5 魔法少女と友達になりまして。
ちょっと短め。
2017.10.21 編集しました
魔法少女パース・ドラニカルとオレは、廊下の隅で見つめあっていた。
「………いい加減認めろよ」
「………ナンノコト?」
否、オレは追い詰められていた。二人の間に漂う空気は冷たい。パースが一方的に冷気を飛ばしていた。
「見てたよね?」
「イイエマッタク」
「ボクが魔法使ったの見てたよね?」
「………」
ツツツと視線を反らす。ええ見てましたとも。猫に話しかける痛い様子も大袈裟なポーズも。それに似合わない呪文も聞きましたとも。
「……どうしてやろうかな……」
不穏な響きに悪寒が走った。取り敢えず自己紹介しとこうかなーそしたら手は出せないよなーとか思いつつ、事実を伝えることにする。
「その壺……」
「ん?」
「その壺はお父様が気まぐれを起こして市場で買ったらしい安物で、大して気にもかけてなかったですわ…」
「は!?」
そういやこの子オレに似てるな。なんというかまあ…雰囲気? 男っぽいしゃべり方のせいかもしれない。
見た目は女子っぽい。フワフワと栗色のツインテールが揺れて可愛い。顔だって整ってる。年はそんなに変わらないか?
膝たけまでのスカート。紺と白のメイド服は清楚かつ上品さを兼ね備えた制服だ。細い足が綺麗さを補強してると言うか。…いやオレ女だから。変態じゃないよ?
「マジか……最終手段の魔法まで使ったのに……メイド長のババア騙したな……」
「………えー、災難でしたね」
「本当に……魔法使えることは秘密なのに……」
相当ショック受けてる。それに何気に口悪い。
パースは暫くうじうじと愚痴を溢していたが、苦笑いのオレに気づいて目に光が戻った。
「そうだ…目撃者は始末、しておかないと…」
「うえっ!? ち、ちょっと待て落ち着け話せば分かる!! オレは別に誰かに言おうとかそうゆうのは考えてないし!!」
「信用できない。うっかり友達に口を滑らせるんじゃないのか?」
「それは大丈夫だ安心しろ! オレに友達は一人もいないし生憎今後出来る予定もない! 侍女とも仲良くないんだ! つまりオレは今完全なるボッチだ!」
始末の言葉に焦ってオレが万年ボッチだと披露すると相手が固まった。チャンスとばかりに、
「構ってくれるのは秀斗くらいだ! 父上は忙しいからなかなか会うこともないしな!」
「そ、そうか…」
「そうだ! オレはどうしようもない嫌われ者で家族以外にいい目で見られた記憶がない! 我が儘だったからだと分かって性格直しても離れた奴等は戻って来ないし、逆にこどもだから分からないと思ってんのか堂々と目の前で陰口叩きやがるし! 兄である秀斗にも最近まで嫌われてたな!」
「それはなんというかその…ごめん」
ケッ! あんの侍女の女、オレに向かって『公爵様ったらあんな子のどこが可愛いと思っていらっしゃるのだか。私のほうが優しいし気遣いできるし、あの子より可愛らしいのに』とかぬかしやがった。
鏡見ろよ! オレの方が(若干厨二っぽいけど)可愛いだろ!!
おっと憤慨してビビらせてしまった。悪い噂立ったら嫌だしな、自重しよう。
「えっと……友達になろうか?」
「え! マジで!?」
「う、うん」
気を使わせてしまった。まあそうだよな、豪い剣幕で「友達? 何それ食えるの?」みたいな…ちょっと違うか? そんなようなことを叫ばれて気を使わない人間なんていないか。いたら鬼だな。もしくは無神経馬鹿だ。
それにしても友達…案外嬉しい。
涼宮家には長男の秀斗とオレの二人しか子供はいない。親戚筋の話は聞いたことがない。侍女どもは大人だしウザいし、父上は結構偉い役職についてるらしいので話しかけにくい。だからオレは大抵独りぼっち。
社交界にデビューすれば友達も作れるだろうが、貧弱もやしお嬢様に参加はまだ無理だろう。
忌まわしき学園入学まで友達できないぼっちライフが続くと思ってただけにうれしい。
「ありがとうパール!!!」
手を握って笑顔で叫んだオレにパールは顔を赤くした。
「喜びすぎ…」
「だって嬉しいし! パールは初めての友だちだから。ぜっっったいに大切にする!」
「……もう分かったよ。それにしても、あんたは貴族のお嬢様らしくないな」
「あー、そう?」
確かに最近は貴族のご令嬢らしくなさいって怒られる。前世の記憶が蘇って考え方がズレたせいだと思う。言葉使いだけはなんとかそれらしくしてるつもりなんだけど。
「もっと威張り散らしてるって話を聞いたことあったから…」
「いやいや、何を? 威張れるようなものは何も持ち合わせてないし」
「……肩書きとか?」
「肩書きって…公爵令嬢?」
それ肩書きなのか? ただの立場というか地位みたいなものだと思うのはおかしいのか?
んー。分からんけど…
「自分が公爵だったら威張るかもしれない。それまでの実績やら評価やらがあるから。自慢したくなるだろうさ」
「じゃあ今は?」
「今のオレは一人の令嬢にすぎない。いくら親の権力が大きかろうが関係ない。自分では何一つ、威張れることをやってないし、自慢出来ることなんてないだろ」
実際親の脛かじって偉ぶる奴は何様のつもりだよって感じだ。金持ってりゃ偉いのか? お前の稼いだ金じゃないだろうが。
オレの回答にパールは苦笑いした。
「あんたって変わってるよ」
「誉め言葉として受け取っておこう。あと、あんたじゃなくかお…いや、コウと呼んでくれない?」
「コウ?」
「名前の音読み。こっちの方が馴染みあるんだ。それにあだ名っぽい」
前世で友達にそう呼ばれてたんだよ。『光』の音読みはコウ。男っぽかったからヒカリよりコウの方がいいって。
「…本当に令嬢らしくない。自分のことをオレなんて言うお嬢様は初めて見た」
「いつもはわたくしって言ってるよ。でももうパールには性格バレてる。今更だろ?」
「うん、今更だ」
ケタケタと笑いあう。最初より遥かに穏やかになった空気。だがそこに邪魔が入った。
「こらパール!! 貴方そこで何をして…香お嬢様!?」
「ゲッ」
「何処で油を売っているのかと思えば…パール、貴方にお話があります。ついて来なさい。…それでは、失礼致します」
パールは年配のメイドさん(推定年齢40代後半)に耳を捕まれ、引きずられていった。どこか恨めしそうに睨んできたので手を合わせておいた。ごめんねと頑張れの意をこめておこう。
なにはともあれ、念願の友達ゲットだ。よかったよかった。
この調子で従者とか作れるといいな。