第七話 鬼
「俺の名は鋼光河」
「私は風来華、よろしく」
ああ、と返事する鋼。華に手招きし、外に用意していた自分の車に乗せる。
「アンタ、この前倒した鬼を覚えているな?」
エンジンをかけ、車は逃走した五十嵐を追って走り出す。
「ええ、村を襲ったあの鬼…」
「それは俺だ」
「へ?」
二年前。
鋼は、ヤツカ村の職員として働くことになっていた。
村役場近くのアパートに荷物を下ろし、服や本、食料品などを出す。
「さて…大体こんなもんか」
新生活の準備を進め、部屋が整ってきたところで、彼は仕事場である役場に呼び出された。
「君が新人の鋼光河くんかな?」
呼び出したのは村長、五十嵐海であった。彼女はガタイの良い彼の肉体を見、不敵に笑みをこぼした。
「ちょっと来なさい」
村長に連れられ、鋼は役場の廊下を進む。村長は奥まった廊下の行き止まりに差し掛かったところで振り向いた。
「あの…ここは?」
困惑する鋼。彼はとっさに、後ろに気配を感じて振り向いた。しかし、遅かった。
そこには忍者のような服装、顔に包帯、その手にはスタンガン。
身構える余裕もないまま、鋼は気絶させられた。
「何があった…ここはいったい…」
五十嵐前村長による隔離実験施設。そこで彼は目覚めた。
「やめろ…」
薬を投与され、変化する身体。混濁する思考。
「やめてくれ…」
その時点で鬼と化していた彼に、暴れていた時の記憶はない。
次に目覚めた時、彼の眼前には倒壊した定食屋と、着物を翻し去っていく少女、華の姿があった。
「アンタには礼を言わなくちゃいけないな、そして頼みがある」
「五十嵐海を…討つ」
「いくぜ、もうすぐヤツカ村だ」
次回 第八話 虎事変