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幼き少女、旅の準備をする。

昨日のシステム障害で作業と予約投稿する時間がありませんでした……

 ラティナが旅に出る事になったのは、彼女が十歳になる年の春の初めの事だった。



「本当は、ラティナが、学舎を出るのを待とうかと思っていたんだが……リタが、まだ動けるうちが良いだろうってことで予定を早めたんだ」

 デイルはそう言って、彼女に選択肢を与えた。


「どうする? 少し長い旅になるけど、一緒に行くか? それとも留守番してるか? 」


「ラティナ、いっしょに行ってもいいの? 」

 驚いた顔のラティナに、デイルはにやりと、悪戯を仕掛けた子どものように笑う。

「今回のは、仕事じゃねぇからな。危ないって言えば、危ないし……ラティナが嫌なら、留守番しててくれ」

「ラティナ行きたい。デイルといっしょがいい」

 満面の笑顔で彼女は即答した。ぴょんとデイルに抱きついてくる。


「ちゃんとデイルの言うこと聞いて、危なくないようにするっ」

 きりっとして、ラティナはそんなことを言った。

 注意するべき点を先に言われて、デイルは苦笑するしかなかった。



 デイルは一度王都に行かなければならないということで、その間にラティナは自分の荷物を作った。

 普段は一人で徒歩の移動をするデイルだが、今回は、小型種の馬を調達してきた。荷物の運搬と、ラティナが疲れた際に乗せることができるようにだという。

 だからといって、たくさんの荷物を持って行って良いという訳ではない。

 毎日、詰めた筈の荷物を再び広げてみては、うんうんと、唸ってみている。

 はっと気付いたように、階段を駆け下りて行った。


「ケニス。ラティナ、ナイフ持って行ってもいい? 」

「ん? 料理用のナイフか? 」

「うん」


 顔を見るやいなや早々に切り出す。

 いつも、ラティナが相談を持ちかけるのは、ケニスだった。

 デイルのことは大好きであるが故に、彼女なりに遠慮もあるらしい。その点ケニスは、頼りになる年長者で、師匠であるため、ラティナも相談しやすいという感覚があるようだった。


「旅装の準備は、デイルの奴、今回の王都行きで何か買って来ると思うんだがな……」

「ラティナ、ナイフは自分の使いやすいのがいいの」

「そうだな……買って来たらどうだ? 職人に頼めば、持ち手の調節位はしてくれるだろう。今から使って出発までに慣れれば良い」

「お金、使っていいの? 」

「ラティナの給金(かね)なんだ。自分の買い物して良いんだぞ」

 ケニスはそう答えてから、仕事場を見渡した。夜までの作業は目処が付いている。少し留守にしても構わないだろう。


「リタ、少しラティナと、東に行って来る」

「あら、そう? 行ってらっしゃい」

「リタも、気をつけてな」

「病気じゃないんだから、心配しすぎよ」

 そんな会話を夫婦で交わしてから、ケニスはラティナを連れて『踊る虎猫亭』を出た。



 東区の職人街を歩きながら、ラティナはそうだ。と、ケニスを見上げた。

「ケニス、あのね。ルディのおとうさん、かじやさんなんだって」

「あの赤毛の子か? そういえばシュミットの所の三番目だったっけか。……まぁ、そんなに腕は悪くなかったかな。見に行ってみるか? 」

「ラティナかじやさんは、行ったことないの。ナイフ売ってるかな」

「工房によって造ってるもんは違うがな……」


 ケニスの後をとことこ追いかけるラティナは、時折すれ違う子どもたちと、手を振りあったりしている。

 南区よりも、ラティナの友人は東区に多いのだ。


「ここだ」

 そう言ってケニスが入り口をくぐったのは、良く言えば、老舗の趣。悪く言えば、古めかしい。そんな一軒の鍛冶屋だった。


 入り口を入ってすぐのスペースには、展示してあるというには雑然と、各種の剣が並んでいる。

 一番目に付く場所にある、明らかに他の物と格の違う展示品もまた、剣だ。

 この店が主に取り扱う物をありありと物語っている。


「ふぁぁあ……剣、いっぱい」

「シュミットの所は、剣を打つ工房だからな」

 物珍し気にキョロキョロとするラティナと、長年の習慣で、武器の吟味をはじめるケニス。彼が愛用していたのは戦斧だったが、剣が使えないというわけではない。

 やはり記憶の通り、名だたる名工というほどではないが、それほど悪くもないだろう。


「……ここは、子ども連れが来るような場所じゃねえぞ」

 奥からのそりと姿を見せた壮年の男は、見事な赤毛だった。

 ラティナが、目を丸くして男を見ている。

 あまり客商売に向いていなさそうな店主は、一言、二人に言葉をかけただけで再び奥の工房へ戻ろうとした。

 ラティナが、はっと何かに気付いて、男の方に近付いて行く。


「こんにちは。あのね、ラティナ、ルディの友だちなの」

 その声に足を止めた店主はラティナを見て、驚いたような素振りをする。

「ルドルフの? 」

「そうなの。はじめまして」

 ラティナはにこりと笑顔を向けてから、丁寧な礼をした。

 まるで値踏みをするような、不躾な視線には動ずることはない。


「ルドルフと遊びに来たのか? 」

「ううん。ラティナ、ナイフ欲しいの。ラティナに使える大きさのナイフ、ありますか? 」

「子どもが使うおもちゃみてえな刃物は、ウチにはないな」


 少し渋い顔をした店主に、ラティナは困った顔でケニスを振り返った。

 ケニスはポンポンと軽く彼女の頭を撫でる。

「この子は、少し旅に出るんだが。その際に雑事がこなせるナイフが欲しい。主には料理に使いたいようだがな」

「あんたの娘か? 」

「いや。俺は代理だ」

 店主は暫し考えて、工房を指し示した。


「表には出していないが、奥には幾つか置いてある。見て行けば良い」


 店主の後に付いて入った工房もまた、重ねた時間を感じさせる場所であった。

 好奇心旺盛なラティナにとって、工房は隅から隅まで気になる空間だ。今まで以上にキョロキョロと忙しない。

「ほら、ラティナ。危ないからちゃんと前見ろ」

 ケニスに言われて慌てて側に寄る。

 工房の一角には、店先以上に乱雑に置かれた剣や短刀が積んであった。

「……ケニス、どれ、えらべばいいかな? 」

「そうだな……」

 指先でつんつんと柄をつついて首を傾げたラティナは、隣のケニスに助けを求めた。

 ケニスは山の中から手頃なサイズの数本を選び取ると、じっくりと刃の検分をはじめる。ほどなくして、ラティナの前に二本のナイフを置いた。


「後は、ラティナが握ってみて決めれば良い」

「うん」


 ケニスの言葉に、ラティナが真剣な顔で握ったり、離したりを繰り返していると、工房の裏から賑やかな声がした。

 そちらに視線を向けると、少年二人に少女が一人という三人が、ケンカのような掛け合いをしながら、やって来る所だった。

「ルディ、ごちゃごちゃ言わないで、手伝いしなさいっ! 」

「何でだよ、今日の当番は兄貴だろっ」

「兄さんは別の仕事があるのよ! 」

「俺はお前みたいに、暇じゃないからな」

「まだ、親父の相槌も打てねぇくせにっ」

 とりあえず、ぎゃんぎゃんと喧しい。

 全員、見事なまでに似た赤毛で、血縁が一目で察せられる。


「ルドルフ、友だち来てるぞ」

「ルディ」

 店主の後に続いた、高いラティナの声が、意外にも工房の中で響いた。

 三人組は、ぴたりと話を止め、そっくりな動作で一斉にこちらを見た。

 ラティナはぶんぶんと手を振っている。そんなラティナの姿に、ルディははっきりと狼狽した顔をして、兄と姉の二人は、驚いた顔でラティナを見ている。


(……まあ、ラティナみたいな美少女は、下町には居ないな……)

 その様子を見て、そう思う。

 日頃、見慣れたケニスでも、この少女の可愛いらしさには、時折どきりとさせられるのだ。


 同い年の子どもと並ぶと小柄ではあるが、彼女はこの二年でだいぶ大きくなった。

 白金の髪は良く手入れが行き届いており、きらきらと輝いている。今日は一部を編み込んで、残りを肩に流していた。

 ふっくらとした柔らかそうな頬も、長い睫毛に飾られた灰色の眸も、ピンク色の唇も、どれも彼女の愛らしい印象を強めている。


 クロイツに来た頃の、ガリガリな小さな幼子はもう何処にも居ない。


「なっ……なんで、ラティナがいんだよっ」

 慌てた様子で駆け寄って来たルディに、ラティナはこてん。と首を傾げる。

  「お買いものしに来たんだよ。ラティナ、ナイフほしいから」

「ウチのみたいな、ごついの、ラティナに使える訳ないだろっ」

 ルディのその言葉に、ラティナは不本意であると、ぷう。と膨れてみせた。

「ラティナだいじょーぶだもん。いつもお料理しているのより大きいけど、必要だから、使えるようになるもん」

「必要って何でだよ」

「ラティナ、旅に出るの」


 その言葉に、ルディははっきりと驚愕の顔をした。

凄く中途半端なところで切ってしまいました……

字数の関係です。

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