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4 魔法少女に会いまして。

2017.10.10 修正しました。

2017.11.25 手直ししました

「お騒がせしました……」


 父上の執務室でオレは父上、秀斗、フィー姉を前に深々と頭を下げた。

 突然込み上げた懐かしさに大泣きしたオレは、おろおろするフィー姉たちを散々困らせた挙げ句、執務をしていたという父上に抱き上げられても涙が納まらず……本当に迷惑を掛けてしまった。


「カオリに何もないのならそれでいい。悩みがあるなら言いなさい、いつでも待っているから」

「そうですわ、カオリ。私はフィーお姉ちゃんですもの。なんでも打ち明けてくれていいのよ?」

「カオリが辛かったら助けるから、何でも教えて」

「ありがとうございます……」


 おおう閉じかけた涙腺がっ! 三人とも素敵ッス!

 目尻に溜まった涙を静かに拭った。

 さて、いつものオレに切り替えなきゃ。切り換えは大事だ。


「お父様、早速悩みがありますの」

「なんだ」

「わたくし……魔法に魅了されてしまったのです!」

「「「は!?」」」


 食いつき凄いな。お魚三匹釣れました!

 こほんと咳払いをひとつ。おい誰だ四歳児じゃねーだろとか思った奴。


「植物園でマーフィー様の魔術を見たのです。植物たちにお水をあげていたところが素敵で、まるで水の妖精さんのようでしたののよ! わたくしもあのような素敵な魔法を使ってみたいのですわ!」


 ほらどうよ、四歳児らしいだろ。ちゃんと目も輝かせたんだぜ?

 オレの"悩み"に父上は苦々しい表情を浮かべた。


「水の妖精か。でもカオリ、私は反対だ」

「どうしてですの? 小さい頃から学んでおいて損はないように思いますけど……?」

「それも一理ある。ただ、魔法は便利だが危険も付きまとうものだ。それに、まだ幼いうちは魔力を暴走させてしまうことがある。酷くて城一つ落ちたという歴史もあるしな」

「「城一つ!?」」


 声を上げるオレと秀斗。城一つって何さ! 戦場にこども送れば圧勝じゃね!?

 フィー姉は知ってるみたいだった。エルフは長寿らしいから疑問はない。ん? フィー姉っていくつだ?


「なぜ暴走が起きるんですの?」

「簡潔に言えば、感情の制御が出来ないせいだ。思い通りにいかなかったり嫌なことがあったり。そうして溜まった負の感情を爆発させると起きる」

「魔力は身体中に流れていますの、言うなれば命の源ですわね。枯渇すれば昏睡状態になり、最悪の場合死んでしまう。暴走を自力で止めることは難しいので、魔力がなくなるまでどうにもならないのですわ」


 フィー姉の補足説明。魔力が尽きるまでって…オレ危なくない? ゲームじゃ魔力量多いらしいし。

 ……考えろ。ここで引き下がったらどうなる?


 習える年齢まで待つか。

 こっそり自分で練習するか。

 魔法に関わらず生きるか。


 この世界で生きる上で魔法と関わらないのは難しい。使えるなら使いたいし。かといって一人であれこれ勉強するのは大変だ。習える年齢まで待つのがよさそうだが、それではゲームのシナリオどおりだ。

 なによりオレは、早く使えるようになりたい!!


 やっぱりどうにか魔法を修得したい。

 父上を納得させるためには……これに賭ける!

 オレは表情を一変。不安げな顔から少し唇を尖らせる。眉も寄せて、


「……お父様。お父様はわたくしが自分を御することも出来ない病弱もやしっこお嬢様だと、そういうんですの?」

「もやしっこ!? そうではないが……」

「わたくしに駄目と言って魔力の暴走を起こしたこどもの例を紹介し、原因まで説明。その上で『だから駄目だ』と念を押す。それはつまり、わたくしがそのこどものように感情を抑えられない、我慢が出来ないわがまま娘だとおっしゃりたいのでしょう?」

「カオリ…?」


 急に饒舌になったオレにフィー姉は驚いている。ふっ、いまオレは女優モードなのだ。


「…たしかにワガママですわ。今日も大泣きしてお父様を困らせましたもの。それに、今までもたくさんワガママを言いましたわ。今だってお仕事の邪魔をしていますし……そうですわね。わたくしは一生・・魔法に触れずに生きる方がいいのかもしれませんわね」


「カオリ、そうじゃない……」


「魔法を学びたい……これもワガママですわよね。わたくしは、お父様の優しさに漬け込んで好き勝手な要求をしていた愚か・・・ですわね」


 ここで大きく嘆息。驚愕するお父様を視界に収め、ゆっくり儚げにスマイル!!


「もういいですわ。わたくしは甘ったれだったのです。公爵令嬢としてあるまじき姿……反省も兼ねて、もうお父様にお願いするのはやめ(・・)にしますわ。

 お時間を割いていただいた上、ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」


「ええ!?」


「フィー様もお兄様も、ごめんなさい。わたくし、もう決心がついたのです。わたくしは一生部屋で、一人寂しく(・・・・・)過ごしますわ。切れてしまいますが…素敵なご縁がありましたこと、感謝いたします」


「「カオリ!?」」


「では失礼いたしました」


 おしとやかに儚げに、病弱令嬢のように。四歳児としてはおかしいかもしれないが、んなことは気にしたら負けだ!

 オレの落ち込み具合(見た目のみ)を見た三人はアワアワと言い募る。


「待ちなさいカオリ! 私はカオリのためを思って危険なんだと伝えたかっただけであって!」

「そうですわよカオリ! 私も善意で教えただけで悪意はありませんの!」

「カオリ! 僕は…!!」


「しかし…それに許可はくれないのでしょう?」


「する! だから一人になるなんて言わないで! いいですねお父様!?」

「許可しますわ! 私が責任を持って授業します! いいですわね公爵様!?」

「いや、でも」

「「いいですね(わね)!?」」

「あ、ああもちろん構わない!!」


 即決ですね。僅か30秒ですか。

 何でフィー姉と秀斗が必死なのか分からんけど、解決したしいいか。


「ありがとうございますフィー姉、秀斗!」

「フィー姉?」「秀斗!?」

「あ……」


 素が出てしまった~~!!


「い、いえ。フィーお姉ちゃんとお兄様」

「カオリ、フィー姉と呼んでくれないかしら」

「カオリ、秀斗って呼んでくれない?」

「え!?」


 何故に!? こっち的には心の中の呼び名なんで楽なんだけどさ! フィー姉は兎も角、実の兄を呼び捨てはどうなんだ!?

 秀斗の代わりになる呼び名は……秀斗お兄様……秀斗兄上……秀斗…兄様……秀………。


「………分かりました。フィー姉、秀にいさま」


 満面の笑みですか。ちょっと怖い。


「カオリ……お父様を置いていくな…」


 こちらも怖かった。





 ◆◆◆


 雑談タイムを脱け出して部屋に戻る。

 父上は仕事をやる気がないな。オレのせいかもしれんけど、執事のイケメンがとても困ってた。イケメンの困り顔はイケメンだった。


 長い廊下を歩く。やたら広いんだよねうち。迷子になる気がしなくもない。

 階段の踊り場を通るその時、ガシャンと物が割れる音と悲鳴が聞こえた。


「あああ!!」


 こっそり覗き見。

 メイドらしい一人の女の子が床に落ちている割れた壺を見ていた。


「やっちゃった! どうしよ、これはめっちゃ高い壺だから絶対触るなって言われてたのに! トトの阿呆! 怒られるのはボクなんだぞ!」


 飼い猫と思われる黒猫に話しかけている。かなり焦ってるな。

 あとそれ全然高価じゃないから。

 父上の気まぐれで買った、見た目が高級品なだけの壺らしいから。


「ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ!!! 早く直さなきゃ! ーー土の妖精達よ、我、パース・ドラニカルに集い、力を貸し与えたまえ! "復元のマジック"!」


 大袈裟な手振りに謎な詠唱。なんだよ"復元マジック"って。まさかあれが呪文だとか言うんじゃねーだろうな。

 オレの思いに反して、割れた壺の破片が宙に浮いた。カチャカチャと音を立てて、元の形に近づいていく。


「…ふう。どうにか元通りになった。目撃者もいないよ…な………」


 少女の視線とかち合った。オレはいつの間にか、階段から身を乗り出していたようだ。


「………見ました?」

「………さあ?」

「………見ましたよね?」

「…………………いいえ?」

「……見たんですね」

「…………」




 こうしてオレは魔法少女と出会いましたとさ。




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