第二話 スレンダーマン 前編
高校二年の文化祭で描いた漫画を小説に書き起こしたものです。長いので二話に分けました。
――――僕は少し前まで普通の人間だった――――
鬼の被害を受けていない平穏な町、イツカ町。
その中心部から少し離れた閑静な住宅街に住むひとりの青年。
ある日突然、彼の体は痛みを訴え始めた。
「ぐああっ…なんだ…この体の痛みは…」
メキメキと脳に直接痛みが届く。それに耐えながら家を出ようとする彼。20代の若者である彼はこの国ではモダンな『スーツ』という衣服に身を包んでバン、とドアをあけた。
痛みで、口で大きく息をする彼の体に、ひときわ大きな痛みが響く。
「ぐあっ…いったい、これは…」
体の痛みに悶えていると、どこからか少女の悲鳴が聞こえてくる。
その声のする方を振り向くと――
そこには、スーツも珍しいこの国で、見たこともないゴスロリ風の服を着た長い金髪の少女がいた。
「あの人…体が長い…」
そう言われて見てみると、驚いたことに、彼の手と足は異常なほど伸びていた。身長は2mをゆうに超えている。
街の人々も騒ぎを聞きつけ、家から出てくる。
(俺の体はどうなっている…いや、それよりここから逃げないと…)
悲鳴を上げられたことで、スーツの彼は少女の違和感に気付くことなく、その場から駆け出した。
彼は逃げ込んだ森で一人思案していた。もし彼の手足を見たら、人々は彼をどうするだろう。彼は、おそらく実験や研究の材料、もしくは見世物にされるだろうと考えた。きっと家には戻れない。独り者の身だが、帰る家がなくなるのは困る。
しかし、どうして自分の体は伸びてしまったのか、それが彼には分からなかった。両親はもう亡くなっているが、母親が異国のひとであっただけだ。母親の金髪は受け継いだが、親はどちらも背丈はふつうだったはずだ。
彼は、自分が怪物になってしまうのかという恐怖に震えていた。
悲鳴を上げたゴスロリ風の少女は、騒ぎになっている大通りをスッと抜け、裏路地に入った。
そこには、男子用の緑のチャイナ服を着た少年が佇んでいた。
「お待たせ、ホルン」
「ああ、ムクス姉さん…今のは?」
姉弟である二人は挨拶を交わす。そして、姉のムクスという少女が弟の質問に答える。
「あれが異国の怪物ね…ホルン!スレンダーマンが出たわよ。倒しに行きましょ」
二週間後、その隣の村に『鬼』と呼ばれる怪物が出現。無名の少女ハナが、これを倒した。
鬼を倒した彼女の前に、隣村の村長を名乗る女性が声をかけてきた。
ハナの住んでいるジッカ村から東にある、小さく閉鎖的な村・ヤツカ村。女性はその村の村長である五十嵐海だった。
「ふーっ…おなかいっぱい」
ジッカ村の食堂。
海からたっぷりご馳走してもらったハナは、空腹もすっかりおさまり、本題に戻る。
「それで…お願いって?」
海は、鬼を倒した彼女に『お願いがある』と言った。
「ええ…」と、先ほどまでのハナの豪快な食べっぷりを見ていた海も話題を切り替える。
「あなたは怪物を倒し、この村…いや、この国を救った英雄です。そんなあなたにしか頼めないことなのです…これを見てください」
海が液晶端末をハナに見せる。
そこに映し出されていたのは、黒いスーツに身を包んだ、手足の異常に長い男だった。
「背が高い男…これは…」
「外国の都市伝説…”スレンダーマン”です」
海はそう説明した。
「この危険な怪物を、あなたに倒してもらいたい」
ハナは少し思案し、人々の平和のためと思い
「わかりました。行きましょう」
と返事した。
海から、スレンダーマンはイツカ町に潜伏していると聞き、ハナは翌日出発した。
「へっくしょん」
一方こちらは、森で使われていない小屋を発見し生活していた青年。自分がスレンダーマンと呼ばれハナに狙われていることなどつゆ知らず、
「…誰だよ、俺のことうわさしてるのは」
とぼやいた。
そんなとき、彼の後ろの木陰から、何か物音がした。
「誰だっ!?」
ガサガサと木々をかき分けて出てきたのは、ゴスロリ少女とチャイナ服の少年だった。
それをみた彼は、本能的にあることを感じ取った。
「この子たち…普通の人間じゃない…!?」
次回予告
「私たちは…戦うことしかできない…」
「スレンダーマン、あなたを倒しに来ました」
「あなたたちはこの村にとって邪魔なのよ」
「俺に…出来るか…!?」
次回 第三話 スレンダーマン 後編