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1 悪役令嬢になりまして。

乙女ゲームは未経験。

学園生活編を始めるにあたり、1話から手直ししています。内容が変わってしまうかもしれません。ご了承下さい。

「カオリ、この子はレイヤ君。お父さんのお友達の息子さんでね、大切なお客様だから仲良くするんだよ?」

「ふじしろれいやです」


 おとうさまといっしょにへやにはいってきたおとこのこに、ワタクシのしこうはていししました。

 まるでおにんぎょうさんみたいにきれいなおとこのこは、ワタクシのようすにくびをかしげました。


「えっと、かおりさん。よろしくおねがいします」


 きんいろのかみはキラキラしました。おとこのこのみどりいろのめと、ワタクシのめがふとあったとき、ワタクシのあたまにげきつうがはしりました。


 "乙女ゲーム"と、しらないことばがおもいうかびました。


 乙女ゲーム? 


 なにかしら。あぁ、よくおねえさまがあそんでいましたわね……おねえさま? ワタクシにおねえさまなんていたかしら? …そうよ、おねえさまはちいさいころからワタクシにいじわるしてきたじゃない。


 ちいさいころ? ワタクシまだよんさいですのよ? ちいさいころもなにも、ワタクシは……。


「…っ!」


 げきつうがはしりましたわ。あたまがいたいのです。

 なにかをわすれているきがいたしますの。

 あわてるおとこのこのかおが、めにはいりました。ひときわあたまがいたくなって…ワタクシのいしきはとぎれました。



 ◆◆◆



 …目が覚めるとそこはお姫様が使うようなベッドの上だった。ピンク色のフリルが至るところにつけられた、実に乙女なベッド。足元には疲れはてた男が一人、オレの手を握ったまま眠っていた。


 長い眠りについていたような気分だった。まだ夢を見ている気がした。

 小さく頬をつねる。痛かった。




 小さく紅葉のような手のひら、ふよふよした柔らかい肌。オレのものとは思えない、傷一つない雪のように白い腕。



 うん。幼女だ。





 ……いやいやいやいや! 現実逃避は良くない。何でこうなってんのか分かってはいるんだ。ついさっき思い出したばっかだけど。


 まぁ…結論から言えば、オレはもれなく乙女ゲームの某キャラクターに転生しましためでたしめでたしチャンチャン♪




 ………………。




 めでたくねぇぇえええええ!! 全然めでたくねぇよなんだよこの仕打ちは!!


 …落ち着け。平常心だ平常心。取り敢えず状況を整理しよう。







 オレは涼宮 (ヒカリ)。前世では、だが。

 オレとか言ってるけど女ね。元現役女子高生。言葉に違和感あるな…仕方ない、死ぬ直前まで女子高生だったんだから。



 オレはある雨の日、氾濫する川で溺れかけていた猫を助けようとして死んだ…はずだ。知り合いの猫だったから助けようと思ったんだったかな。


 それなりに泳ぎは得意だったし平気かなとか考えて飛び込んだとこは記憶にある。猫は助けた。

 そいつを河岸に乗せてやって、川から揚がろうとして流されたんだった。で、冷たい水に呼吸出来なくて溺死。


 気がつけばここにいたって訳だ。





 次。ここが乙女ゲームの世界だと気づいた理由。それにはオレの過去、家族が関係してる。



 オレは日本のど田舎に生まれ、ど田舎で育った。


 ど田舎はど田舎だ。ゲームセンター、カラオケ、ショッピングモールなんてございません。あるのは寂れた商店街。元気なじいちゃんばあちゃんがほのぼの営業中。おまけに行くのに一時間以上は費やす。


 ど田舎に住んでいたオレ達子供は、都会の子供達が楽しく遊園地行ったり食事行ったり?してるときに野山を駆け回ってたんだぜ! まあ、それしかやることなかったんだけどね。


 これは余談、オレの容姿は中の上くらいだった。あ、けして過言じゃない。周りの女子ら(と言ってもクラスメイトの15人プラスお婆さん)を中として客観的に判断しました!


 最初…野を駆け回る前だからオレが4~5歳の頃の写真は、そこそこ可愛い少女だった。身体も細く、白い肌、肩までの黒髪。アーモンド型に近い目で、不安そうな顔で笑っていた。


 これが急変、小学生になったオレの姿は、小麦色のたくましい、ショートヘアーでニカッと歯を見せる少年のような女子になっていた。二人の兄を持っていたオレは彼らと一緒に遊び、日焼け止めを塗るのも忘れて走り回っていた。

 日焼けして真っ黒、さらに泥だらけで帰ってくるオレに、母さんはおかんむりだった。



 と、本題はここからだ。

 ど田舎生まれのオレの姉貴は外嫌いなインドア派だった。


『土で汚れるなんてまっぴらごめん、時間の無駄。室内で勉強する方がよほど有意義だし役に立つし意外と楽しいのよ?』


 小学一年生にしてこのセリフ。父さんは困り果てた。

 小学校の図書室は小さい、本屋も少ないから読書を奨めようにも本がない。では何を…と考えに考え抜いた父さんは、四年生の冬、クリスマスプレゼントとして姉貴に一台のゲーム機を授けた。


 首を傾げた姉貴は「やってみなさい」と言われ、ゲーム世界に足を踏み入れた。そして…見事に嵌まった。

 そのカセットこそ乙女ゲーム。

 女の子が好きそうなカセットが分からなかったらしい父さんは、そこら辺に積んであったのを適当に選んだそうだ。


『きっと運命の出会いだったの! ゲームは私を選び、私もゲームを選んだ。相思相愛だわ!!』


 姉貴は連日、寝る間も惜しんでゲームに没頭した。

 食事を忘れ、母さんに怒鳴られながら飄々とゲームを続け、成績は下がり、残念度は増していった。驚きの変わりようだった。



 そんな感じで一人と一つは出会ったんだけど、そのゲームの中でも姉貴がやたら気に入っていたのがオレの今いる世界。確か【キミしか映らない ~あなただけの王子様を探して~】、通称『キミウツ』。

 ネーミングセンスを疑う。もう少しどうにかならなかったのか?


 姉貴がこれを手にした翌日。朝5時に叩き起こされ、大きな隈がある姉貴に興奮ぎみで語られたのは記憶に新しい。3ヶ月前のことだ。


『ねえねえヒカリ、聞いてよ!! これ見て、昨日買ったばっかりなんだ! それがもうメチャクチャ面白くてさー、たった一時間だけって思ってたのに気づけば朝なのよ! 身分差恋愛学園ファンタジーがテーマで主人公は平民の特待生、珍しい光魔術の使い手で容姿端麗って設定でぇ───』


 以下長いため省略。

 一人一人の攻略キャラのルートを長々と説明されネタバレされ、いい加減嫌になってきたところで、


『ヒカリもやってみなさい。絶対に嵌まるわ、私が保証する。いい? 来月末までに少なくとも三人は終わらせるのよ?』


 と押し付けられて呆然。


 姉貴は怒らせると怖いから必死になって期限ギリギリに3人×3ルート終了。解放されたと喜んだのもつかの間、「まだ隠しキャラを含めて九人残ってるわ」と課題が追加された。

 結局終わったのは死ぬ間際、ほんの数日前だった。

 地獄の日々……目の下に出来た隈は頑固でなかなかとれなかったんだよなぁ。



 あー、戻ろう。


 ここがゲーム世界だと気づいた理由はズバリそこにある。気絶するときにいた男の子が、攻略対象者の一人にそっくりだったのだ。髪色、瞳、顔の形。幼いものの、オレの知るキャラクターの面影があった。




 さてと、困ったな。

 このままシナリオが進むと色々ヤバイんだよね。


 要するにオレは今、ネット小説で大人気な転生ってやつをしてる。しかも乙ゲー。こういうのって大抵、ヒロインか悪役令嬢になるものなんだろ? オレの転生先ももちろんモブじゃない。



 後者───悪役令嬢。


 白銀色の背中まである髪は、例に漏れず強烈なドリルヘアー。ルビーレッドの綺麗な瞳、悪役定番のつり目。子供ゆえの幼さがあっても隠しきれない悪人面。

 その名も『涼宮 (カオリ)』。



 ……ちょっと待てツッコミどころありすぎでしょ!!


 何でこの歳でドリルが板についてんの!?

 パッと見が厨二病の重症患者だよ!

 ラスボスかよ魔王なのかよ!!

 悪役が似合いすぎておかしい…!


 ハハハ……………もうやだ。何も分からない…分かりたくない……。



「ぅ……かおり起きたのか? 身体の調子はどうだ、何ともないか?」


 男が顔をあげる。カオリの記憶では父親。お父様って呼んでたか?


「ええ。大丈夫ですわ、お父様」


 それっぽい返しをすると、安心した男(父上とでも呼ぼう)はオレの頭をゆっくりと撫でた。


「カオリは生まれつき身体が弱いから、無理をしちゃいけない。辛かったらすぐに言うようにしなさい」

「はい」


 身体が弱いのか……そういえばゲームのイベントで倒れるシーンがあった気がするな。

 一人納得しているとドアが控えめにノックされた。入室の許可を出せば、オレとそっくりな銀髪碧眼の少年が顔を覗かせた。


「失礼します…お父様、少しいいですか」

「秀斗。どうかしたのか?」


 秀斗!? カオリの兄で攻略対象者じゃん! いきなり遭遇するとかツイてないわ……。

 幼い秀斗は父上の前に進み出た。


「教えていただきたいことが。あの、数学なのです、が……」

「今は……他の者に教えてもらいなさい」

「あ………わかり、ました」


 部屋を去ろうとする秀斗。なんかぎこちない…動きがカクカクしてる。あら、父上もだ。

 ホケーっとしてると睨まれた気がして、思わず呼び止める。


「まってお兄ちゃん!」

「!?」

「お父様、オ…わたくしは平気ですわ。一緒に行ってください」


 危ない危ない、オレっていいかけた。

 驚いて固まっている秀斗だが、どうも父上と一緒にいたいようだった。

 なら都合がいい。オレはもう少しゲームについて思い出したいし、その為に一人になりたいのだ。


「カオリは倒れたばかりだろう?」

「平気です。きちんと大人しくしていますわ」

「そうか…?」

「もう! お父様は心配性ですわね。ねぇ、お兄ちゃん?」

「う!? あ、ああそうですね?」


 笑ってお兄ちゃんと呼び掛けると挙動不審な動きを見せた。…そういえば今まではお兄様とか言ってたんだっけ? 急に変えられちゃビビるか。


「とにかく、わたくしは大丈夫です! もう少し休みたいのですわ」

「…分かった。ゆっくり休みなさい」

「はい。さようなら、お兄様、お父様」

「おやすみ、カオリ」

「あ、お、おやすみ………」


 二人が出ていくのを見送って、振っていた手をおろす。よし…さっきの続きを考えるか。


 オレが転生した涼宮香は、どの攻略対象者を選んでも一度は出てくる面倒な女だ。隠しキャラのルートにも出てきてたから驚いた。そして結末は決まっている。


 結末は2パターン。他人に殺されるか、自分で死ぬか。

 今までの悪事がバレて、婚約破棄に爵位剥奪に国外追放。この場合は自殺する。国外追放されなくても修道院へ送られて、耐えきれずに独り寂しく死ぬ。

 他殺はバットエンド時に起きるもので、結ばれることのできなかった主人公もしくは攻略対象者に恨まれ憎まれ、殺される。殺され方は様々、呪い殺されたり刺し殺されたりだ。


 詰んだ。人生が四歳で詰んだ。


 だが、生憎オレは死ぬ気も殺されてやる気も微塵もない。

 さてどうする?

 参考になるものでもあれば…あ、あるじゃん!


 姉貴は乙女ゲーム好きだったけど、乙女ゲーム転生ものの小説も大好物だった。こちらも大量に読まされたので覚えてる。

 本の中の悪役令嬢は何をしていた?


 思い付くのは…役をやりきる、国外に脱走する、ひたすら死亡フラグを折りまくる。


 一番は論外。せっかく生きてるのにこれから酷い人生歩むとか嫌すぎる。

 二番は家柄上無理に違いない。娘を甘やかす父上は公爵の位を棄ててくれるかもしれないが、可能性としては低い。娘のワガママだとしてもさすがに聞かないだろう。

 三番が妥当だよな。


 死亡フラグ回避……主人公らに関わらないとか? いやこのままだとオレには婚約者として攻略対象の一人、第二王子が宛がわれる。あの気絶する前に見たキラキラした男の子だ。まずはそれを避けることを考えよう。


 貴族の婚約は政治的な意味合いが強いらしい。マナーも重要視される。だとすれば、原作の涼宮香は完璧なレディーってどころか? ヒロイン虐めてたけど。

 つまりそのイメージからかけ離れてしまえば……それって今の、素のオレのままいればいいんじゃ……


 男言葉を使う、テーブルマナーは最小限しか知らん、おしとやかさを求められても難しい。気品なんてナニソレ。

 ありゃ? そのままでいいっぽいぞ。貴族としてマナーは学ばなきゃいけないだろうが、それ以外は現状維持か。


 まさかの解決。


 ……………………………寝るか。

 そうしてオレは夢の世界へ旅立ちましたとさ。



2017.10.8 一部修正しました。

2017.11.25 手直ししました。

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