第四話 四人の異能力者
数刻前 森
一機の小型ドローンが、森の上空を音もなく旋回する。
そして、四人の人ならざる者をそのカメラに捉えた。ゆっくりと引き返し、一人の女性のもとに降下していく。
ドローンを片付け、カメラの映像に映された場所へ向かう女性。そこには、年齢も性別もバラバラな四人が確かにいた。
彼らは言い争っている。
「誤解だ…俺たちは人に害を与えようとはしない!」
「いったい何が起きてるんだ…!?」
女性は11.4mm短機関銃M1とこの国では呼ばれているサブマシンガンを構えた。中距離で威力を発揮するこの銃を彼女は着物の少女、ハナに向けて撃った。
「があっ!!!」
ハナがうめき声をあげる。その腕から、血が滴り落ちていた。
スレンダーマンたちは周囲を警戒する。
「あなたたちはこの村にとって邪魔なのよ」
そう彼女はつぶやき、もう一度銃撃する。
彼の背中から、異形の黒い触手が伸びていた。
その触手はハナを弾き飛ばし、銃撃から逃がした後に消えた。
四人が、小屋の影に身を隠す。
――――現れたか。
彼女もまた、スレンダーマンの特徴については調査済みだった。
そして、ハナの弱点も。
ハナは鬼を倒すほどの強力なエネルギーを体に秘めている。なぜハナがそんな力を持つのかはわからない。しかし、そのエネルギーは攻撃に転じるときにしか発揮されない。つまり、ハナは防御においては人並みということだ。
だから、彼女はまずハナを撃ち、動きを止めた。あとは残る三人をなぶり殺しにする予定だった。
多少驚きはしたが、スレンダーマンの能力発現は予測済みだ。
仕切り直して、もう一度。
そう思ったが、彼女にある暗い感情が芽生えた。
人間を超える者たちの、驚くさまを見てみたい、と。
彼女は彼ら四人の能力の攻撃圏内に入らない位置に姿を現した。
その姿をとらえたハナ、ムクス、ホルンの顔に驚愕の表情が浮かぶ。
「…なぜ」
ハナが言葉を漏らす。
ムクスとホルンは、彼女を恨みがましい目で見つめる。
そして、彼女を知らない様子のスレンダーマンに、海が声をかける。
「フフ…」
「あなたたち、知らないの?」
「私は村長だよ」
ホルンとムクス、二人の異能力者を作った張本人。そして、ハナをこの場に差し向けた女。
彼らを狙撃したのは、ヤツカ村の村長・五十嵐海だった。
「新薬開発のために作ったホムンクルス二体は脱走」
ホルンとムクスを見て海はつぶやいた。
「未知の怪物スレンダーマン、そして鬼を倒す力の持ち主」
スレンダーマンとハナを見やる。
そして、言い放った。
「あなたたちは私の村にとって邪魔…だからここで、まとめて消す」
スレンダーマンがそれに反対する。
「させるかっ!」
海は瞬時にナイフを取り出し、彼に接近する。ナイフの斬撃を間一髪でかわし、彼は海の体に、長い腕による拳撃を繰り出す。海がそれをナイフでいなし、スレンダーマンの漆黒のスーツが裂ける。
それを見た彼に生じた一瞬の隙を見逃さず、すかさず海はナイフを喉元に突き立てる。
「くっ…」
その生死の境に置かれた状況。
刹那、彼の力が覚醒した。
「何っ!?」
海が状況を把握するより先に、高速で彼の背から触手が放たれる。
「はっ!!」
触手に命じ、海のナイフをはじく。
海はサブマシンガンを構えようとするが、それを許さず触手で縛り上げる。
「がはっ…私の完璧な作戦が…」
その後、応急処置で回復したハナが警察に通報。
殺人未遂と銃刀法違反でヤツカ村村長・五十嵐海は逮捕された。
人造人間の少年ホルンと超能力者ムクス、二人は特殊な力の存在を伏せて、孤児院に引き取られた。
学校に通い始め、普通の人間として生活を始めた。
そして、スレンダーマン――――本名、森本日向――――彼はいま、外国にいる。
自分と同じスレンダーマンを見つけるため、そして…
人間とスレンダーマンが手を取り合う、平和な世界をつくるため――――
戦いは終わらない…いや、これから始まる。
――あの事件から一か月――
――懲役40年――
――ドローンとサブマシンガンの入手経路――
――組織の関与――
次回 第五話 黄色の男 コウガ