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前日譚。序、白金の娘、青年に語る。

今回、少し短いです。

これからしばらく、『娘』の故郷での様子も含めた過去編をお送り致します。

「ラティナとフリソスは、双子の姉妹で間違いないんだよな」

「そうだよ。急にどうしたの?」

 デイルが問いかけたのは、『虎猫亭』の屋根裏部屋でのことだった。何時も通りの一日を終え、当たり前の日常が戻って来たことにようやく慣れてきた日のことである。

 部屋着に着替え、髪を下ろしたラティナは、普段は隠している折れた角の根元をちらりと覗かせている。


「いや、眸の色も違うし……なんとなく気になったからさ」

「フリソスだけ『魔力形質』持って生まれたから……私の灰色の眸は、両親のどちらとも違うんだけど……たぶんモヴの方の遺伝なんだろうって聞いてる」

「ああ……」

 直接ラティナの実母であるモヴと会ったデイルはその言葉で納得してしまったのだが、そんなデイルの様子にはラティナは気付かなかった。デイルは少し遅れてそのことに安堵する。

 ラティナの姉であるフリソスには、モヴの臨終の場に立ち会ったことを伝えたデイルだったが、ラティナには直接まだ伝えていない。

 お互い隠し事をしないでちゃんと向き合うと決めた二人だったが、デイルにとってモヴの死は、少なくはない心の傷になっている。

(ちゃんと言うべきだって……わかってはいるんだが……)

 自分が、殺した--と、最愛の彼女に言い出すのは、なかなか簡単なことではなかった。


 ラティナの実母であるモヴは、『魔力形質』--魔力が強いものに現れる、本来人族が有さない鮮やかな色彩--を持っていた。目を奪うのは、はっとするほど鮮やかな紫の長い髪だったが、彼女は眸にも魔力形質を有していた。

 彼女の眸は、フリソス同様、美しい黄金の色をしていた。


「ラティナの髪は、父親と同じ色だって言ってたよな」

「うん。ラグと同じ色。角もね……ラグは真っ黒だったの。私の角の形はモヴと同じ形。魔人族の角は、両親から形と色をそれぞれ受け継ぐから」

「そうか」

 失った角にそっと触れ、ラティナは静かに微笑んだ。

「両親から受け継いだものなのに、折ってしまったことは……少し後悔する時もあるの。でもそれは、今が幸せだからそう思えるんだとも思ってる」

「ラティナ……」

「フリソスにも、凄く悲しい顔させちゃった……お揃いの角だったのに、私は両方無くしちゃったから……」

「あの時、俺がもう少し気にしていたら、あんなことさせなかったのにな……」

「デイルのせいじゃないよ」

 慌てたように言うラティナの角のあたりを、デイルはそっと撫でる。よしよしと幼子にするような仕草だったが、ラティナは嬉しそうに目を細めた。


「もう、どうすることもできねぇことだから……今更どうこう言っても仕方ねぇよな」

「うん」

「ラティナ」

 呼び掛けに不思議そうに首を傾げたラティナに微笑んで、デイルは彼女にずっと聞いてみたかった質問を投げ掛けた。

「お前の両親は……どんなひとだったんだ?」

「……魔人族は、母親の元で子どもを育てるって前に聞いたけど、私とフリソスはラグに育てられたの……モヴはいつも忙しかったから……」


 稀有なほどに強い『紫の神(バナフセギ)』の加護を持つが故に、『巫女姫』という特殊な字(あざな)を与えられた『彼女』と--


「ラグは、『先生』なんだろうって思ってた。『黄の神(アスファル)』の加護は無いはずだけど、ラグのことを尊敬しているたくさんのひとのことは、私たちから見てもよくわかったから……」


 稀有な力を持たないからこそ、多くの者を教え諭すことが出来、『導師』の尊称で呼ばれるようになった『彼』が--


「私の知っているヴァスィリオでの生活は、凄く狭いの。両親とフリソスと一緒に過ごした、神殿の中だけだから……」


 箱庭のようなちいさな、神殿の奥深くに隠れるような日々ではあったけれども、確かにそれは幸せな時間だった(・ ・ ・)--

 そんな物語が始まる前の物語。

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