四話:殺し合い合戦 後編
第三のゲーム★おさらい★
白と赤のチームに分かれて殺し合い。
一時間たった時点の生き残り数が少ない、もしくは王様が殺されたチームは敗北となり罰ゲームを受ける。
ただし、どちらかに紛れ込んだ黒が死亡すればゲームはそこで終了となりどちらのチームも罰を受けずにすむ。
(殺さないと死ぬなら殺すしかない……)
菅原は右手に包丁を握りながら一号棟と二号棟を繋ぐ二階の渡り廊下を歩いていた。
「ねぇ菅原くん……私達のために死んでよぉぉぉぉ」
刹那、刃がむき出しのカッターを持って走ってくる女子生徒を菅原の目は捉えた。
乱雑にカッターを振り回す女子に足を掛けてバランスを崩させ菅原は女子の胸元を掴み渡り廊下の手摺りの方へ投げ飛ばす。
「うぐっ」
女子が怯んだ瞬間、菅原は手に持っていた包丁を構え腹を目掛けて突進する。
肉に食い込んでいく鈍い音がして赤黒い血が飛び散る。
「ひぃぎゃぁぁぁくぁあああはっぁぁぁ」
声にならない甲高い悲鳴を上げ女子は息苦しそうに口をパクパクさせ、目は見開く。
菅原はそのまま女子の体に包丁を奥へ奥へと差し込んでゆきながらも首に手を当て上へ持ち上げる。
そして、手摺りを抜けて中庭へとその女子を落とす。
頭からコンクリートにぶつかり、頭からは血をぶちまけ白いものとピンクのものが見え隠れし腹部は真っ赤に染まっている。
「死んだよな……」
菅原は乱れる呼吸を整えはじめ、吐き気を気合で止める。
心は動揺しているが、まるでいままで何人も殺しているかのような冷めた目で包丁についた血をハンカチで拭う。
「慣れてるのね」
不意に聞こえた声に驚き、菅原は声の方向を辿った。
一号棟二階の職員室前、二号棟と繋がってすぐの場所に腰まで髪を伸ばした女子、梅野が立っていた。
「慣れてるわけじゃない。なれるわけが無いだろ」
菅原は包丁の手入れを終えると、ハンカチをしまって一号棟へと足を踏み入れる。
「会議室は既に誰もいなかったわ。それから今の現状 13:14で負けてるわ」
(早く白の王か、黒、それかあいつを見つけないと……)
菅原はおもむろに階段を下りようとする。
「あら? 職員室に籠もってると私は予測したけど?」
「先に見に行くところがある」
梅野を無視して菅原は一階へと駆け下りる。
(どこかに隠れているはずだ……)
包丁を握る手に力を込め階段を下りて職員玄関の横にある事務室の扉を開ける。
足音でのみだが菅原は後ろから梅野がついて来ていることを確認している。
事務室を見渡し、隣の部屋である校長室へと繋がる扉を開く。
「なっ!?」
そこは血で魔方陣が描かれ、壁には言葉が刻まれていた。
「私を探す者よ。見つけて殺せばゲームは終わる。だが見つかるものか、終わるものか、罪は消えない」
その血文字を見て梅野はゆっくりとそう呟いた。
「読めるのか?」
「ドイツ語ね……間違ってたらごめんなさい」
梅野曰くドイツ語の文字を菅原はまじまじと見つめた。
「中にいることは確実だな……職員室へ行くか」
「ゲームオーバーだ」
その声が赤のチーム全員の心拍を上げた。
化学室に入って安堵のため息をついた瞬間に入り口から5人
準備室側からさらに5人の白のチームが武器を持って現れた。
「な、なんでここが!?」
加藤は問いかけた。
「お前を殴ってからずっと近くに隠れてたからだよ加藤。それで赤のチームがどう動くか聞いて先回りしてたんだ。ひひひ」
奇妙な笑い方をしながら石田 雅貴は少し長めの鎌を見せ付ける。
「なぁ死んでくれよぉ。俺まだ死にたくないんだぁ? もっともっと生きたいんだ。犠牲になれよ。俺たちの代わりにさぁ」
石田は狂った目つきで鎌を握り締めながらゆっくりと赤のチームへと近づく。
「石田くんってあんなのだったけ!?」
「なんかおかしいよ。やばいよやばいよ」
「やばいのはこの状況だって! くそっ!」
西田、佐藤含め赤のチームは混乱しながら退路を立たれじりじりと追いやられてゆく。
「春時どうする!?」
西田は後ろにいる田中に指示を仰ぐ。
「これはもう、一か八か突撃して突破するしかないぞ」
田中は井上に支えながらもそう告げた。
「死ぬ気で生き残れ!」
そう掛け声を上げて飛び出したのは秋山だった。
長机の上に乗せられていた椅子を白のチームに向かって投げ捨て、こちらへ進んでくるのを妨害する。
ほかのメンバーも秋山を見てすぐに同じことをやり始めると、今度は白のチームもが椅子を投げてくる。
椅子が頭に当たり倒れる者も現れる中、石田は一度椅子で殴られ倒れてもまた起き上がり秋山の左肩に鎌を突き立てた。
「ぐあぁああっ」
「痛いよなぁ? 死ぬのは怖いよなぁ? この怖さを、この痛みをお前らが受けて俺たちが開放されるんだよ」
そう言って石田はじっくりと秋山の肩に鎌を差し込んでゆく。
「やめろぉ!」
それを見た西田が椅子でニタニタと笑いながら鎌を突き刺す石田の頭を殴る。
石田の頭からは血が流れ鎌から手を離して倒れかけるも、机に手をついて起き上がる。
「はぁはぁ琢磨大丈夫か?」
「あ、あぁ生きてはいるぞ」
秋山は西田に返事をしながら、鎌を自分で抜こうとするが刃が弧を描いている為うまく抜けない。
石田は今にも倒れそうな動きで秋山の首を絞めようと近づくがそれは簡単に避けることができた。
「ぎゅひゃぁ」
奇妙な悲鳴が聞こえ近くの佐藤が振り向くと、飛田の喉に金属串が刺されてそれは飛田の首を串刺しにする形となっていた。
「と、飛田さん!?」
「ひぃひゅいぎぃいい」
白のチーム大柄の女子、山本 蘭花が空気が漏れるような音しか出せなくなった飛田に刺さった金属串を抜くとその串で飛田を腹を刺しては抜き、刺しては抜きを何度も繰り返す。
「や、やめて!」
「こうしなきゃ私が死ぬのよ!」
佐藤は山本にタックルするが大柄な山本には一切通じず、山本は手荷物赤くなった金属串を佐藤へと向ける。
恐怖で動けなくなった佐藤の目を目掛けて落ちてゆく金属串。
刹那、もはや声も出せない飛田が山本を椅子で殴りつけた。
「いったぁっ」
山本が背中を殴られた背中を抑えている間に、飛田は佐藤を突き放し山本へと飛びついた。
だが、山本の持っていた金属串が飛田の胸を貫き背中から赤い液体とともに光る鋭利な先端が見える。
「飛田さぁぁぁぁぁん!」
「何してるんだ佐藤、早くこっちだ!」
涙が溢れ出しその場から動けない佐藤を斉藤が腕を掴みその場から移動させてくれる。
椅子や刃物が飛び交い、危険極まりない化学室から出れた者は未だ誰もおらず以前激戦が繰り広げられていた。
菅原と梅野は職員室に入るとすぐに、机の下などを確認してゆく。
無数に並んだ机の上は私物やら書類やらでごった返し、クーラーがついているのか涼しく感じる。
「先生、見つけましたよ」
梅野がそう呟き、腕を掴んで机の下から引き上げる。
「あ、あぁ」
片方の腕はなく、血のついた服を着た担任今井 芽衣先生は怯えながら教え子の顔を見る。
「多分、先生が白の王だ」
「ち、ちが、ちがう。違うのよ!」
菅原の言葉に過剰に反応し先生は梅野の腕を振り解いてよろけながらも逃げようとする。
すかさず梅野は取り出したアイスピックで先生のわき腹を刺した。
「ひぁあ」
「こんなんじゃ死ねないですよね先生」
梅野はそう先生の耳元で呟いて、わき腹からアイスピックを抜き、もう一度違う部分に刺す。
刺しては抜いて、刺しては抜いてを繰り返して、すぐさま辺りが真っ赤に染まる。
梅野自身もそうとうな返り血を浴びているが気にしている様子は全く無い。
「ねぇ先生? 先生は何人殺したのですか? 自分の教え子を殺すのは楽しかったですか? 英語の先生なんだから英語で答えてくれませんか?」
(あいつ何をいってるんだ……?)
狂ったように先生を質問攻めにする梅野に菅原は一種の恐怖を覚える。
「あ、あぁ。う、めの、さん? やめ――」
「I will not stop killing」
梅野は英語を笑いながら発声し、アイスピックで左胸を突き刺した。
声を出しながら短く息を吸い込むような音が聞こえた後、先生はゆっくりと重力に従ってゆく。
「やりすぎじゃないか?」
「せっかくの機会だもの。どの道殺すことになるのだし。それより何故先生が王だと思ったの?」
「白のチームは王以外全員攻撃に出てたみたいだ。いままで先生以外隠れていた奴を見ていない。それに先生が王なら赤の王の田中との共通点がある」
菅原はゆっくりと警戒しながら梅野の方に近寄る。
「第二のゲームの生贄に選ばれていること。リーダーシップというか人をまとめられる人間であること。お前が言ったように敵チームだからどの道殺すことになるが、王の可能性は高いと思っていた」
菅原が梅野に説明していると、チャイムが鳴る。
『白の王の死により、赤のチームの勝利です。おめでとうございます』
スピーカーが近いからか大きな音が聞こえてくる。
菅原はすぐさま職員室の中にある放送室へと駆け込むがそこには誰もいない。
『最終戦績は赤10人、白12人でした。今回は最も殺した白のチームの人間には特別な死を差し上げます』
ゲーム終了の、勝利の通知に、佐藤たちは安堵した。
それと同時に白のチームの人間は、混乱し泣き叫ぶものまでいる。
『最も人を多く殺した罪深き人間、石田 雅貴を破裂の刑に処す』
「なんで……何で死ななきゃいけないんだよぉ。ほかの皆が死ねばいいんだ。なんで俺なんだぁぁぁ」
石田は先ほどまでよろけていたにも関わらず、頭を押さえ発狂する。
そして突如、石田の両手両足がむくみはじめる。
「痛いぃぃ痛いぃぃ」
そして顔や体も全体的にむくみ出し、石田が一回り大きくなったようにも見える。
「なに……これ」
思わず佐藤は声を漏らす。
井上に至っては見ることさえもできず田中の後ろに隠れている。
「いやだ! やめてくれぇ」
刹那、大きな破裂音が聞こえ辺りに血と肉片が飛び散る。
西田のすぐ傍に飛び散ってきたのは人間の指だった。
人差し指の第一関節だけがその場に血に濡れて転がり西田は恐れながらも石田を見た。
「あぁぁぁぁぁぁ」
そこには右手首が吹き飛んだ石田が血を流しながら泣き叫んでいた。
その間にも石田の体は風船のようにじわじわを膨らむ。
そして、三回連続して破裂音がする。
化学室の端にいた井上や田中の場所にまで血と肉片が飛び散る。
左手首と両足首が吹き飛び、ボロボロになったスリッパは赤く染まている。
石田は大の字になって化学室の中心で倒れそれでもまだ涙とヒステリックな叫び声は止まらない。
「死、にたく、な――」
ひときわ大きい破裂音に耳がやられ不快感に襲われる。
西田は耳に気をとられず辺りを見回す。
辺りには腕や人のどの部分なのか分かり図らい肉片から白い骨が見え隠れしたものが多く落ちている。
「うっ」
西田は思わず吐きそうになり、口に手を押さえた。
「い、いやぁぁぁぁぁ」
「あぁぁぁぁぁ」
「う、うあぁぁ」
石田の残酷な死に方を目の辺りにした白のチームの生徒は皆叫び声を上げながら部屋の外へ向かう。
『処刑はまだ終わっていません。それでは残り8名の皆さんを老死の刑に処す』
スピーカーから聞こえてくる無情の言葉に白のチームの生徒は発狂する。
「嫌! 嫌! 嫌! 死にたくない! うっ」
逃げようとしていた山本が突如倒れ、胸を押さえだす。
「い、息が」
山本の黒い髪が少しずつ色を失い白髪に変わってゆく。
「なにこれ……?」
山本は地につく自分の手にしわが増え、枯れて血管が浮き出てくるのを目の当たりにする。
「私の髪が!? 体が!?」
山本は自分の顔を触り絶望してゆく。
その場にいる全ての白のチームが同じ現象に冒され倒れてゆく。
皮と骨だけになった体は思うように動かないのか自力で立てる者は少なく、息切れが激しく立ち上がってもすぐまた倒れてゆく。
『急性老死とでも言いましょうか』
スピーカーから聞こえるのは微笑する声。
(こいつ、死を何だとおもってやがる……)
西田は険しい顔でスピーカーを睨み付けた。
やがて場が静かになるとそこは血にまみれ、肉片と制服を着た老人の死体が多く横たわる地獄絵図と化していた。
「酷い……」
佐藤は呟いた。
「もうクラスの半分も生き残ってないんだ」
田中は目を逸らしながら言葉を吐き捨てる。
誰いない静まり返ったほぼ教室だけの2号棟。
各教室から流れるスピーカーでの報告を聞き、彼は憎悪の炎を燃やした。
唐突に先ほどの出来事がフラッシュバックする。
「う……か、香織!?」
「静かに……他の人にばれたら私は殺されちゃう」
中島が目を覚ますと、敵チームであるはずの織本が彼を縛る縄を外そうとしていた。
「な、なんで?」
「彼氏がこんなことになってるのに助けない彼女がどこにいるの?」
「ありがとう……」
織本は縄を外すと中島に手を差しのばす。
その場は暗い小部屋のような場所だが、扉の奥にはガラスの棚が並んでいるのが見える。
「私は白のチームのアジトに戻らないといけないけど、かいくんは見つからないように隠れてて」
「俺達が生き残るには、黒を殺さないと……」
「黒は多分、赤の人の誰かだと思う」
織本はそう言い残してその部屋を出て行く。
頭がふらつき、織本のことを思い出した中島の頬は濡れていた。
織本に助けられてからスピーカーがなるまで二号棟の三階に身を潜めていた中島は誰とも遭遇することなく生き残った。
「くそぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
中島は叫びながら1-3と描かれた教室の扉を殴りつける。
心を焦がす黒い炎は友情という言葉を焼き尽くし、ただ怒りだけが、憎しみだけがそこに残り炎を増大させてゆく。
「香織を殺した奴らを俺は絶対に許さない! 生き残り全員殺してやる!」
中島はゆっくりと動き始めた。