魅力が上がりました!
カリカリカリ。
白い紙の上に鉛筆が数式を刻んでいく音が部屋に響く。
カリカリカリカリカリ。
最後の一文を書き終えたところで、少年は視界に映るステータスを確認する。
「やったあ、算数のレベルが7に上がった。
おかあさーん、算数レベルあがったよ。
見て見てー」
お昼ご飯の準備をしていた母親が、少年のステータスを確認した。
「やったじゃない、正人」
「うん!あ、お昼ご飯食べたら縄跳びして体力と器用さのレベル上げしてくるね」
「はいはい。じゃあ机を片付けてから、手を洗ってきてね」
これは、2046年のごく一般的な家庭の様子である。
2016年に登場したVRは、今ではごく当たり前のものとなった。
常時展開とまでなったVRによって、人々の生活はより便利に、快適になった。
生体埋め込み型VRチップは、痛覚を伴わない注射、通称スタンプによって全ての人に無償提供されている。
視界の中に任意でウィンドウを開き、インターネット接続可能になったのだ。
当たり前になったVR技術とスマートフォンなどのアプリ。
それらが融合したのは当然の結果だった。
そんな中で生まれた一つのアプリ。
【ヒーローメーカー】
全ての事象を経験値として、自分自身のステータスを鍛え上げる。
キャッチコピーの『君の物語の主人公は君だ』という言葉の通り、コツコツと何かをするだけでそのレベルが上がる。
【ヒーローメーカー】はあっというまに世間を席巻した。
今や履歴書にレベル記入欄まであるほどに。
特にRPGの様なゲーム感覚で子供たちが勉強するようになったということで、保護者たちからの大歓迎を受けるようになった。
初期は【国語】、【算数】、【理科】、【社会】の4教科だったステータスも、毎年新たな項目が更新され充実していった。
そして、遂に新たな概念のステータスが追加された。
【魅力】
何の説明もなく自動更新で登場したこのステータスは、世間を賑わすこととなった。
「なあ、俺この【魅力】って何やれば上がるかよくわかんないけどわかる?」
「俺、こないだ彼女とデートしたら経験値10入ったぞ」
「まじかー。俺、彼女とかいねーし無理じゃん」
「あいつのステータス見てみろよ、【魅力】レベル85だぜ」
「やべえ、あいつまじモテるのな」
「あいつブスのくせに【魅力】レベル100越えてる」
「うわ、マジだ。
でもあんな不細工なのにすげーな。
あ、でも【魅力】が高いってことは、あいつ不細工じゃないってことじゃないのか」
「えーっと、付き合うならやっぱ【魅力】80が最低ラインかな」
「だよねー。【魅力】低い不細工とかマジありえないーい」
「聞いてよー、こないだ【魅力】5から告られたの。
ちょっとひどくない?
あたし【魅力】75あるんですけどー」
「うそ、そいつかなりありえないんですけどー」
【魅力】が人を計る数字になってきた3年後、メーカー公式サイトに【魅力】の説明文が記載された。
『【魅力】は、恋愛対象になる相手との、恋愛感情を持った肉体的接触によって経験値が貯まります』
「やっぱ【魅力】が高いと、遊び過ぎて本命にできないっしょ」
「うんうん、いくら可愛くても【魅力】80とかひくわー」
「結婚相手にするなら絶対に【魅力】30以下じゃないと、病気とか怖いよね」
「だよね。もう【魅力】レベル100とか、どんなけーって感じ」
「さすがに【魅力】100はどんなイケメンでもないわー」
「こないださ、ちょっといいなって思ってた人のステータス見たら【魅力】90超えててさぁ」
「それはないわー」
「ねぇあなた、どうして最近ステータスを見せないの!?
もしかして【魅力】上がってたりしないわよね?」