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白騎士物語  作者: 深山 葵
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二話 七騎士の円卓

微妙に遅れてごめんなさい


白騎士、ジグルド フォリオを形容する言葉は数多い。

第一皇女 セレスト アルテオンとの関係を指して


『姫君の懐刀』 『アルテオン皇国の七騎士が一人、白騎士』『姫君の情夫』『姫君を誑かし白騎士の称号を得た男』『拾われた犬』

その功績から


『落伍者の吐き捨て場であった竜騎兵を一番の栄誉ある兵科にした男』『北方戦役の英雄』『エイジーンの守護者』


その能力から

『妖精に愛された男』『妖精遣い』『妖精騎士』


このように貴賤問わず多くの人は彼を評した。

もっとも、彼はそんなものに頓着していないのだが。



アルテオン皇国は七騎士が統べる騎士団によって守護されている。

赤 青 緑 黄 紫 白 黒

七つの色を冠する騎士団はそれぞれに国を守護する意志の元、各々の裁量を持って活動している。

そんな七色の騎士団も定期的に集まり、それぞれの活動が干渉しないように活動を報告し合う軍議を行う。



「白騎士、ジグルド フォリオ遅参いたしました」


王城の一角、円卓を据えた部屋にそれぞれが率いる騎士団の色を纏った六人がそろっていた。


「遅いぞ、フォリオ卿」


叱責するのは全盛を過ぎてなお、分厚い筋肉の鎧を着込んだ荘厳な老年の男性。身に纏うは赤い装飾剣。


「そうだぞ、遠征していた黒と紫でさえ定刻までに到着しているのだぞ」


神経質そうな痩躯の男は苛立ちを隠さぬ声を立てる。

円卓に座る彼の代わりにそばに控える副官が携えるは青い宝石を埋め込んだ錫杖。


「このように遅れる者がいるのなら北の戦線から急いで戻ってくる必要もなかったですねぇ」


不快感を隠そうともせず、粘ついた怒りを向けてくる研究者然とした男性。

身に纏うは紫のローブ。


「遅刻常連の俺は何も言うまい」


豪快に笑い、責める気など毛頭もないのは大柄の青年。

身に纏うは緑色なのだがここに無い。代わりに緑騎士は緑の礼装を着るのが通例となっている。


「呼んでも来ない黒いのに比べたらこのくらい全然だと思うんだけれども」


周りに賛同を求めるのは太陽が人の姿を取って現れたほどの生き生きとした輝きを放つ女性。

身に纏うのは黄、というより黄金色の軽鎧。


「……」


非難を受けても、身に纏う黒いフルプレートの兜に遮られ、視線だけではなく表情も読めない。

フォリオ自身この黒騎士の素性は全く知ってはいなかった。


「では、全員揃った。始めるとしよう」


赤騎士の号令に全員の顔が引き締まった。

「まず、紫と黒の共同戦線による北部での作戦について。


国境を越えさせないようにするので手一杯で、とても攻勢に出られそうではないです。そもそもこういうのは騎兵中心の緑の仕事で魔法士が殆どの紫の仕事ではないでしょう」


「黒騎士団は数は少ないがその実力は他の騎士団に劣ることはない、それでも不足があると申すか」


「赤騎士様、そこに関しては黒騎士様に変わりまして副官の私から」


無言を貫く黒騎士のそばから前に出たのは副官だった。


「戦争の発端は国境付近で採掘される魔力石、これをオレンドと奪い合いになっていることにあります。それにこれがなければ紫騎士団の魔法研究は完全に止まってしまいます。これに危機感を覚えた紫騎士様は騎士団の半分近くを国境付近に展開しています。最近になって侵攻の兆候が確認されたことで黒騎士団に応援を要請、これ受諾したことで現在黒騎士団はほぼすべて国境に展開、侵攻してきたオレンドと対峙しています」


円卓の中心に据えられた地図には国境に展開された兵の配置図が駒を使って詳細に示されている。


「俺が出てもいいが、山がちなあの地域じゃ騎兵は向かんぞ」


「青騎士団は海が専門、出る幕ではありません」


専門外の二人はお手上げと言わんばかりの発言。


「空から敵を攻撃できる白騎士団が適任だと思います」


「俺も同感だ」


二人揃って白騎士団を推す。

フォリオ本人もこうなることは予想できていた。

だがそこに続くものは完全に予想の範疇を越えていた。


「そう?自分を推すのも気が乗らないけど今回は私たち黄騎士団が適任じゃないかしら?」


名乗りを上げたのは黄騎士団、武勇とともに魔導を極めた万能の戦士たちの集団である彼女らは膠着し泥沼化しつつある戦線を打破する切り札になりうる。


「ほう、大きくでたな。黄の嬢ちゃん」


「役不足とでも?緑の野坊主さん?」


二人は無言で睨み合う。


「本日の議はここまでとする」


割って入ったのは議長の赤騎士だった。


「ですが!」


「赤のおやっさんそれはねえぜ。白はどうせ掃き溜めだ。精々使い潰しちまえ」


「このまま続けてもお主らの主張は平行線のまま。沙汰はじきに下るであろう」


口調には一切の有無を許さぬという言外の意思表示があった。




「フォリオさまー白騎士さまーいいんですか?本当によかったのですか?」


「何のことだい?シルフィ」


部屋を辞して王城の廊下を歩きながら、シルフィはフォリオに詰め寄っていた。


「いけ好かないあの緑にです!あの方はいつも白騎士団を侮辱します、我慢の限界です!」


普段の快活で聡明な副官はいつになく顔に怒気を張り付けていた。

彼女は騎士家に生まれたが一人娘である彼女は婿を取らずに家を継ぐこととなり、女にして騎士となった。

魔法の才能のない女の騎士など扱いにくいだけで必要性もない。

どこにも相手にされず、やっとの思いで白騎士団にたどり着いた彼女は人一倍白騎士団に対する愛着、誇りも強い。

だからこそ異端扱いされることにたいして強く憤るのだ。


「シルフィ、君は竜騎士であることに誇りを持っているかい?」


「え?えぇ!もちろんです!」


「ならばその誇りに恥じぬ騎士であるんだ」


シルフィは虚を突かれたような顔を一瞬浮かべた後。


「はい!失礼しましました!」


言わんとしたことはすべて伝わったらしい、顔には自信が満ちていた。



正式な作法に則ったノックが来客を知らせた。


「あら、いらっしゃいジグルド」


「お呼びいただき光栄至極、第一皇女殿下」


目の前の姫君に最敬礼をとる。

すると彼女はふっと微笑んだ。

「二人だけの時くらい小さい頃の呼び名で呼んでくださいな」


あの日出会った時から子どもの可憐さが抜けて大人の美しさが花開いた彼女には不思議な魅力があった。


「では、姫様。お変わりなさそうでなによりです」

敬礼を解いて立ち上がる。


「ええ、あなたも壮健のようで安心しましたわ。さあ、座ってください。お茶を淹れますわ」


促されて部屋に設えられた椅子に座った。

彼女も向かいに座り、


「火の精霊の力をお借りしてもよろしくて?」


「みだりに精霊に頼るのはいただけませんよ」


「このくらいで見放されるなら精霊騎士になんて呼ばれませんよ」


「仕方ありませんね」


頼むよとフォリオは周りに漂う火精霊にポットの水を沸かしてくれるように頼んだ。

すると火精霊たちがポットに取りつき火を放出し始めた。


「精霊に愛されていますわね」


「それだけが取り柄ですから」


「あまり自分を卑下するものではありませんわ。フォリオ、貴方は白騎士としてエイジーンの城塞街を守る最優の騎士なのですから」


フォリオを見る姫様の瞳は喧嘩で負けて帰ってきた弟を慰める姉のよう、否そのものであった。

目の前の姫様にとってフォリオは手のかかる弟であり、フォリオにとっては至らない自分を支え導く頼りになる姉だった。

出会い、拾われたあの時から変わらないもしくは決められた形としてそれは二人の間に存在していた。


「そんな顔しないでくださいな。私の騎士様。貴方がいなければ恐ろしくて夜も眠れませんわ」


「ならば、臆病な姫様を守らなければいけませんね」


視線が交わされる。

互いに微笑み合った。

ポットの中の水はすでに湧いていた。

優雅な仕草で茶を淹れるのをフォリオは眺めていた。


「私の白騎士様、私を守ってくださいな」


次回投稿五月七日

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