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6 まずは一度めの試練でして。

…受験ツラい。

長めかも。

「いっちにー、いっちにー」



どうもこんにちは! 乙女ゲーム"キミウツ"代表悪役令嬢にしてゲーム内女子嫌われ者ランキング堂々一位の涼宮香です! ただいまランニング中! 元気に中庭を走っております!



「いっちにー、いっちにー」



騒がしい自己紹介はここまで。このテンションは意外とキツいのだよ!



乙女ゲーム"キミウツ"に酷似した世界に転生したことに気づいてから約2年が経ち、オレ、涼宮香は六歳になった。ちなみに誕生日は明日。なんと父上が誕生日パーティーとやらを開催してくれるそうな。

外部からお客様を呼ぶと聞いて不安だが、どうやら秀斗とフィー姉も参加してくれるらしい。安堵。

この2年は別に大したことはなかった…と思う。



オレは無事に初級水魔法、初級風魔法をマスターした。なんでこの属性なのか…答えは簡単、講師であるフィー姉の得意な属性だから。



それによってちょっとした回復魔法が掛けられるようになったため、オレの運動量は格段に増えた。少し前から木登りもしている。おもに腕と脚の筋肉を鍛えるのが目的だ…脳筋ではない、決して違う。



てなわけで冒頭部。オレはすっかり日課になったランニング(最近では屋敷の周りを二~三周)をしている。病弱もやしっこお嬢様とはおさらばした。熱を出すこともめっきり減って、涼宮家お抱えのお医者様はちょっぴり暇気味。たまにお菓子を持って庭に来てくれる。



そこまで変化はないが、見た目の説明をしておこう。



病弱もやしっこお嬢様から脱却したオレの身体は平均的な六歳女子のそれである。可もなく不可もなく、太ってもないが若干まだ痩せているかもしれない。



顔面偏差値は極めて高い。流石お母さん似だ。秀斗にお母さんの写真を見せてもらったことがあるけど本当にそっくりだった。美人なお母様だ…でもつり目で苦労したことだろうな。強気な印象を与えていた。かくゆうオレも勝ち気なつり目の厨二美少女さんだけどね。



「いっちにー、いっちにー……ゴール!」



うっし三周クリア! 明日から距離伸ばそうかしらん♪



とか思いつつ一息ついていると遠くから秀斗が歩いて来るのが見えた。二つ年上なはずだし、たぶん八歳。日本でいうと小学三年生くらいにあたるよな?

記憶が薄れてきている。



「かおり!」



オレに気づいた秀斗が走ってくる。そうだ忘れてたんだけど、秀斗は重度のシスコンだ。何時からかは分からない。オレも結構ブラコンなので気にしてない。敬語をつかうのも何時からかやめた。秀斗が嫌がったからだ。



「秀にい! 剣のお勉強?」



片手に握る木刀もどき(木の剣みたいな感じ)を指して首を傾げる。所々傷が目立つ秀斗は苦笑いだ。



「まあね…師匠には全然勝てないんだよ。一発も当てられない」



師匠とは妙齢六十か七十くらいのおじいさん。剣が習いたいという秀斗の珍しいお願いにやる気を出した父上が何度も頭を下げて頼み込んで、やっとのことで家に来てくれた頑固な男で、剣の腕は王国騎士団の隊員にも劣らないらしい。オレも一回だけ会ったことがある。ワイルドなおじいさんだった。



「あの人は規格外の強さだから勝てなくても仕方ないと思うけどな。勝てたら秀にい、国内最強になるよ」

「国内最強って…そうだね。僕も師匠レベルの剣士は見たことない」

「私も習いたいんだよね…お父様許してくれるかなぁ」

「難しいだろうね。お父様はかおりが大切だし、傷一つつけたくないんだって言ってた」



父上は親バカです、トテモ。

秀斗と仲良くなってから溺愛度が増した。それはもう目に入れても痛くないというくらいに。このあいだ「お父様のようになりたいです」と言ったら物凄く喜んで、最高級羽根ペンと『意外と簡単な魔術入門』という本を渡してきた。



いや、あれだよ。父上は無駄にイケメンだしさ、何してもカッコいいわけですよ。お父様みたいにイケメンになりたいですって意味で言ったんだけど…。



本は役にたってます。身体中を巡る血液に魔素っていうものが流れてるらしくそれを感じとる練習をしてみたり、無詠唱で魔法を使えるようにイメージの訓練をしてみたり。



無詠唱はやっぱり憧れるよな。異世界転移ものの主人公とかってチートさんでやたら魔力持ってたりして、色んな魔法を無詠唱で発動させて無双してるじゃん? ああいうのになりたい。



魔素の流れは分かるようになった。無詠唱の方は今のところ頑張ってるけどなかなか上手くいかない。十回のうち三回の割合で失敗する。学園入学までになんとか成功率百パーセントにしておきたい。



「それよりかおり、明日のパーティーのことなんだけど…何か聞いてるのかな?」

「何かって?」

「聞いてないんだね…お父様伝えるの忘れてるんだろうなぁ。後で教えるつもりか…びっくりさせようと教えないつもりだったのか…どちらにしても知ることになるし、僕が話しても平気だよね」



明日? 何か特別なことでもあるのか? サプライズ…は秀斗が話しても平気とか言ってるし違うよな。誰か来るとか? 驚くような人物って言えば…国王か……ん? 何か大切なことを忘れている気が…。



「明日のパーティー、かおりの婚約者候補が来るんだよ」



コンヤクシャ? コンヤク…あ。



「……あぁぁぁああああああ!!!」

「かおり!?」



やべえすっかり忘れてたぁぁあ! このままいくと第二王子と婚約させられてしかも嫌われて、恐れていたデッドエンドに近づくじゃねぇか!!


うぉぉ…どうにか手を打たなくてはっ…!!



「……秀にい、今すぐ髪を切りたいからお父様に内緒で町に出てもいいかな?」

「え? このあと美容師が来るんじゃ…」

「そんなのを待っている暇はない。一刻を争う事態なんだよ。私の命に関わることだから」



「分かったすぐに準備させよう! 馬車と護衛を用意するから少し待っていて!」



シスコンの兄さんを持つと楽だな。



「くれぐれもお父様には伝えないで」

「分かった!!」











◆◆◆


「かおり遅かったね、もう夕食だよ。今までどこに……かおりなんだいその髪型はっ!?」

「かおり!?」



目を見開いて詰め寄ってくる父上と秀斗。オレは鬱陶しいドリルがなくなって(・・・・・)とっても爽快な気分だ。

そう、オレはドリルもとい縦ロールをバッサリ切り落とし、スッキリ軽いショートヘアーになっていた。



「何かあったのかい!?」

「違うよお父様。私が自分の意思で切ったんだ」

「本当のことを言ってくれ! かおりは小さな頃から可愛らしいものが大好きで、ドレスも天使のような可愛らしいデザインのを選んでいたじゃないか…!」



家で切れるのに町に出たのは自由な髪型にしたかったからだ。どうせ縦ロールはそのまま、長さを切り揃えて終わりになるのがオチだろうし。



「最近は普段の服装もひどくシンプルなものばかりだろう!」

「動きやすい格好を選んでるだけだよ」

「そんな髪形にして、女の子なんだからもっと可愛い髪形じゃないと!」

「そろそろ暖かくなってくるしちょうどいい」



「せっかく薫に似ているのに!!」



なるほどね。なんでここまで食い下がるのかと思ってみれば…。



「…お父様は私をなんだと思っているんですか? お母様の身代わり、分身? それとも生き写しですか? ええ、そうですね。お母様の写真を見ましたが、確かに私とお母様はそっくりでした。瓜二つです。私の髪形がドリルではなくさらさらのロングヘアーならば本当に同じでした」



「いや、でも公爵令嬢だし…」



「関係ないですよね。女の子は可愛く、というのはまだ分かります。ですが『せっかく薫に似ているのに』? お母様に似ていれば好きな髪形に切ることも許されないんですか? お母様に似ていれば個人の自由は許されないんですか?

…それってお父様、私をお母様と重ねているんですよ。心のなかで私のことを第二の涼宮薫だと思っているんですよ」



いい加減ウザいです。オレはオレだっつーの。薫さんと重ねられて令嬢令嬢言われて嫌になる。



「お父様、私は涼宮薫ではありません。私は私、涼宮香ただ一人です。他の人と重ねられてもはっきり言って嫌なんですよ。それに行動を制限されるのも迷惑です。

私はちゃんと立場はわきまえています。令嬢として恥を掻かないように毎日毎日努力しています。たしなみの礼儀作法も裁縫もきちんと取り組んでいます。何が不満ですか? 結局お父様は私を大事だと言ってお父様の理想に縛り付けているだけなのです」


「……」「かおり言い過ぎ…」


「お兄様は黙って下さいますか? 何度も言います。私は自由が欲しいのです。誰かに依存されて縛られて閉じ込められるなんて御免です。そんなことなら私は令嬢じゃなくていい、家出をする覚悟もあります」

「……」


「何か言うことはありますか、お父様?」



父上は黙ったままだ。俯いて肩を震わせている。オレの声にゆっくりと顔を上げーー



「かおりぃぃぃいいいいい!!」

「うわぉうっ!」



泣いてた! 泣いてたよ大の大人がパッと見素敵なおじ様が一応公爵様が!!



「ごめんねかおりぃ重ねてるづもりじゃながったんだよぉ…つい薫と似でたから綺麗な髪をこんなに短く切っぢゃっだのが悲しがっだんだよぉ…」

「え、ちょっとお父様…!?」



「出でいぐなんて言わないでよぉ…お父様を置いで行かないでよぉ…」



イケメンが! イケメンが台無しに!



娘を好きすぎだろ父上! なにその別れを告げられた恋人にすがる彼女みたいなセリフはっ!!



「かおり…許してあげて…?」

「お兄様…」

「…今のお父様見ていると…なんだか残念な気持ちになるんだ…」



「かおりぃぃぃいいいぃぃぃ…」



うんオレもこれはないと思う。



「…分かった。お父様ごめんなさい。少し酷いことを言って」

「ヴヴんお父様が悪がったんだ…かおりに誤解されるようなごとを言っぢゃっだから…」

「お父様仲直りしよう?」

「ヴん……ありがとう」



別れようと告げた彼が思い留まったことで彼女は安堵の息を…もはやそうにしか見えない。



ガリガリと確実に体力と精神力を削られ、変な空間ーー泣きじゃくるイケメンと大人びた六歳児と居心地悪そうな八歳児ーーにため息が洩れそうになる。



「…でお父様、そろそろ泣き止んで」

「ヴん……」

「婚約者候補云々の話を聞かせて? 明日のパーティーのことも詳しく」

「わがっだ…」




父上の話を要約するとこうだ。


・明日のパーティーは屋敷の広間を会場にする

・開始時刻は夕方七時頃から

・他の公爵子息やご令嬢も招待している

・そのなかに婚約者候補の第二王子もいて、会場で顔合わせをするつもり





「参加者が揃ったのを見計らってかおりを紹介して、そのあと婚約者候補のご子息たちとかおりを引き合わせて…って考えてるよ」

「へぇー…」



面倒だなぁ。第二王子は勿論、婚約者候補というだけあって何人もの人と話さなくちゃいけないのか。しかもそれなりに身分は高そうだし丁寧に返答しなくちゃ…あれ? これってオレの誕生日パーティーだよな? オレが楽しめなくない?



「かおりはやっぱり嫌?」

「イヤって?」

「婚約者とか…相手を自分で選びたい?」

「それは…好きな人と結婚できた方が幸せだと思うから、選べるなら選びたいよ…。でも私は公爵令嬢なんだから政略結婚でも構わない。それに本当の性格を知ったら誰も結婚してくれなさそうだもん」



前世でも男に告白されたことない。ああ、女の子はあったよ? バレンタインに本命っぽいチョコを渡されたことも…なんとも複雑な気分を味わいました…。



「「本当の性格…?」」



訝しげな表情の二人。ごめん秀斗、たった今まで存在を忘れてたよ…。

オレのことをオレは教えない。この屋敷にいられなくなると困るから。だからーー



「ひみつ」



そう言って笑った。

眠い………カクッ。

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