28.みんなのレベルをチェック
買い物を終えた翌日、俺たちは魔の森に向かう。
馬を買うか迷ったが、村雲の体調を考え馬で中層の小屋まで行くことにした。
彼自身は歩くだけなら平気と言ってくれたんだけど、森の中だと医者も僧侶もいないから念には念をと彼に伝え納得してもらう。
そんなわけで、魔の森中層の我が家に帰ってきたぞ。
……違う、我が家じゃない。サバイバルで染み付いた三年間の影響は大きいな……俺は魔の森が故郷だとナチュラルに考えてしまったことにゾクリと肩を震わせ、小屋の中に荷物を置く。
俺に続いて、千鳥とエステルが手分けして荷物をどんどん小屋に積み上げていく。
村雲は馬を厩舎に繋ぎ、飼い葉と水を準備してくれている。
一通り作業が終わったところで、お昼にすることに。
「ストームさん、この鍋を使っていいんですか?」
「うん。ああ、食器も足らないよなあ」
「多少は買ってきているでござる」
ワイワイ準備をしていたら、村雲が思案顔で声をかけてきた。
「若。山菜を探索に行ってもよろしいか?」
「村雲さん、無理しない程度に軽くなら」
「然り」
四人になるとわちゃわちゃだな。ほんと。
村雲もだいぶ回復してきたけど、病み上がりだからあまり体に負荷をかけないように注意してもらいたいな。
三日ほど静養してもらって、徐々に体を動かすようにしてもらえればと思っている。ニンジャマスターとして活躍できるようになるまでに、短くて二週間。完全復帰には一か月と俺は見ている。
すぐに食事ができて、全員でかまどを囲み昼食となった。
「エステル、君は狩りや解体の経験はあるかな?」
「ウサギ狩りの罠のお手伝いくらいでしたら……解体は動物なら何度もあります」
ふむ。それなら、血を見るのにも慣れているな。
「武器を扱ったことはある?」
「いえ……料理と解体でナイフを使ったことがあるくらいです」
俺はエステルの経験を踏まえ、どのように彼女を育成すべきか思案する。
目標は悪漢どもを撃退できるように身を護れるだけの格闘能力をつけること。だから、格闘技術は必須だ。
後はせっかく魔の森に来ているのだからサバイバルも学んでもらって逞しくなってもらおうか。いざという時に生きて行く力になる。
「ストームさん?」
考え事をしていて黙ったままの俺へ不安そうな顔でエステルが俺の名を呼んだ。
「あ、ごめん。エステルに何を学んでもらうか考えてたんだよ」
「ありがとうございます!」
「教えてくれてありがとう。あと……もしよければ君のステータスも教えてくれないかな?」
「もちろんです」
エステルは小屋の中から紙と墨を持ってきて、自分自身に「ステータス鑑定」を使ったようでサラサラと紙へステータスを記載していく。
『エステル
性別:女
年齢:十九
レベル:三
スキル:ステータス鑑定
スキル熟練度:二十五
HP:二十
MP:二十
SP:無
状態:正常』
レベルが三かあ。これだけ低いんだったら、レベルを上げて身体能力をあげるのが手っ取り早いな。
せめて二十まではあげよう。それなら、酔っ払い程度、数メートルは張り手で飛ばせるようになるはずだ……。
「エステル。基礎的な体術を明日から教える。その後、弓の練習をしながらレベルをあげよう」
「はい!」
方針が決まったところで、エステルと俺は頷きあい食事を再開する。
ん、食べようと口を開いたら千鳥と目が合う。何か言いたそうだな。
「千鳥、何かあれば遠慮せずに言ってくれ」
「も、もしよろしければ、拙者にもエステル殿のステータスを見せていただきたいでござる」
エステルの個人的な情報になるから、判断は彼女に任せよう……ってエステルが千鳥へステータスを記載した紙をもう見せてるじゃねえか。
「千鳥さんどうぞ」
「かたじけないでござる。ふむふむ」
千鳥はエステルのステータスを見ると納得したようにうんうんと頷いている。
村雲も彼の後ろから覗き込むようにエステルのステータスを確認すると、顎に手をやり俺へ目を向けた。
「若。この機会にそれがしと千鳥のレベルをお伝えしときましょうぞ」
「お、おお。それはぜひ聞きたい」
「千鳥はレベル三十三。それがしが……」
「父上、拙者はレベル三十四に上がりました故……ストーム殿のおかげです」
村雲の言葉を千鳥が訂正する。
はて? 俺何かしたっけ?
「ストーム殿、スワンプドラゴンでござるよ。あれでレベルがあがったでござる」
「なるほど。それはたまたまだよ。それまでにも経験を積んだんだろう?」
俺が拙者がとなりそうなところで、コホンと村雲が咳払いで止めてくれた。
「それがしはレベル六十二になり申す」
「お、おお!」
中堅冒険者と言われるクラスでレベルは二十から四十の間くらい。冒険者ランクA以上となるとだいたいレベルが六十以上となる。
村雲は冒険者ランクでいうと上から二つ目のAに当たるってことか。といっても冒険者ランクSは王国に数人しかいないらしいから、実質一番上のクラスと言える。
千鳥に関しても予想以上にレベルが高い。ニンジャマスターというスキルを考慮すると、中堅冒険者の中に混じっても上位になるだろう。
ん? 何やら千鳥がキラキラした目で俺を見つめているじゃあないか。尻尾があれば思いっきり振ってそうな感じで……。
「千鳥? ど、どうした?」
「ス、ストーム殿のレベルも教えて欲しいでござる……」
「千鳥! 若に無理を言っては……」
千鳥をいさめる村雲であったが、彼らにレベルを知らせるのは特に抵抗はない。
冒険者ギルドでも知れ渡ってるし。
「俺のレベルは直近でエステルに鑑定してもらった時……レベル八十三だった」
「……」
「……さすが若ですな!」
千鳥は目を見開いたまま固まってしまった。一方の村雲は手を叩き、称賛してくれている。
この辺が経験の差なのだろうか。
場が落ち着いたところで、俺は急に顔を引き締め一人一人の顔を順に見て行く。
俺の真剣さを感じ取ったのか三人は食事の手を止め、俺の言葉を待つ。
「みんな、いずれ俺のスキルについて詳しく話す。俺のスキルはとても特殊で、公言したくないんだ」
「それでしたら、無理にお話しなくても……」
エステルが心配そうに俺へ応じる。
しかし、俺は首を左右に振り言葉を続けた。
「いや、公言したくないからこそ、俺はみんなに聞いて欲しいんだ。今はスキル名だけ聞いて欲しい。俺のスキルは『トレース』」
「聞いたことないスキルですな」
村雲でさえ首を捻るほどのレアスキルだったらしい。
それはともかく、俺の言いたいことは伝わったようで誰もが笑顔を浮かべてくれた。
俺は彼らを信じたい。友となりたい。だからこそ、俺の秘密にしていることを知ってほしい。
「ざっくりというと、コピーするスキルだよ」
「イメージがわかないでござる……」
首を傾けはてなマークの千鳥へ苦笑し、話はこれだけだと言わんばかりに食事を再開する俺であった。
俺が食べるのに合わせ、三人ももぐもぐと残りを食べ始める。
ん、肉を口に含んだ時、唐突に思いついた。
トレーススキル、スキル……そうだよ。スキル。
俺のスキルはとてもじゃないけど戦闘向けだとは思わなかった。しかし、スキル熟練度をあげるととんでもなく化けた。
エステルのステータス鑑定だってスキル熟練度を上げれば何か変わるかもしれないよな? よしレベル上げと並行してスキル熟練度も鍛えてもらうか……。
エステルにチラリと目を向け、くくくと声がこぼれる。
楽しみになってきたぞお。