんは行方知れずのままなんだ。生きているのかも分からない」

「ふうん。そうなんだ。君の父には実力者をと言ったけど、街で活躍する君を発見したから僕は君をここへ呼んだんだよ」


 ん。俺を? 

 てことは、ハールーンへエルラインが接触していたってことか。

 俺の考えを呼んだのか、エルラインは無言で頷き嫌らしい笑みを浮かべた。

 彼の頷きは俺の考えている通りって言っている。

 

「さて、何故君だったのか。正直、世界には君と一対一で対峙して勝てる者は幾人かいる」

「そらそうだろう。身近なところだと……おそらく俺はハールーンにはまだ勝てない」


 あくまで「まだ」だけどな。ハールーンの実力がファールードより二回り上くらいだと仮定したらの話だ。

 いずれ追い抜くがね。ふふふ。

 

「謙虚なのはいいことだよ。うん」

「俺じゃないといけない理由は全く想像がつかない。ハールーンが言った理由とはまるで異なるんだろう?」

「もちろんだよ。単純な戦闘能力だけでなく君じゃないとダメなんだよ。他にも対象となる者はいるけど、対象者の中では君が一番適している」

「うーん……」


 頭を捻る俺へエルラインはクスクスと子供っぽく笑いながら口を挟む。

 

「スキルだよ。君の持つね」

「トレーススキルか?」


 今更エルラインに隠す必要は無いだろ。きっと彼は俺のスキルについて知っているに違いない。

 千鳥には俺のスキルのことは教えているし、エステルには知られても全然構わないから。

 

 しかし、エルラインは俺の問いかけには答えずニヤニヤと俺の顔を見た後、エステルと千鳥へ順に目を向ける。

 

「君はいつも彼女らを侍らせているのかい?」

「侍らせてって人聞きが悪い……だいたい千鳥もエステルも友達だからな」

「ふうん。どうなんだい? そこでウィレムの答えを期待していたお二人さん?」


 エステルと千鳥はぶすっとしたままエルラインへ応じた。

 

「……ストームさんですし……」

「そうでござる」


 じとーっとした視線を二人から感じる……俺、何かやったのかよ。

 そんな目を向けられる言われはねえぞ。

 

「クスクス。今ので分かったかな。千鳥とエステルだっけ」

「それってスキルなんですか?」


 エステルは合点がいかないといった様子だ。

 ちょっと俺にも何のことか教えてくれよ。俺のことなのに……。

 

 俺の思いをよそにエルラインは言葉を続ける。

 

「そうだよ。スキルには見えているスキルと見えないスキルがある。それに、一人一つとも限らない。ごくまれに二つ以上のスキルを持つ者だっているんだよ」

「スキルだったんですか……どうしたら解消されるんですか?」

「残念ながら、スキルを消す手段はない。彼の場合、何かトラウマがあったみたいで熟練度が最大まであがっているね」

「……酷い話でござる……」


 待て待てえ。全員で俺を憐れむような目で見ないでくれ。

 こっちは何のことか分かっちゃいねえってのに。

 

「ウィレム。魔王もスキルを持っているんだよ」

「唐突に話が戻ったな……」

「いや、話は続きだよ。魔王は次回出現する時には魔王を滅ぼした者のスキルを受け継ぐのさ」

「へえ……それが?」

「前回魔王を倒したのは勇者だ。彼女は三つのスキルを持っていた」

「規格外過ぎる……」

「彼女の持つスキルが非常に厄介なんだ。だから君でないといけない」


 勇者の持つスキルとは、「オールレジスト」「ブレイブ」「英雄」の三つ。

 「オールレジスト」は全ての魔法を無効化する。「ブレイブ」は自身の身体能力の全てを向上させるとんでもスキル。

 最後の一つ「英雄」は別名「悪魔のカリスマ」と呼ばれているそうで、相手が人であれば敵対していても魅了してしまう恐るべき能力だった。


「ブレイブだけでもとんでもないけど、そもそも『英雄』の効果で戦うことさえできないってこと?」

「うん、僕には『英雄』は効果を及ぼさないけど、『オールレジスト』があるからね。対抗はできないよ」

「それって俺でも一緒じゃ……」

「君の持っている隠しスキルが『英雄』の効果を打ち消す。だから、君なんだよ」

「……それって何てスキルなんだ……?」

「鈍感」


 突然なんで悪口が。

 

「エルライン?」

「鈍感ってスキル名なんだよ。君をはやし立てたわけじゃあないよ」

「……」


 酷い。何て名前のスキルなんだ。

 俺って鈍感なの?

 

 エステルへ目を向けると思いっきり首を縦に振るし、千鳥も同様だ……。


元の隔日更新に戻しまっす。

分量が案外きつかったっす。すいません。

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技をコピーする能力で無双する!

・タイトル

外れスキル「トレース」が、修行をしたら壊れ性能になった~あれもこれもコピーし俺を閉じ込め高見の見物をしている奴を殴り飛ばす~

・あらすじ

落とし穴に落とされ、ある場所に閉じ込められた主人公が修行をしてチート能力に覚醒。バトルものになります。どんどこ更新していきますので、暇つぶしに是非見て頂けますと幸いです。

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