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神は我らにロックンロールを与えたもう

作者: 桜井あんじ

 僕はロックが好きだ。


 僕の母はビートルズの大ファンだった。彼らが来日した当時、母はまだ夢見る乙女といった年頃だった。学校で禁止されたにも関わらず、彼女は会場まで足を運んだ。もちろんチケットなど持っていない。それはちっぽけな女子高生である彼女に入手できるような代物では無かった。それでも彼女はリスクを冒してまでも出かけ、会場の周りをただうろついた。憧れのリンゴ・スターと同じ空気を呼吸するために。

 幼いころの僕の子守唄は全て、ビートルズのベスト盤に入っている。「ヘルプ!」「イエスタデイ」「ラヴ・ミー・ドゥ」「ミッシェル」・・・・エトセトラ、エトセトラ。中でも僕のお気に入りは、「イエローサブマリン」だった。ひたすら牧歌的なメロディーの繰り返しには、なぜか、子供だった僕の心を沸き立たせ、同時に落ち着かせる力があったものだ。

 

 10代になり、擦り切れるまで聞いたレコードの数々。その名をいちいちここに記すのは無粋だろうか。KISS、ガンズ・アンド・ローゼズ、メタリカ、ニルヴァーナ、ラモーンズ、そしてレッド・ツェッペリン。学校の友達とバンドを組んだ。楽器を、ろくに弾けもしないままかき鳴らし、歌い、叫び、騒いだ。

 いつしか僕は大人になった。そしてロックンロールも、僕とともに歳をとった。ロックンロールは今や、時代遅れの年寄りの音楽という位置づけになりつつある。ミュージシャン達も、歳をとった。かつての端正な容姿は見る影もなく、ぽっちゃりと丸くなった顔を、インターネット上の動画に覗かせているのを見かけることもある。ある者は殺され、ある者は自殺し、ある者は別な人生を歩んだ。たくさんのバンドが解散した。

 しかし、それでいいのだ。

 ロックンロールとは何か。

 その問いに、僕はこう答えよう。

 ロックンロールとは、ロックという存在そのもの、ロックという生き方そのものなのだ。そしてそれだけが、ロックンロールの存在意義でもあるのだ。

 ジョン・レノンやシド・ヴィシャスを見れば分かる。彼らは、彼らの音楽的なアレコレなんかではなく、存在そのものによって、今日ですらあれだけのカリスマ性を保っているのだ。彼らという存在そのものが、ロックンロールなのだ。

「意味が分からない」と君は言うか。

 俗物め。お前は何も知らない。俗物だ。


 理解というのは、いわば脳髄の肉体的快楽に過ぎない。自己満足であり、マスターベーションであり、体制への迎合であり、帰属欲求の充足に過ぎない。人は「理解」という、単純で、射精にも似た、分かりやすく原始的な快楽を与えてくれるものをいつでも好む。

 そしてこれこそが、ロックンロールの「美」と真っ向から対立するものだ。

 僕は断言する。この世の「美」を享受するために、この世を「理解」する必要はない。

 「美」とは単に美であり、そこに「理解」などという、脳味噌のごく表面的な働きのごとき低俗なものが入り込む余地は無い。言い換えれば、「美」とは神の技であり、脳などというものは、所詮人間の稚拙な身体機能の一つに過ぎない。

 ロックの美とは、自由への崇拝であり、芸術至上主義であり、創造性への挑戦であり、耽美主義であり、理不尽さへの怒りであり、悪魔崇拝主義であり、平和への願いであり、自己改革の希求であり、・・・・いやそんな名称はどうでもよいのだ。これは人間の崇高なる「精神」の、「理解」に象徴される、より下位のレベルからの脱却の話だ。

 

 さあ、君も、心を研ぎ澄ませ。脳ではない。心だ。精神だ。そしてあのギターのリフが天をつんざく音を聴くのだ。そうすれば、君にも感じるはずだ。


やはり僕は、ロックが好きだ。

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