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青年、保護者となることを決める。

話のストックの関係上、連日更新とはいきませんが、あまり間が空かないようにはして参ります。

「デイル、あんたなんか、やらかしたんだって? 」

 まだ若い女の声にデイルが視線を向ければ、『踊る虎猫亭』の裏口から、黒髪の女性が出てくるところだった。

 ケニスの妻のリタだ。

『踊る虎猫亭』は、この若夫婦が切り盛りしている宿である。


 リタは、デイルが幼い女の子をわしわし洗っている姿に、ぎょっとする。

「隠し子? 」

「なんでその発想になるんだ? 俺の幾つの時の子だよ」

 デイルは呆れたように返してから

「森ん中で拾った。親の死体もそこにあった」

 と、端的に返す。リタはそれを聞きながらまじまじと少女を観察して、その痛々しい様子や他人種であることに気付く。そばに落ちていた、ボロボロの布きれにも目を止めた。

「この子が着ていたのって、まさかこれ? またこれ着せるつもりじゃないでしょうね? 」

「あー……忘れてた」

「ちょっと待ってなさいよ」

 リタは踵を返して裏口の中に駆け込んで行った。

 とりあえず汚れを落とすことは考えていたデイルだったが、替えの服のことなど全く思い至っていなかった。

「 " デイル、*****? " 」

「ん? 現在、疑問、……今の誰かってことか? リタ、ここの女将だよ」

「……? りた? 」

「そーだ、リタだ。」

 こくん、と首を傾げるラティナと言葉を交わしている間に、リタが戻って来た。手には布などを色々抱えている。

「その様子じゃ拭く物も用意してないんでしょ! これ使いなさい。こっちは私の昔の服よ。この子には大きいと思うけど。後、下着! 」

「あー……悪い、すまないな、リタ」

「何よその微妙な顔。こないだ縫ったばかりの新品よ。さすがに古着の下着穿かそうとは思わないわよ」

 下着を色気の欠片もなく差し出されて、微妙な顔となったデイルに、リタはずけずけと言う。

 リタはこういう女だ。そうでなければ、冒険者相手の店などやってられないのかもしれない。


 バスタブからラティナを抱き上げて出し、リタから渡された柔らかな布で覆う。水分を拭き取られながら、ラティナはリタに指を向ける。

「デイル、リタ? 」

「ああ。そうだよ」

「リタ、ラティナ」

 ラティナは自分に指を向けると、リタにぺこんと頭を下げた。

「ご挨拶できて偉いわねぇー」

 リタはにこにこ笑って、ラティナに視線を合わせてしゃがみこむ。この女将は子どもが基本的に好きだ。ケニスとの間にも、早々に授かることを望んでいることも、デイルは知っている。

「リタ。ラティナ、魔人族の言葉しかわかんねぇから」

「そうなの? じゃあ、あんたどうやって会話してんの? 」

「呪文言語と同じだから、単語位はなんとかなる」

「ふーん、で、どうする気? この子? 」

「とりあえず、店で『緑の神(アクダル)の伝言板』で調べてからだな」

 ラティナはデイルの手を借りず、渡された服を身につけていた。自分の身の回りの事は一人でできるらしい。

 そうでなければ、生き残ってもいなかっただろうが。

 ラティナは見た目以上にしっかりとしているようだ。


 ラティナの着替えが済む間に、デイルは自分の荷物を裏口から店の中に入れた。

 靴の替えまではなかったから、着替えを終えたラティナを再びデイルは抱き上げた。リタの後から裏口に入り、厨房を通ると、店の表へと抜ける。

 カウンターの内側で一人で店番をしていたケニスの隣を抜けて、カウンターから外に出る。


 店はそこそこの人数が食事をしており、そこそこの賑わいだった。

 この店は、その性質上、昼前と完全に日が落ちた頃が忙しくなる。今はケニス一人で回せていたらしい。


 カウンターの一角にリタと向かい合って座る。

「さて、何を調べて欲しいの? 」

「名前はラティナ。魔人族。この条件で捜索が出されているか。もしくは、手配されているか、だな」

「そうね。それは必要ね」

 リタは頷いて、カウンターの内側に設けられた『緑の神(アクダル)の伝言板』と呼ばれている板状の物に手を滑らす。

「ラウハ、セッゲル、ヨナーディ」

 リタの言葉に反応して、板は淡い緑の光を帯びる。

 リタは視線を動かしながら、どこかここではない場所を視ていく。

「うーん……該当する情報は無いわね。一応、外見特徴でも再検索してみるけど……」

「頼む」


 リタが操る『緑の神(アクダル)の伝言板』こそ、この店の最大の強みだ。


 緑の神(アクダル)は情報を司り、旅人を守護する神だ。

 緑の神(アクダル)の神殿はありとあらゆる情報を収集、管理する場となっている。この神の神官や司祭は、その加護の力で、通常とは比べ物にならない程、強力な情報伝達魔法を行使することができる。それが、最大の理由だ。

 これにより、緑の神(アクダル)の神殿がある地域では、地域格差がなく、同等の情報が共有されている。

 その情報の一部は、市井にも解放されている。

 その窓口となるのが、この店のように、外に緑の神(アクダル)の紋の旗--緑の地に天馬の意匠--を掲げた場所となっている。


 -- 一説には、情報収集自体に集中したい神殿の人びとが、情報を求める外部の人びとの要望が煩わしいと、外部にまるっと委託したとも言われている。そんな話が真実味を帯びる程、緑の神(アクダル)の神官たちは、独特の感性で生きている--


 市井に解放されている情報は、主に世界のトップニュース、新たな発見、発明の情報など。それに、犯罪関連の情報だ。

 大きな犯罪を犯した者などは、世界中に手配される。

 国境を越えて、他国の軍や官吏が犯罪者を追うことは難しい。その為、報償金をかけて神殿経由で手配をかけるのだ。冒険者の中には、そういった賞金首を専門に追う者も多い。

 大掛かりな魔獣の討伐依頼なども神殿に寄せられる。


緑の神(アクダル)の伝言板』とは、神殿から情報を引き出す端末だ。それがある店には、情報を求める冒険者たちが集まってくる。その冒険者目当てに、街の人が持ち寄る依頼などもこの場所に集まるのだ。

『踊る虎猫亭』は、酒場と宿屋であるのと同時に、仕事を探す冒険者のための仲介所でもある。


「やっぱり該当する人物はいないわね」

「じゃあ……やっぱ、ラティナは重罪人って訳じゃねぇな。……親の捜索もねぇなら、あの死体は、父親だったで間違いないだろうな……」

 デイルとリタが真剣な顔で自分のことを話していることを理解しているのかいないのか。

 デイルの膝の上のラティナは、キョロキョロと周囲を見回したり、デイルを見上げたりと忙しない。

 こんな店に不釣り合いな幼児の姿に、食事をしているいかつい男たちも時折こちらを見ている。ラティナは目が合うと、こてん、と首を傾げたり、じっと見返してみたりを繰り返している。


 そんな中しばらくすると、ラティナから異音が響いた。

 具体的には、腹の虫が鳴ったのだ。


「…………ラティナ? 」

「あー……匂いにつられちゃったのねぇ」

 二人に一度に注目されて、ラティナは少し気まずそうな顔をする。

 リタはカラカラと笑って、ケニスに声を掛けた。

「ケニス、この子にご飯作ってあげて。消化の良い物の方が良いかな? 」

「ついでに俺の飯も頼む」

 デイルはそう言って、カウンターからテーブル席に移動する。ラティナにはテーブルが高すぎるので、椅子の上に適当な台となるものを乗せてから座らせた。デイルも椅子を寄せて隣に座る。

「で、デイルあんたこの子どうするつもり? 」

「俺が面倒みるさ。これも縁だ。言葉も通じない、他人種の子どもを万年予算不足のこの街の孤児院に預けても、ろくなことにゃならねぇだろうしな」

 口に出して宣言するのは、覚悟を決める為でもある。

 デイルも子どもを育てることとその責任を容易く考えている訳ではない。


「俺がこの子の保護者(おや)になるよ」


冒険者ギルドという形のものはありません。

各『神殿』は、宗教施設兼、公共的な施設といった位置あいです。

神殿従事者でなくても回復魔法は使えますので、『僧侶』=回復係、ではありません。


という設定も、本文で書きたいのですが、本筋以外の文章が増えてしまう……

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