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火氷創主の百合姉妹  作者: 赤神幽霊
屋敷焼却編
22/32

第二十二話 敵か味方か

 一階、入り口から一番奥の部屋。


「…………」

「…………」


 コロナは、フロン共々黙ったまま目の前の“それ”を見つめていた。

 部屋を調べていると、フロンの肩でぷるんぷるんしていたユララが突然降り立って。

 何事かと、二人してユララの向かう先へ視線を投じると、ユララの目指す床石の継ぎ目に違和感を覚えて。

 確かめたところ、そこだけ僅かな隙間があったのだ。

 水霊クラゲのくせに、なかなか目聡めざとい。

 ……ユララの目はどこにあるのか。そもそも目はあるのか。

 なんて疑問はさて置いて。

 その床石には、本体や隙間に指をかけられそうな箇所はなく、どうにも仕掛け扉のようで。

 どうせ焼却処分が決まっているし、いちいち面倒くさいので石を打ち砕いたところ、“それ”が出てきてしまった。

 それ――“地下へと続く階段”が。

 覗き込んでみると、中には深い闇が湛えられていて、奥が見通せない。

 内側に封じられていたのか、湿気を含んだ異臭や腐臭混じりの空気がのっそりと這い出てきて、姉妹揃って顔をしかめずにはいられなかった。

 あんぐりと開けられた大きな怪物の口腔こうこうも、きっとこんな感じなのだろうか――。

 なんて、コロナは呑気にも思っていたり。

 ただの現実逃避だ。

 だってまさかそんな、物語のお約束じゃあるまいし。

 本当に地下があるだなんて。

 ああでも、そういえばまだ、水を管理する部屋とかは見つけてなかったなー、なんて。


「……はぁ」


 コロナはとても憂鬱な気分だった。

 だって、地下があったということは――。


『まずは一階を見て回ろう。“地下があったら二階を任せるから”』


 地下があったら二階を任せるから。

 コロナの脳内で反響を伴いながら再生される、過去の己の声。

 言った。屋敷の入り口で、確かに。

 どうしてそんなことを言ってしまったのか。

 いや、あれはフロンをなだめるため……だけど!

 しかし、約束は約束である。

 フロンが忘れていない限りは守らなければ。

 屋敷の中では、実験体の成れの果てが未だに活動している。

 それがはっきりしている以上、できれば一人にしたくないというのに。

 事実、既に何体も焼いているのだ。

 ああもう、どうしてこうなるの!


「ねえ、ねえ! お姉ちゃん! これ地下への階段だよね? どう考えても地下室あるよね!?」


 フロンが嬉々として、見たままの事実を確認してくる。


「そ、そうみたい、ね……」


 目の前に階段があるからには、コロナは最早、頷くしかない。


「というわけでお姉ちゃん、二階の調査は任せてね!」


 ――お願いっ、忘れてて……! というコロナの祈りは、やはり天には届くことなく。

 不受理とばかりに天井にぶつかり、床へと叩きつけられた。

 いっそ、ここを塞いでいた床石みたいに、階段も粉砕してしまおうか。

 そんな考えがコロナの脳裏をよぎり……。


「おっと火が滑っ……」


 言い終えるより先に氷が階段を覆い尽くす。

 幾層にも重なったそれは、意図的に焼き尽くそうとしなければ突破できそうにない。


「お・姉・ちゃ・ん?」


 表情はにっこりとしているが、フロンの声色には隠し切れない怒気が含まれていた。

 これ以上はまずい。

 経験則からそう判断したコロナは素直に謝ることにした。

 いつの間に肩までよじ登ったのか。

 ユララも何かを察したらしく、頭を横に振りながら二本の触手を交差させて罰点を作っていた。


「……ごめんなさい」


 コロナが謝ると同時に、階段を守護していた氷が消失する。


「それじゃあ二階は任せてくれるよね?」

「わ、わかったよ……。でも、ほんとに一人で大丈夫?」

「へーき平気! 心配要らないよ!」


 フロンは「ねー?」と、ユララに語りかける。

 妙に賢い水霊クラゲは、フロンに同意とばかりに頭を縦に動かしてみせた。


(――この子、実は敵なんじゃ……?)


 もしかして、フロンとの分断を狙った罠なのでは。

 階段のこともあって、試しに疑いの眼差しでじっと見つめてみる。


「…………?」


 不思議そうにぷるぷるするだけで、逃げも隠れもしない。

 フロンに影響されているだけのようだった。


「どうしたの? なんだかユララを見つめてたけど……」

「賢い子だなぁって思っただけだよ」


 考え過ぎかな……と首を傾げるコロナの前で。

 フロンに「よかったね」と言われたユララは、嬉しそうに飛び跳ねていた。

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