52.閑話2.拙者の悩み
――千鳥。
「エステル殿……」
エステル殿の女性らしい肢体に思わず呟いてしまったです。
最近ストーム殿が夜な夜などこかに通っているという噂を聞きつけ、ひょっとしたらストーム殿に「いい人」が……などと懸念したものですが、やはりストーム殿はストーム殿でした。
こそこそしているので、歓楽街とかの方がまだ男らしくあったかもしれません。
ストーム殿……何故、ここに来るのを秘密にしているのですか? 拙者には理解できませぬ。
彼がここまでお気に召すというのだから、さぞすごいところなのだと思いエステル殿と来てみたのですが……「ぽんぽこ温浴」に。
拙者とエステル殿はタヌキさんの受付を済ませ、脱衣場まで来ております。
エステル殿は恥ずかし気もなくさくっと服を脱がれて下着姿になり申したが……羨ましい……です。
「千鳥さん、まだ悩んでいるんですか?」
「いえ、きっとストーム殿は『ぽんぽこ温浴』という可愛らしい名称が恥ずかしかったのではと思うでござる」
「別に隠す必要はないと思いますけど……なんだかそういうところは可愛いですよね。ストームさん」
ふふふとはにかむエステル殿は可憐で、拙者でも見とれてしまうほどです。
ぼーっとしているうちにエステル殿が胸に巻いた薄ピンク色のサラシに手をかけはじめました。下地より少し濃いピンク色でバラがあしらわれており可愛らしいです。
それよりなにより、サラシで圧迫されていた胸がたわわんと解放され……。
拙者も慌てて黒装束を脱ぐと、エステル殿がこちらを見ているではありませんか?
「千鳥さん、どうしたんです?」
「あ、いえ。拙者のサラシは真っ黒ですし……」
実は止まっている原因はそこじゃあないんですが、お話するたびに揺れるそちらの方がうらや……いえ、気になり……。
「一緒に見に行きますか? この前行ったお店に」
「はいです」
黒いサラシを取り、白黒のヒョウ柄のパンツ一枚になると自分の胸に手を当てはあと一息。
拙者、サラシは擦れないように薄く巻くだけですんじゃうんです。
◆◆◆
エステル殿の肩口から汗が落ち、ぷるるんとよく形を変える柔らかな胸を伝って滴り落ちているでござる。
彼女はサウナに入るとすぐに汗をかきはじめ、ほおおと息を吐き肩までほんのりと桜色になっていました。
「千鳥さん、もう私、汗だくで……千鳥さんくらい動けたらなあと思います」
「そうでござるか? 拙者、なかなか汗をかかないのです」
普段から鍛えているからか、多少暑くてもすぐに汗が出てこないのです。
エステル殿も魔の森でサバイバル生活をしたのですが、拙者やストーム殿、父上と比べるとまだまだでござるよ。
「だからストームさん、千鳥さんといることが多いんでしょうね」
「え?」
エステル殿が羨ましそうに呟きましたが、拙者にはとんと分かりませぬ。
「エステル殿……その、ストーム殿のことで……」
「や、やっぱり、そうですよね。千鳥さんもストームさんのことが……」
「え、いや、そのお話ではなく……た、確かにストーム殿のことは嫌いじゃあありませぬが……」
「私も大好き、って違ったの?」
「そのお話では……」
暑さではなく熱さから、お互いに耳まで真っ赤になってしまいました。
しばらくそのまま無言で悶えた後、取り繕うように彼女へ向け呟きます。
「そ、そのですね。ストーム殿は当初スキンシップや冗談の類が好きなのかなあと思ったんでござる」
「それって?」
「拙者をじっと見つめたり、素っ裸で前に来たり……サウナに一緒に入らないかと誘ったり……」
「ストームさん、あれほど『鈍感』なのにダイタン!」
エステル殿は両手を口にあて「きゃー」と小さく悲鳴をあげました。
「違う、違うのです。エステル殿。ストーム殿はエステル殿の認識通り『超鈍感』で間違いありませぬ。きっとエステル殿の好意にも気が付いておりませぬ」
「そ、そうですよね……あの鈍感さはもはや芸術的な域に入っていると思います!」
うんうんとお互いに頷きあう。
おっと、お話がそれてしまいました。
「それでですね。拙者、あれほど鈍感なストーム殿が気軽にアプローチしてくるわけはないと確信しているのですよ」
「そ、それもどうかと思いますが……きっとそうですよね……」
エステル殿は乾いた笑い声をあげます。
「そこから勘ぐるに、ストーム殿は拙者のことを『男の子』と思っているんじゃないかと……そうであれば彼の全ての行動は理解できるのです」
「え、まさか……いくらストームさんでも。こんなに可愛くて華奢な千鳥さんを……」
面と向かって女らしさ満点のエステル殿に自分の容姿を褒められると照れてしまうでござる。
拙者はえへへとにやつく口元を指先で押さえ、「落ち着け―拙者」と心の中で念じます。
はあああ、少し落ち着いてきたでござる。
「拙者、エステル殿と違って……その」
「千鳥さん……あ」
拙者の視線に気が付いたエステル殿は自分のたわわなおっぱいを下からすくい上げるようにして腕を組み、悩んでいます。
そ、その仕草は心をえぐるものがあるでござる。
「千鳥さん、お店の酔っぱらったお客さんが『揉めば大きくなる』とか言ってました!」
「エ、エステル殿、な、何を……ひゃああ」
「痛くないですか?」
「は、はいですう。で、でも何だか変な気持ちに……」
「こ、この方がいいでしょうか」
「……っつ。あっ……んんっ。エステル殿、女同士でこのようなことはダメでござるう」
「男の人なら……ストームさんに頼みます?」
ストーム殿の名が出た途端に、ますます気持ちが昂って……。
「ダ、ダメですう。エステル殿おお」
彼女の手を振り払い、お返しとばかりに。
「手が隠れそうです」
「わ、私はこれ以上、大きくなりたくな……っあ」
「エステル殿……」
「ん、んん。そこは……ダ、ダメえ……あ……っつ」
エステル殿が拙者の手を掴み、上にあげます。
拙者とエステルどのは座った状態で拙者が体を前に乗り出す形でエステル殿の方へ重心が傾いておりました故。
いきなり手を上にあげられますと、身長差もあり拙者の体がバランスが取れなく。
結果。
エステル殿を押し倒してしまいました。
むちゅう。
唇と唇が都合よく接して……。
エステル殿の息が拙者の頬に。
「い、今のは女の子同士なので、ノーカウントですよね!」
「は、はいです」
もしストーム殿だったら……拙者から押し倒す形でなく反対に……な、何を考えているでござるか! 拙者。
口元を指先で押さえ、「落ち着け―拙者」と心の中で念じるのですう。
お話で盛り上がったのはよかったのですが、この後エステル殿がのぼせて倒れてしまいました。
彼女を姫抱きして、休憩室に向かったでござる。
そこで彼女を寝かせ、起きるのを待つことにしたのでした。