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前日譚。終、白金の娘、青年に語る。

前日譚エピローグ二本目。同時投稿です。

 ぎゅっと抱きしめられて、ラティナは慌てたような声を出した。

「デイル?」

「ん……辛いこと、思い出させちまったな。ごめんな」

 謝罪の言葉が自分を労るものであると気付くと、ラティナは柔らかな微笑みを浮かべた。

 仔猫が擦り寄るような仕草で、デイルに自らの身を委ねる。

「子どもの時は、怖かったことや苦しかったことの方が大きすぎて、思い出すことも出来なかったんだけど」

 そう言いながらラティナは、祈るように細い指を組む。


 デイルの腕の中は、彼女にとって最も安心出来る場所だった。

 世界中の全てから、否定されているような気がしていた幼い自分を、強い愛情と共に囲い込んでくれた、安全な空間の象徴だった。

 それは今でも変わらない。

 実の両親から受けていた深い愛情を疑わずに済んだのも、自分は愛されていたのだと肯定することが出来たのも、全てはこの確固たる『安全な場所』があった為だった。


 ラティナは、常々口にするように、「あの時自分を救ってくれたのがデイルであったことが、自分の一番の幸運だった」と思っていた。

 両親から受けていたものとは、少し異なるけれども、劣ることのない深く強い愛情を呉れるデイルだったからこそ、今の自分があるのだと--幸福なのだと思っていた。


 だから彼女は微笑んだまま、口にした。


「今なら、ちゃんとわかるの。私の両親は私のことを大切に想ってくれていた。私が……私とフリソスが幸せになることを、本当に願ってくれていたんだって……」

 今でも自分が『災厄をもたらす』として受けた予言が、どんなものであったのか、ラティナは詳しくは知らない。

 罪人として故郷を追放されたのが、その予言が理由であったことはわかる。

 それでもと、思う。

「私はとても幸せだから。今、とても幸せだから……ちゃんと両親のことを思い出すことも出来るようになったの。『あの頃』も幸せだったって思えるようになったの」

 大切で幸せだったからこそ、失ったことが辛すぎた。思い出すことが辛すぎた。その記憶すらも、今のラティナは、肯定することが出来るようになった。

 流れる時間は、辛い記憶を薄れさせてくれるけれども、忘れたくない筈だった記憶も遠いものにしてしまう。

「だからね……忘れてしまわないように……思い出すことが出来て良かったの」


 視線を上げると、自分のことを優しい目で見ているデイルと目が合った。ラティナはそれに、心底幸福そうに微笑む。

「それがきっと、私がラグとモヴに出来る一番の親孝行だから」

 記憶の中の両親は、幸せな思い出の中にある。それを忘れないでいること。

 そして、精一杯、幸せになること。

 それが、自らのことよりも我が子の幸福を願ってくれていた両親の思いに応えることなのだろう。そう考えるラティナを、デイルは優しい手つきで撫でる。

 まるでデイルが肯定してくれるように感じられて、ラティナはデイルにもたれたまま、穏やかな顔で眸を閉じたのだった。

これにて、『前日譚』は終了となります。

次回からは、日常ほのぼの話となります『後日譚』になります。まだしばらく終わりませんので、お付き合いくださいませ。

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