第十三話 一人品評会
クラゲ溢れる町中に、そこだけはクラゲの数が極端に少ない場所があった。
上空から見ることができたなら、町中にぽつんと、透き通った表面が太陽の光を受けてきらきらと輝く、涼やかな氷の花が咲き誇っているのを確認できるだろう。
花弁の先端は遠目にはわからない短く細かなトゲが無数に存在し、その鋭利な先端が幾匹ものクラゲを捕えて吊している。
氷花の中にはなぜかクラゲだけが見当たらないことから、花はクラゲのみを押し出すようにして開花し、その際に周囲にいた彼らを捕らえたものと思われる。
半径十数メートルほどの氷の花の中心。
ぽっかりと空いたその空白に、建物など余計なものを一切傷つけることなく、器用に花を咲かせたフロンがぺたんと座り込んでいた。
啣えた触手を美味しそうにちゅるちゅるとしゃぶりながら、周囲にある小さな氷箱の中身をうっとりとした顔で、どこか艶めかしい吐息混じりに眺めている。
氷箱の中には、フロンが捕まえたらしいクラゲが閉じ込められていた。
近くにいたクラゲを片端から捕らえては、鮮度の良い食材を選ぶ料理人みたいに触手を目利きして、気に入ったら氷付けに。
口に合いそうなものを見つけたら、とりあえず含んで確かめていた。
「えへへぇ……。ひゃまんにゃぁい……」
一人だけ至って平和そのものといった風情。
町の惨状には目もくれず。というか気づいていない。
しかしフロンのおかげで、ゴリラな店主のお店は結果的に守られていた。
お店の中にいたクラゲも、今や一匹残らず姿を消している。
何せ、一番最初に選別の対象になったのだ。
流れていかないように水場の根元から凍てつかされて、後は一匹ずつフロンの一人品評会へ。
いつもなら姉の制止があるけれど、どういうわけか今日はそれがないので、ならばと遠慮なく興じていた。
力を使っているのでやはり寒いらしく体を震わせているが、止める気はないらしい。
お気に入りをしばらく眺めては、氷花が捕らえたクラゲをその氷花の蔓で引き寄せて。
やれこれは太過ぎるだの、しなやかさが足りないだの、滑らかさが微妙だとか、表面の凹凸感が駄目だとか、うんうんと唸っている。
どうしてそんなに一生懸命触手を選別する必要があるというのか。選別した触手で何をどうするつもりなのか。
ただ口に含んで、水気や食感を楽しむというだけのことでは決してない、ということは確かだろう。
姉が熱に苛まれながらも平気な顔を装いクラゲ処理の用意をしている一方で。
フロンは真剣そのものといった表情で、クラゲを……というよりクラゲの触手を選び続けていた。
寒気にその身を小刻みに震わせることも厭うことなく……。




