一話「HAO」
目の前で雄叫びを上げる青色のドラゴン。
翼が生えているが、飛ぶことはない。
このドラゴンの技は、破壊光線、子龍召喚、水圧撃。
どれもやばい攻撃だが俺には通用しない。
落ち着いて杖を構える。俺は魔法使いだから。
ドラゴンの口に光の粒子が集まる。
発動までの時間が長い、破壊光線だ。
その威力は山を吹き消すほどだが問題じゃない。
慌てず防御魔法の詠唱に入る。
ドラゴンの口から光線が飛び出す。
俺の前に黒い霧が現れる。
光線は霧に吸い込まれ消滅した。
それと同時に、周りの草陰に隠れていた剣士たちが飛びかかる。
攻撃力の高い大剣で斬りつけられ、連撃ができる双剣で攻撃される。
ドラゴンはしぶとい。だが今ので体力が結構減ったはずだ。
俺はトドメに攻撃魔法を発動する。
白い杭が何本もドラゴンの心臓部分に突き刺さる。
この魔法はドラゴンに大ダメージを与える。
<おめでとうございます。賞品の白結晶を五個プレゼントします>
十センチほどの白い結晶が手に入った。
これは剣の柄に埋めつければ、剣の攻撃力が十倍になる。
中の魔力を吸収すれば魔力が三倍になる。
誰もが欲しがるアイテムだ。
俺は早速魔力を吸収する。魔力が増えたと同時に上限まで上がってしまったようだ。
微妙な気持ちになった。まあ、良しとしよう。
『今回も楽勝だったな、ヤシロ』
『まあな。ドラゴンくらいじゃ俺を倒すのは無理だ』
ヤシロとは俺のプレイヤー名だ。
そう。これはゲームだ。
近年流行りだしたVRMMO『ハンターズアドベンチャーオンライン』という名前のな。
その気になれば無双ができるというそれなりに人気があるゲームだ。
で、今のドラゴンはイベント限定モンスターだ。
ドラゴンを倒せばアイテムが手に入る。そういうイベント。
運が良ければ課金アイテムを凌ぐほどのアイテムが出てくる。
このゲームの運営はゲームバランスなんて考えることはあまりない。
精々ラスボスとプレイヤーのレベルを釣り合わせるぐらいだ。
ストーリーは全てクリアしてしまった俺にはもう過去の話だ。
今は『PK』やイベントをプレイしたりしてる。
どっちやっても瞬殺できる。とっても退屈だ。
今日はもうログアウトしよう。
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俺の名前は東道谷城。十六歳のゲームの天才だ。
小さい頃からゲームばっかりやっていた。
今じゃ三度の飯よりゲームが大事と言うほどゲーム中毒になった。
半引きこもりみたいな生活を送っている。
都合の良いことに両親共働きで深夜まで帰ってこないし。
気がついたら、夜の八時を過ぎていた。
何時間ゲームに没頭していたのだろうか。
VR技術は素晴らしいけど、欠点として時間感覚がたまに狂う時がある。
ゲームの中に時計はあるんだけどそれでもダメなときがある。
頭に情報を流し込むなんて麻薬まがいのことをするからだ。楽しいけどさ。
腹が減っては戦ができぬ、という訳で飯食おう。
コンビニかどっかで買ってくればいいか。
(退屈だな)
そんなことを考えてたら、どこからか「了解」と返事が来た。
辺りを見渡す間も無く、俺は光に包まれた。
混乱することはない。この感覚は何度も味わっている。
VRMMOを起動したときの感覚と同じだ。
心地よいとは言えないが、不快なものでもない。
いたって普通。ただ空間がぼやけ、三次元が二次元となる。
一瞬にして現実感を取り戻し、大理石で作られた部屋になった。
(どこだ、ここは?)
結構広い部屋だ。それぐらいしかわからない。
脱出ゲーム…じゃないよな。
脱出ゲームもそれなりにやった。
すぐクリアしちゃったけど。難易度高いと言ってもこの程度か、と感想を抱いたことがある。
それでも現実感ある空間で気を抜くほど愚かではない。
『HAO』のマップにはない場所だ。
感覚が同じという理由でゲームの世界と断定するのは無理だが。
まるでアニメや漫画とかの展開だな。
――――空中に光る穴があいた。
(何だ!?)
そこから金髪の男が出てきた。カジュアルな服を着ている。
本当に何なんだろうか。
あれか。DQNか。襲撃か何かか。
ゲームなら撃退できるが実戦では無理だ。
柔道も剣道もやったことないし。それ以外の物もやったことない。
やられたらあやまる、負けるが勝ちだ。
そういうことにしておこう。
「誰だ?」
これを聞かなきゃ始まらないだろ。
始まらなくてもいいけど。
「俺は神だ。お前の退屈という気持ち、俺に伝わった」
「神、か。小説とかでよく出てくる奴か?」
「そんな感じだ。話を戻すが、退屈してると言ったな?」
「言った」
「なら、面白い世界へ送ってやろう。戻ることはできない。どうする?」
「そうだな…元の世界の俺のことを知ってる人はどう思うんだ?」
「記憶は修正可能だ。」
「なら頼んだ」
少しありえない会話をして、自称神がブツブツと何かを唱える。
俺の体が浮いて、意識が離れていく。
気がついたら見知らぬ森の中にいた。
着ている赤と黒のローブと持っている杖や他色んな物は知っている。
『HAO』の俺の装備だ。
自分で言うのも何だが、最強装備一式だ。
しかし見知らぬ森に俺一人とは。
面白い世界とは言ってたが、どんな世界かは聞いてない。
装備からしてゲームの世界なのか。
それともどこか別の世界なのか。
まず、試してみたいことがある。
「メインメニュー」
すると頭の中に情報が現れた。ここらへんもゲームと同じか。
書いてある項目はこんなのだ。
名前:ヤシロ
レベル:390
装備:太陽神の杖・冷酷な王のローブ・天空竜の指輪・天使の輪
職業:魔法使い
称号:賢者・大魔導士・魔道王
アイテムボックス:中身無し
見たい項目をクリックすると、詳細が見れる。
カーソルとか出てきてるから、出来るのだろう。
レベルをクリックすると個人ステータスが出てくる。
HP609
物理攻撃力39
物理防御力59
魔法力90000
魔法攻撃力100000
魔法防御力98948
俊敏性900
精力100000
ゲームのスペック超えてる。全てがおかしい。
神の加護みたいなものか?バグか?
因みに精力は精神干渉力、略して精力。あっちのじゃないよ。
これなら生きていけそうだな。
モンスター祭りでもやるか。居るか分からないけど。
歩かないことには始まらない。