監禁されてるけど、猫がいるのでわりと平気です
※同シリーズの短編と世界観・登場人物が繋がっています。
※単体でも読めます。
目が覚めると、ガリガリに痩せ細った少女の姿だった。
そして、手足が黒い茨で縛られ、汚れたベッドに寝かされていた。
最後に見た時より詰んでいる。
何故かそう思った。
「目が覚めたのね、ルナマリア」
視線を上げると、そこには妖艶な美人──義母が立っていた。
「貴女が首を吊っていて、驚いたわ。仮死状態だったから何とか蘇生出来たけど……」
優しく困った様な表情で、首を傾げながら義母は微笑んだ。
が、その表情は怒りへと一変した。
「自殺なんて愚かな事を考えたもんさ。自分が死ねば、アタシのフローラの邪魔が出来るとでも思ったのかい?」
思い出した。
私は、聖女だ。
義母として入り込み屋敷を乗っ取った魔女と、連れ子の義妹であるフローラに聖女の力を奪われ続けている。
不治の病の療養と偽り、屋敷の裏手の物置小屋に監禁されるようになった当初は、それなり丁重に扱われてた。
しかし、私は何度も逃げようとした。
その度に、暴力を振るわれ、食事が抜かれ、扱いが悪くなっていった。
そして首を吊ったことで、ついに体の自由を奪われた。
義母が胸元から杖を取り出し、呪文を唱えると、手足を縛っている黒い茨の刺が更に肌に食い込む。
「あと数日もすればフローラの身体は完全に聖女の器に作り変わる。用済みになったお前には死んでもらうよ」
私は絶望に打ちひしがれるしかなかった。
◆
数日後の夜。
数度の逃亡の末に追加された、鉄格子の嵌まった小さな窓から、私は星を眺めていた。
他にも思い出したことがある。
この世界が、別世界の小説を元にしてること。
物語からは逸脱していること。
前世の記憶があっても、もう何も出来ない。
残り少ない聖女の力も吸われ続けている。
全ての力が奪われた時、私は死ぬだろう。
その日が近いことも、はっきりと分かっていた。
◆
「にゃあ」
「エリザベス……」
壁の小さな穴から、黒い猫が部屋へと入ってきた。
ワガママなフローラが、猫を飼いたいと突然言い出し、連れてこられてた宝石のように美しい猫。
だが、エリザベス自身はのんびりとしたよく眠る猫で、ベッドに飛び乗り丸くなると、すぴすぴと寝息を立て始める。
私が虐げられている中、この猫だけが私に暖かさを与えてくれていた。
いつものように私に体をくっつけて眠るエリザベスの体温を感じながら、私は呟いた。
「私も猫になりたい」
◆
翌朝、ザリザリ……という何とも言い難い感触に目が覚めた。
「エリザベス?」
滅多に起きないエリザベスが、私のうなじを舐めていた。
「毛繕いでもしてくれてるの?」
次に生まれ変われるなら、エリザベスのお婿さんの猫なんてどうだろう。
エリザベスと同じ姿で、たくさんの愛情や幸せを共有できたら、どれだけ素敵だろうか。
そう考えると、心が暖かくなり、元気になった気さえする。
「にゃあにゃあ」
舐めるのに満足したのか、エリザベスは廊下への扉をカリカリと出たがる仕草をした。
「ごめんなさい。エリザベス。そのドアはね、内側からは開かないのよ」
ガチャ。
開かないはずの扉が開いた。
「にゃ」
エリザベスが扉の外へ出て振り返る。
着いて来いと言っているような。
「でも、私は縛られて……え?」
見せようと上げた手首の茨がボロボロと崩れ落ちる。
その上、栄養不足でろくに動けないはずの体も動き、足の茨も崩れ落ちた。
「どういう事かしら」
エリザベスの後を追って行くと庭園の隅に出た。
そこに何人かの人間が居る事に気付き、慌てて隠れる。
義母にフローラ、それと白い服の神官達に、小説のイメージ通りの姿をした第一王子。
音を立てないよう、そっと近づく。
会話が途切れ途切れに聞こえてくる。
「……フローラ様が……力に……完全に覚醒……立ち会い……」
完全に覚醒。
その言葉に私は震えた。
それは私が死ぬということ。
用意されている祭壇に、私の力を全て奪う仕掛けがされているのだろう。
しかし起動する気配はなく、義母とフローラはイライラし始めている。
ガサリ。
エリザベスが隠れていた植え込みから、フローラへ向かって歩き出していた。
「まぁ、エリザベス!どうしたの?キャッ!」
エリザベスは抱き上げたフローラの手を鋭い爪で引っ掻いた。
「痛い!この猫!全然懐かないし、もう要らない!!!!」
「に゛ゃ!」
我慢が続かないフローラは、聖女のふりも忘れ、エリザベスを地面に力一杯叩きつけると、動けなくなった体を踏みつけようと足を上げた。
「駄目!!」
思わず飛び出して、エリザベスを全身で庇う。
今の私に寄り添ってくれていたのは、その猫だけ。
私の周りに結界が現れ、バチンとフローラが弾かれる。
「エリザベス!」
「にゃ」
駆け寄って抱き上げると尻尾が揺れる。
そのまま体重を預けてきて、眠り始めた。
自由すぎる猫に思わず微笑んでしまう。
「ありがとう、エリザベス」
エリザベスを守ろうとした瞬間に、全て思い出した。
聖女の力の使い方も、何者であったかも、全て。
癒しの力を込めて、腕の中のエリザベスを撫でると、むふー、と満足げに小さな鼻息を鳴らした。
「ルナマリア!」
「義姉様!」
二人が怒りの形相で禍々しいオーラを放つ。
「私の魔法を打ち消したというの!」
「聖女の力は、私のものよ!」
本性を現した魔女二人が杖を取り出し、攻撃魔法を放つ。
「これは、私──いいや、ルナマリアのものだよ」
二人の魔法は結界によって打ち消される。
「猫と和解せよ、だっけ」
私がかかとを踏み鳴らすと、義母とフローラの身体は一瞬で痩せ細り、髪は真っ白の老婆の姿。
聖女の力で、実年齢の姿に戻してあげた。
ついでに逃げられないように蔦を生やし縛り上げる。
「いやぁーーーー!!!!」
泣き叫ぶ、かつてフローラだった老婆。
そして、聖女としての力を取り戻した私。
本物の聖女がどちらかを理解した第一王子と神官達は私へとひれ伏した。
ずっと私は、皆の行動と選択がヘタクソなだけで、この状況はなんとか出来ると思い込んでいた。
だけど、見てるのと実際は全然違ってた。
小説をなぞって大逆転するなんて、とっくに出来る状態じゃなかった。
人間への転生は、勉強になったと思う。
私は、精神世界の奥底に沈み深く傷ついた本物のルナマリアの魂を神の力で表面へと押し上げる。
「第一王子殿下。私の中の本物の聖女が目覚めるまで、保護をお願いいたします。エリザベスと一緒に」
◆
ルナマリアの精神世界。
本物のルナマリアの魂が目覚めた時、僕は全身全霊の土下座で謝った。
とても酷いことをしたというのに、ルナマリアは許してくれたので、その優しさに大号泣。
僕が渡せる加護を全振りした。
よくわからない草が生える加護も一緒に。
そして、エリザベスをよろしくと何度も何度も頭を下げた。
◆
そして、僕は神様に戻った。
僕の作った世界での転生配信は、めちゃくちゃ盛り上がっていた。
ハラハラドキドキして面白かったけど、僕が思い出すのが遅いだの、猫に感謝しろと散々言われまくって複雑な気分。
更には、最後にルナマリアに転生させた女の子の魂が消滅しかけてて危うかったと知らされ、真面目で厳しい上の神様達には、とても怒られた。
その女の子は、別の転生先で優しい人達に愛されることで魂を癒してるそうだ。
消滅してなくて良かった。
「一瞬でも聖女だった故に、力が残っていたのだろう。お前に寄り添い助ける展開は胸熱だった」
「?」
「さて、お前の謹慎中についてだが、彼女の婿になり、幸せにしてくること」
僕は驚きで、返事が出来なかった。
「なに、猫の人生はこちらの時間ではあっという間だ」
真面目で厳しいはずの上の神様の一柱がニヤリと笑った。
◆
聖女ルナマリアの側には、宝石のように美しい黒い猫がよく眠っていた。
その隣には、天使の羽根のような純白の猫と、その子猫たちがいつも寄り添っていた。
─終─
お読みいただき、そして貴重なお時間を使ってくださり、ありがとうございました。
短い間ではございますが、ランキングにも入ることができて、とても嬉しかったです。(*´∇`*)




