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火氷創主の百合姉妹  作者: 赤神幽霊
屋敷焼却編
21/32

第二十一話 いただきますと悪夢の一端

 少し前とすぐ後ろに、囮と攻防を兼ねる光源代わりの白い火球を従え、屋敷の一階を回る姉妹。

 いつもと変わらない様子で前を行き、部屋に入る際には先に入って安全を確認していくコロナ。

 書斎のような小部屋を見つけ、今回も同じようにして確認を終えたコロナに手招きされて。

 廊下にて、通路の警戒をするという名目で待機させられていたフロンは、後から足を踏み入れ、扉を閉める代わりに薄氷を張る。

 今回の薄氷に付随する効果は防音と幻惑。

 張った本人と火創主であるコロナならば簡単に突破できる。

 一方、それ以外の干渉に対しては、薄いくせに馬鹿みたいに頑丈だ。

 せっせと有益な資料がないかと棚や引き出しを漁るコロナの姿を、フロンもそれにならいながら、何とも落ち着かない気分で見つめていた。

 ホルターネックのドレス風ワンピース。

 肌の白に、ワンピースの赤がよく映えている。

 コロナが纏う、露出度の高い衣装のその胸部。

 横から覗いた柔らかそうな二つの膨らみは、そうならないと知っていても、今にも零れるんじゃないかとフロンをどきどきさせていて。

 段差を越えたりしゃがんだりと、震動が伝わる度にその膨らみはぷるるんと揺れて、フロンの“食欲”を実にそそる。

 移動で生じた微風で舞い踊るスカートは、下着が見えそうで見えない絶妙な具合で。

 ひらりひらりと扇情的に翻るそれは、その都度もしかしたらと期待を抱かせる。

 歩けば必然的に右左と動くお尻なんて、眺めていようものなら、今すぐにでもそこに顔を埋めたいというフロンの衝動を引きずり出してしまうというか……もうやっていた。

 腕を回した太腿の、もちっとした感触も堪らなくて。

 こちらにも顔を埋めつつ、すべすべのお肌を撫で回す。


「……あの、フロン? 動けないんだけど……」


 不意をつかれたはずなのに、倒れるどころかバランスを崩すこともなく。

 下半身を拘束されて困惑するコロナに構わず、そのまま顔を背中に移動。


「ごめんお姉ちゃん。わたし、我慢できない」

「――フロン?」


 フロンは呼ばれても何も答えず。

 つぅーっと、コロナの真っ直ぐな背筋に沿って何度も舌を這わせ、執拗なまでに脇腹を撫で上げてから、肩甲骨に頬擦りしたかと思うと、今度は首筋を舐める。

 それから二の腕を持ち上げて腋をぺろぺろ。もちろん二の腕も忘れない。


「ぁっ……、んっ……」


 くすぐったそうにするコロナを気にすることなく、もう片方の腋と二の腕も容赦なく舐め回す。

 これだけされてもコロナは拒絶する素振りもなく、むしろされるがままで。

 それをいいことに、フロンはついにコロナの胸の実りに手を出した。


「ひゃん!」


 年より幼く見える見た目通りにして、同時に、コロナらしからぬ可愛らしい悲鳴が上がった。

 腋の下から前に回されたフロンの手が、コロナの胸に二つある、ほかほかふっくらパンケーキを、ぎゅむっ! と強めに、鷲掴みにしたからだ。

 かと思うと、今度は優しく繊細な手付きで指を這い回らせ、最初はふにふにと軽く、それから本格的に揉みしだいて……。

 コロナは堪らないとばかりに口元を片手で押さえ、声を殺して耐えている。

 それを知りながら、フロンは赤いワンピースをずらしてパンケーキを露わにする。

 赤い長手袋をした手が口元にあてがわれ、より艶めかしくなったコロナのおかげで、フロンはますます止まれない。

 コロナに体の向きをくるりと変えさせると、ふわふわなケーキの先端、普段はその存在を潜めている小さく可愛らしい苺が、今やぷっくりとその存在を主張していた。


「いただきます」


 手をコロナの背に回して抱き寄せ、ちろちろと舌先で苺を味見したフロンは、そう言うと“かぷり”。

 歯を立てないよう注意しながら、ケーキを優しくくわえ込んだ。

 唇と舌でケーキと苺を味わうフロンの頭に、コロナの空いている方の手が、そっと抱き寄せるように添えられる。

 話せない時にコロナがする、好きなだけどうぞの合図。

 それを受けたフロンは存分にコロナを味わって……。


――……――


「……ふぅ。まったく、フロンったら、こんなところでだなんて。びっくりしたよ?」


 着衣の乱れを直しているコロナは、ちょっぴり呆れ顔だった。


「うぅ、ごめんなさい……。自覚ないかもしれないけど、お姉ちゃんのその格好、ふるふるひらひらーって、誘ってるようにしか見えないんだもん……」

「うぐぐ……。誘ってるつもりはないけど、そう言われると反論できないよ……」


 話す合間に態勢を整え、小部屋の探索を再開。

 見つかった術に関する資料の一部を、回収ないし転写して次へ向かう。

 通路の角を前にした辺りでコロナが止まった。


 ――ぺちゃ……。ぺちゃ……。ぺちゃ……。


 びしょびしょの布を踏みつけたような音が、一定間隔で聞こえてくる。


「フロン、構えて」


 声を潜めて告げるコロナに、


「わかってる」


 と、フロンも小声で返しつつ、いつでも動けるよう身構える。

 ユララがいそいそとフロンの髪に隠れた。

 角の向こうから、熱量ある何かが近づいている。

 防衛用のものか、実験用のものか。

 いずれにせよ、どんなおぞましい外見の存在が現れるのか。

 緊張と覚悟を持って見つめる先で――。

 曲がり角から“それ”が姿を現した。

 その時一瞬だけ、フロンには、コロナから強い怒気が溢れたように感じられた。

 ……一見すると“それ”は、女の子に思えた。

 少なくとも顔と胴体はそうだった。


「いっ……!」


 上げそうになった悲鳴を、どうにか堪える。

 知らない内に、足が一歩後退していた。

 連動している火球も、それにならう。


「……りたい……。おう……に……かえ……よ……。……うさん……、……かあ……ん……」


 まだ幼いその女の子は、うわごとみたいに呟いていた。

 焦点の定まらない目から涙を流しながら。

 半開きになった口から、涎を零しながら。

 既に人の物ではなくなった下半身を。

 タコさながらの、ぬめぬめとした赤黒く太い触手を、懸命に動かして。

 姉妹の存在に気づいた様子もなく、じわり、じわりと迫ってくる。


「フロン……。あの娘、凍らせてもらっても、いいかな?」


 暗雲の下、妙に穏やかな海原を想起させるコロナの声音が、呆然としていたフロンの耳朶じだを打つ。

 凍らせて、その後あの娘をどうするの――?

 そんな問いが頭に浮かぶけれど……。

 それを訊いてどうするんだと思い直し、口にするのを止める。


「わかった」


 女の子が火球に触れる前に、フロンの氷が彼女を封印した。


「ありがとう、フロン。寒いと思うけど、少しだけ待ってて。ごめんね?」

「火球にあたってるから大丈夫だよ」


 暖をとりつつ、コロナの様子を見守る。

 女の子を冷静に観察しているコロナの表情が、その背後に回った途端、険しい物へと変貌した。


「お姉ちゃん……?」


 胸騒ぎがしたフロンは不安げに呼びかける。

 並行して、フロンも女の子の近くに向かおうとすると――。


「ねえフロン。やっぱり、外で待っててもらえたりしないかな?」


 視線をフロンに移すなり、表情を微笑みへと切り替えたコロナは、柔らかな声でそう告げた。


「な、何で……?」


 表情も声音も意図して作られたもの。

 どう取り繕ったって、今はそれがわかる状況だ。

 なのに、わざわざそうしてみせるということは……。


「そんなに、酷いの……?」


 そう口にしながら、フロンは止めた足を一歩進めていた。


「できれば、見せたくないなぁ、なんて」

「それでもわたしが見るって言ったら?」

「……後悔しても知らないよ?」

「わかってる」


 フロンはコロナの隣に立ち、女の子の背面を目にして――。


「うっ……」


 思わず口元を手で押さえ、後退った。

 腰の上から肩甲骨の間辺りまで、穴だらけにされた背中は、まるで蜂の巣。

 肩甲骨から上と、僅かに残された腰には、赤い水疱すいほうがぶくぶくと生じては弾けている。

 そうして滴る血液は、背中の穴や触手生物と化した下半身へと吸い込まれていく。

 首の裏や腕からは、色とりどりのくだが伸びている。いや、突き刺されていると言うべきか。

 どこかに繋がれていたであろうそれを、力任せに引き千切ったのだろう。

 ほとんどが途中で断面を晒していた。

 吐き気を堪え、頭に視線を移すと……。


「これって――!」


 忘れたくても忘れられない。

 術師の男を迎撃したあの夜、黒い獣たちの頭部に見られた、赤黒い水晶体。

 それが、切り開かれた後頭部から脳に接続されていた。


「あ……あぁ……」


 言葉を紡ごうとしても、口が強張って発音できない。

 コロナが見せたがらないはずである。

 単品であるのならともかく、まさか接続された状態で、それも人に……。

 見かねたコロナに抱き寄せられ、背中をさすってもらって、ようやく少し落ち着いたフロンは、


「お姉ちゃん。この娘、どうなるの……?」


 無意味な問いだ。結末なんて目に見えている。

 そんなことは自覚しているけれど。

 それでも、フロンは訊ねずにはいられなかった。


「この娘の水晶はあの獣よりも大きい。だからまだ息があるみたいだけど……。それも時間の問題だと思う」


 凍り付いた女の子の、残った人間部分の頭を撫でながらコロナは、優しい顔のまま告げる。


「ねえフロン。少しだけ、耳を塞いで後ろ向いててくれる?」

「……その娘を、殺すんだね?」

「…………」


 コロナは答えない。

 その沈黙は、どう考えても肯定で。

 フロンはじっとコロナの目を見つめて――。


 くるりとその身を反転させ、耳を塞いだ。

 白炎に照らされた通路に、青が閃いた。

 フロンが振り返った時、そこにはもう、半異形と化した女の子の姿は……。

 影も形も、残ってはいなかった。

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