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六話:デスゲーム

本当に怖いのは人知を超えた化物ですか? それとも身の回りにいる、あるは自分自身の事も差す人間という生き物ですか?

 爆発音と共にチャイムが鳴り、忌々しい声が響く。

『キメラが倒された為、特別条件により第4のゲームをクリアとみなします』

 その放送を一号棟のちょうど中心に位置する昇降口で聞いていた面々はおのおのに言葉を口にする。

「春時は! 春時はどうなったんだよ!?」

「田中さん……」

「まだ続くのかよこれ……」

 皆が暗いムードを漂わせながらその放送を聴いていた。

『それでは、最後のゲームへと参りましょう。このゲームの勝者には魂の残機と現実への開放が与えられます』

 それを聞いた白井と秋山、そして佐藤はピクリと反応した。

『1人最低1人殺してください。その上で、生存者の中に黒が居れば生存者は罰を受け黒だけが生き残ります』

「黒……第3のゲームで出てきた特定の人間よね?」

 梅野は考え込みながらそう呟いた。

「どちらにしてもこの中の誰かを殺さないといけないってことなのかよ……」

「大丈夫よ……あなたは人を殺さなくてすむ」

 刹那、加藤の後ろへそっと近づいた梅野が加藤の耳元でそう呟き、加藤の目が大きく開く。 

「あ、ああ」

 梅野の白い制服は血に濡れ、加藤はそのまま前へと倒れた。

「おい! お前なにしてるんだよ!?」

 西田はすぐさま加藤の体を起こし、梅野をにらみつける。

 井上はすぐさま走り出し、近くの部屋へと入っていく。

「人間は犠牲の上に立って生きているものよ。私は前回のギルティ・ゲームでそれを知った。菅原君? あなたは気づいていないでしょうけどあのゲームに私もいたの」

 梅野は顔についた返り血を拭いそう吐き捨てる。

「……前回の最後のゲームも今のと同じだった。生き残っていたほぼ全員が狂った先生に殺され、不意をついて俺が先生を殺した。お前はどうやって生き残った?」

 菅原はポケットから小型のナイフを出しながら、梅野に近づく。

「あの病院で始まった時から私は親友と二人で行動していたわ。そして最後のゲームの時その親友を殺して生き残った」

 梅野の言葉はどこまでも冷たくその場の空気をも凍らせる。

 その沈黙を打ち破ったのは今にも死にそうな加藤であった。

「あぁぁぁぁぁぁ。け、けんじぃにげろ」

 最後の力を振り絞るようにして出した声と共に加藤の体のあちこちが膨れはじめる。

「お、おい!」

 西田はそれでも加藤を抱きあげたまま声をかける。

「あぁぁぁぁあああああああ!! 痛いいたいイタぁぃ」

「うぐっ」

 加藤の体からいくつもの刃物が飛び出し、西田の腹部に一つのナイフが刺さる。

「健二!」

 佐藤はすぐさま西田に近づく。

『これは私から皆さんへのプレゼントです。存分にお使いください』

 スピーカーから流れるその声に西田は憎悪を燃やしながらその場に倒れる。

 西田は自らで腹部に刺さったナイフを抜くが息が荒く、出血が止まらない。

「美紀、俺を殺せ……これじゃこれじゃ長くは持たない。お前だけでも生きるんだ」

 そう言って西田は腹部から抜いたナイフを佐藤に渡す。

「そんなこと出来るわけ無いよ……!」

 佐藤は西田から渡されたナイフを投げ捨て、西田に抱きつく。

「西田さん、気を確かに持ってください。すぐに止血しますから」

 そこに現れたのは先ほど近くの部屋へと消えた井上だった。

「……なぁ信吾、どうせ死ぬなら俺達のどちらかは生き残らないか?」

 唐突に秋山は白井に告げた。

「琢磨……昔、よく喧嘩とかしたよなぁ。その決着ここでつけるか」

 秋山は先ほど加藤の体から飛び出して近くに落ちていた西洋の長剣らしきものを二つ手に取り一つを白井に投げ渡す。

「おい、お前らなに馬鹿なことやってんだよ……やめろ」

 西田は大声で二人を止めようとするが、その声が傷に響きもだえ苦しむ。

「昔も喧嘩するたびに春時や健二が止めにはいったよなぁ」

 白井は剣を受け取り構えて一つため息をつく。

「これが俺達の一世一代の大勝負だ! どちらか生き残った方がこの一連の出来事を後世に残そうぜ」

「あぁ、小説にでもして売ってやるよ。いくぞ!」

 二人は一斉に間合いを詰め、剣と剣をぶつけて鍔迫り合いへと入るが、お互い一向に押し返せないのを悟ると再び間合いを取り、隙を探る。

「な、何してるんですか!? やめてください!」

 井上は二人と止めようと声を上げるが二人にはもはや他の誰の言葉も聞こえない。

「菅原くん? あなたも早く誰かを殺さないと死ぬわ」

 梅野の言葉に菅原は、倒れる西田とその近くにいる佐藤と井上を見た。

 だが、その目には殺意はなく、どこか哀れんでいるように佐藤は感じる。

 刹那、うめき声が上がり、斬り合いをしていた二人が決着がついたのかと佐藤は二人のいた方へと目をやった。

 井上は声も出せず固まっているようであり、佐藤は覚悟して二人を見ると大量の出血と共に二つの剣が落ちていた。

 そしてその場には剣と並べられたかのように落ちている白井と秋山の頭。

 二人の落ちた生首は瞬きをし口を開けて閉じ、そしてじわじわと首から血を流して動かなくなった。

「な、なんで二人とも?」

 ゆっくり倒れていく二人の胴体の後ろには血に濡れた日本刀のようなものを持つ中島。

「やっと復讐できる……俺は黒を、そして全員を殺す。梅野、黒はお前じゃないのか?」

 憎しみのこもった重低音の声で中島は続ける。

「それか菅原。あの時、1人の命で全員が助かったかもしれないんだ。その状況でみんなを裏切るような行為をする奴はお前らしかいない」

「さぁ? それはどうかしらね? 人間は本来悪よ」

「結果的にこの中に、黒がいることは間違いないがな……」

 梅野に続き、菅原もそうはき捨てる。

「どの道、全員殺すがな。……健二、お前だけは、お前だけは黒なんかじゃないだろ? 一緒に香織の復讐しようぜ?」

「それは出来ないな……」

 中島の誘いに西田は乗らず、自らの力で立ち上がる。

「うっ……」

 突如、梅野が声をあげ首筋から血を流す。

「……ごめんなさい。死んでください」

 梅野の後ろには小刀を持った井上が涙を流しながらそう嘆いた。

「まさかあなたに奇襲されれるとは思って無かったわ」

「動脈を切りました。いずれ大量出血で死にます」

 梅野はよろめきながら、加藤を葬ったナイフで井上の腹を刺す。

「あ、あぁ」

「あなたも道連れよ……」

 そういい残して梅野はその場に倒れる。

 井上の制服は返り血を自らの出血で赤く染まり、顔は涙と返り血で醜く変わっていた。

 今昇降口には、重症の西田と井上、そして佐藤、菅原、中島。

 辺りは死体と流れ出る血で埋め尽くされ地獄絵図を化していた。

 刹那、ゆっくりと誰かが校舎の入り口から入ってくる。

 その姿を見て誰もが目を疑った。

「か、香織?」

「海渡!」

 織本は中島の姿を見てすぐに駆け出し抱きついた。

「私のために死んで」

 織本の言葉が突き刺さるかのように中島はよろけ、その瞬間に織本は右手に持った灰皿で中島の頭を殴打する。

 倒れこむ中島に追い討ちをかけるように、織本は笑いながら何度も何度も灰皿で殴り続けた。

「な、なん……で」

「彼女が生きててうれしい? 彼女に殺されてわけがわからない? そんなのどうでもいいよぉ! だって私が黒なんだもん」

 その言葉を聞いて菅原はすぐに織本に向かって走る。

 素早く落ちていた凶器を拾い今にも襲い掛かろうとする菅原に気づき、織本は灰皿を投げ捨て甲高い声で笑いながら二階へと繋がる階段を使って逃げてゆく。

「逃がすかよっ……」

 菅原もすぐに階段を駆け上がって行き、残されたのは井上と西田と佐藤だけであった。

「佐藤さん、西田さん、私……生きてるかもしれない田中さんを探します。そして……生きてたらあの人にこの命を捧げます」

 そういって井上は菅原たちとは真逆の方向へと走りさる。

 二人だけになった空間には死屍累々と横たわるかつてのクラスメイト。

「な、なあ美紀。俺を殺してくれないか?」

 今にも消えそうな声で西田は呟いた。

「そんな……できるわけないじゃない!」

「どうせ、俺はほっておいても死ぬし、人を殺せない。だから、だから俺の命をお前が引き継いでくれ」

 佐藤は頬を濡らしながら西田に手を握られ、そのまま西田の力に逆らうことなく腕を動かす。

 二人の手はしっかりと血まみれのナイフを握りしめ、そして勢いよく西田の胸に刺した。

「う、うがあっあぁぁぁ」

「い、いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 異なる悲鳴、異なる痛みに叫ぶ声が辺りを包み込み、赤い血と熱い涙が流れを止めず、やがて西田は佐藤にもたれかかるようにして息を引き取った。

「恋人を殺すのに躊躇いもない人間もいれば、悔やみ嘆く人間もいる……これで菅原くんが織本さんを殺してくれれば万事解決ね」

 その声に驚き佐藤は思わず振り返る。

「とりあえず、顔を拭くことをオススメするわ」

 死んだはずの梅野がむくりと起き上がり首をまわす。

「え……」

「私はさっきも言ったとおり、前回のギルティーゲームをクリアしている。だから一度死んでも大丈夫なのよ」

 梅野は血に塗れたスカートのポケットからピエロのような顔をした照る照る坊主の形をした黒い人形を取り出しその場に捨てる。

 その人形は胴体と頭が取れており、見るからに縁起が悪い。

「この人形が身代わりになったのよ。そろそろ時間ね」

 梅野が携帯で時間を確認してすぐ、チャイムはなった。

(なんで……健二が死ななければいけなかったの? もう、私も死んだっていい)

 そんな思いが渦巻きながら視界が暗くなりどこか深いところへ落ちてゆくような錯覚に見舞われる。




 再びチャイムがなり佐藤が目を開くとそこは教室であった。

 男子や女子のグループが固まり駄弁っているいつもの光景。

(……いままでのは夢? それともここは天国? みんな死んじゃったのかな?)

 佐藤は一体なにが起こったのか分からなかった。

 そこに西田が近づき話しかけてくる。

「なぁ美紀、今度の日曜日だけどさ――」

(健二がいるならどこでもいいや……)

 佐藤は西田を見て微笑み、ふとスカートのポケットにある違和感に気づく。

「って聞いてるか? おーい」

 西田の声も佐藤には全て抜けてゆき、ゆっくりとポケットの中に手を入れ中にあるはずの無いものを取り出す。

 ピエロの顔が書かれたような黒い照る照る坊主のような人形、佐藤は目を疑い西田にそれを見せた。

「ねぇ健二、これなにか分かる?」

「なんだその人形? 見たこと無いけどそれがどうかしたのか?」

(夢じゃない……でも健二はこれを知らない? そんな、一体どういう――)

 その時、第一のゲームで現れた本人そっくりのドッペルゲンガーが佐藤の頭を過ぎる。

(じゃあ……本当に皆死んでてここにいるのはドッペルゲンガー? 生き残ってるのは私含めて数人だけってこと? ここにいる健二は健二じゃない?)

 混乱と悲しみ、なにがどうなっているのか分からない佐藤はただただ涙を流して静かに泣いた。

ここまで読んでいただき本当にありがとうございました。


あなたは友達は本物ですか?

なにが真実で何が虚実なのかなんて人間にはわからないものですよ。


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