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火氷創主の百合姉妹  作者: 赤神幽霊
屋敷焼却編
32/32

最終話 旅立ち まだ見ぬ大地へ三匹と

 人類圏の最南に位置する町。

 その町の重要な施設の一つに、南部方面のより円滑な開拓と治安維持のため、現在最も栄える央都との連携などを目的として作られた、央都出張所というものがある。

 そんな出張所の一室、前文明の機器を利用した通信室にて。

 コロナは何度目かになる師匠との通信を行っていた。

 隣にはもちろん、フロンがいる。

 その肩ではユララが名前の通り揺らめいていた。

 当然というか、かたわらに雷獣たちの姿はない。

 まさか町中を連れて歩くわけにもいかないので、町の外で身を隠してもらっている。

 理由は簡単。

 このような辺境にやって来る人間たちの中には、一山当てるのが目的な者もいて。

 通常なら滅多にお目にかかれない雷獣などは、そんな彼らからすれば獲物おたからとしか思われないのだ。

 束になって挑んでもまず勝てない、という問題を無視した馬鹿が現れたが最後。

 返り討ちだけならまだしも、巻き添えで何人死傷者が出ることやら。


「師匠。機器の移送は終わったわよ」

「町もすっかり片付いたよ! パパ!」


 数日前、町に帰還してすぐ女の子の引き渡しを行い、屋敷の調査報告を済ませてからというもの。

 コロナとフロンは、調査の際に確保した機器の移送を手伝いつつ。

 どうせ旅立てないのならと、ついでに町の片付けにも参加していた。

 その甲斐あって、ゴリラっぽい店長のお店も安泰……もとい町も無事に立て直せた、というのが今日であった。


「――お手伝い、ご苦労様でした」


 ディスプレイに映る師匠が、微笑みながら姉妹にねぎらいの言葉をかける。


「これでやっと旅立てるのね……」


 やれやれと、わざとらしく肩をすくめて見せるコロナ。

 隣でフロンが「そうだねー」と、にやにやしながら相槌あいづちを打つ。

 町の手伝いを提案したのはコロナだからだ。


『フロン以外は基本的に見捨てる』


 そんなことを普段から口にしているけれど、助けが必要な相手には割と協力的なのだった。


「ねね、お姉ちゃん、機械調べなくていいの?」


 にやにやしたままのフロンに訊ねられ、


「い、いいのよ」


 コロナはぴくりと体を跳ねさせ、顔を背けて答える。

 誰の目に見ても、欲求と反対のことを口にしているのは明らかだ。


「相変わらずですねぇ……」


 見慣れた光景故、師匠までにやにやする始末である。


「そんなことより!」


 居たたまれなくなったコロナは、語気を強めて話題の転換をはかった。


「エクレールさんに“お話”があるんだけど、居るかしら?」

「ああ彼女なら――」


 ちらりと後ろを見やる師匠。

 機械を操作し、ディスプレイの表示範囲を拡大する。


「ごぼっ、ごぼごぼごほっ!」


 コロナもフロンも「……えっ?」と、我が目を疑った。

 それもそのはず。

 エクレールが球状の水の中で溺れているなどと、どうして予想できようか。


「大事な娘を危険な目に遭わせてくれたようですので、お仕置き……お礼をと思いまして」

「ねぇパパ、今お仕置きって……」

「お礼です」

「師匠、私にも完全にお仕置きって言ったように聞こえたけど……?」

「お 礼 で す」

「んごごぶごぶごぼぼぼあぼぼご……っ……――――」

「あ、バチバチさん落ちた」

「うん、落ちたね……」


 にこやかな表情を一切崩すことなくエクレールを沈めた義父ちちおやに。

 姉妹揃って、ちょっと引いた。


 ……――。


「それで、どうしてエクレールさんがお仕置きされてたのよ?」


 すっかり伸びてしまったエクレールに憐れみの視線を送りつつ。

 コロナはどこか呆れた様子で訊ねた。

 一体彼女が何をやらかしたというのか。


「それはですね、今回の屋敷の調査の件でエクレールが嘘を吐いたからです」

「嘘、ねえ……。全部流れちゃったからなのか、確かに幽霊なんてどこにもいなかったけど。……ひょっとしてそれだけ?」

「まさか。その程度でお仕置きまではしませんよ。前科もないので、するなら厳重注意です」

「パパ、だったらどうしてなの?」

「問題は、調査を利用しコロナを処刑人として鍛えようとしたことです」

「ええー!?」

「……そういうことね」


 処刑人という物騒極まりない単語にフロンが驚いた。

 それは外道を行き過ぎた者を、その成果諸共始末する存在。

 雷創主エクレールの現在の肩書きの一つだ。

 どうやらエクレールはコロナに、処刑人としての役目を将来的に担わせるつもりでいる、ということらしい。


「コロナは驚かないのですね」

「央都で暮らしてた頃、何度か誘われてたから。それに……」

「まったく、いつの間にそんな勧誘を。踊りの稽古の時でしょうか……っと、失礼しました。続きをお願いしますね、コロナ」

「え、ええ……」


(何度か現場に連れて行かれたことは、黙っておきましょう)


 もしバレたら、エクレールは帰らぬ人となるだろう……。

 コロナにはそう思えてならなかった。


「あの屋敷には変なことが幾つかあったから。まるで感じられない幽霊の気配に、不自然な結界の穴。おまけに部屋から脱走した形跡がないのに徘徊はいかいしてる異形までいたし」

「もしかしてエクレールと“お話”がしたいというのは……」

「そうだよ。こっちの状況も落ち着いたし、そろそろ屋敷の様子が変だったことについて、問い詰めようと思ってたんだ」


 ……確認目的で。


 倒れ伏したエクレールを見るに、もうその必要はないようだが。

 報告書にも不審な点として記載しておいたので、師匠が先んじて取り調べてくれたのだろう。


 ……ちょっとやり過ぎな気がするけれど。


 フロンを危険な目に遭わせてしまったのは、妹を一人にしたコロナの落ち度だし。

 コロナ個人としては、人手を欲するエクレールの気持ちも少しは理解しているから。

 毎回ではないだろうけれど、異形の相手をしたり現場が不潔な環境だったりと。

 そういった場所に何度も足を運ぶのは、誰だって嫌だろう。

 だから、特に怒りの感情はない。

 ――とはいえ、たまに手伝うのならまだしも、処刑人になるつもりなんてコロナにはないのだが。


「ああ、そうだったんですね。すみませんコロナ。『良い経験になっただろうさ』などと、悪びれずに“ほざいた”ものですから、勝手に制裁まで加えてしまいました」

「ねぇお姉ちゃん……? わたし今、お仕置きどころか制裁って聞こえたような気がするんだけど」


 黙って二人の話を聞いていたフロンが「バチバチさんどうなるの……?」と不安げにコロナを見た。

 フロンを抱き寄せ、その頭を「大丈夫よ」と撫でながら、


「やっぱりエクレールさんの仕業なのね。始めから私に処理させるつもりだったと」


 コロナは納得した、という風に頷く。

 犯人がエクレールでなかったら、別にいるはずの“誰か”を探す羽目になるところだった。


「そうなります。さてコロナ、エクレールをどうします?」

「どうもしないって。それより師匠、“通信が終わってから”エクレールさんに伝えて」

「お安い御用ですよ。内容は何でしょう?」


 コロナは少し考えてから、


「“気が向いたら手を貸すから、次からは正直に依頼してよね!”でお願いします」


 ちょっぴり恥ずかしそうにしながら伝言を頼むと、ぺこりと一礼した。


 ――それから十数分ほどして。

 またしばらくできそうにない、家族でのたわいもない会話をしていると。

 エクレールがどうにか目を覚ましてくれたので。

 目覚めたばかりで本調子ではない彼女には悪いと思ったが、これだけは訊いておかなければと、雷獣たちが一緒に来たがっていることを告げた上で彼らの処遇を訊ね、


「あいつらの好きなようにさせてやってくれ」


 という、半ば投げやりな返答を受け取ってから。

 数刻の後に出張所での通信を終え、その他の雑事も完了させた後。

 姉妹は町を巡って旅の支度を済ませていった。

 全てを終える頃にはすっかり日も落ちて。

 暇そうにしていた雷獣たちと合流して夕食なども済ませた後は、外から町を眺めたり、みんなで戯れたりしている内に眠くなり――。


 やがて、出発の朝がきた。

 青々とした空の下、日の光を浴びてうーんっと気持ち良さそうに伸びをしたコロナとフロンは――。


「それじゃあ、行きますか」

「しゅっぱーつ!」


 元気な声を大地に響かせ、まだ見ぬ土地へと歩き始めた。

 水霊クラゲのユララ。

 雷獣のファレーシュとコフレネ。

 三匹の、新たな旅の仲間たちと共に――。


 ――Fin――

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