第一話 華姫
高校一年の文化祭で描いた漫画を小説に書き起こしたものです。
ここは、東の島国。木造の家屋が立ち並ぶこの国のある商店街は、毎日盛況であった。活気づく町とそこで暮らす人々は、不穏な”影”に気付くことが出来なかった…
ある日、謎の怪物がこの国に現れた。唐突に、大きな地響きを起こして。
『火消し』の町人たちが火の手の上がる家を壊していく。しかし、怪物はずんずん先を進んでいく。煙の上がる家屋の合間から、怪物の巨体が窺える。体表は黄色だろうか。裂けている口と角の先端はビビットな赤で、体色との激しいコントラストが映える。
木造平屋建ての家屋をゆうに超える10mほどの巨体が町を蹂躙していく様を、町人たちは止めることもできずに見ていた。
人々は、その怪物を『鬼』と呼んだ…
「ほわ~あ…」
村人ハナの朝は遅い。
おなかをすかせて出てきたのは午前10時。朝食とも昼食ともつかない食事を食べるためにハナは家を出た。
彼女は一人暮らしの幼い少女だ。深紅の着物姿に、この国ではあまり見かけない短い金髪が一目を引く。
彼女はお腹をすかせて、町の食堂『超昇亭』にやって来た。
「さて…今日のごはんは…決めた!ここにしよう!」
そう意気込んだ彼女は、ふと超昇亭の屋根の上に目を遣った。
「えっ…」
そこには、巨大な怪物が顔を覗かせていた…
『ウオオオオオ!!』
大きなうなり声をあげる怪物。それはまるで、自分と戦うにふさわしい好敵手を見つけたかのような…
「逃げろ!」
「鬼が出た!」
逃げ惑う町人たち。しかし、ハナにとっての問題は、怪物が現れたことではなかった。
その怪物がどこに現れたかだった…
「やめろーっ!!!!」
彼女の声は届かず、怪物は食堂を巨体で木っ端微塵に破壊した。
「うそでしょ…わたしのごはん…」
呆然とするハナ。その目に沸々と怒りが沸き上がる。そして、その目が暴れ回る怪物をとらえた。
「ちょっと…そこの鬼…」
彼女は叫ぶ。
「わたしの大事な朝ごはんをダメにするなんて、絶対に許さない!!!!」
右手を前に。足を前後に開き、ハナは構える。
「村の武闘大会で優勝したわたしの力…見せてあげる!」
そう言って彼女は大地を蹴り、高く跳躍。怪物の頭目掛けてキックを繰り出した。
「とりゃああ!!」
ぐしゃっと怪物の顔がひしゃげ、ズドンと轟音を立てて倒れる。
「ふう…何とか倒した…それにしても、朝ごはんどうしよ…」
どうやら朝ごはんだったようだ…
彼女は先ほど怪物を倒したとは思えないほど落ち着きはらい、汗を拭っている。
「すいません そこの方!」
「はい?」
ハナがおなかをすかせていると、若い女性から声をかけられた。
その女性は、ハナと同じように着物姿で、この辺りではあまり見かけない…やはりハナと同じ金髪だ。その髪は横でまとめられている。女性は名乗った。
「私は隣村の村長です」
「ふうん」
村長の女は続ける。
「鬼を倒してくれて感謝します…そして、あなたにお願いがあるのです」
次回予告
「あれが異国の怪物ね…」
「姉さん、今のは…」
「そんなあなたにしか頼めないことなのです」
「外国の都市伝説…」
「へっくしょん」
「この子たち…普通の人間じゃない…!?」
次回 第二話 スレンダーマン 前編