沈黙もまた書く
結月はノートを地面に広げた。春樹はそれらを季節ごとに並べ、颯太はまるで見えない道を辿るかのように、ノートの間を歩いた。それぞれのページが感情を、それぞれの文章が方向を示していた。彼女はこう書いた。「このノートは私をどこかへ連れて行ってくれなかった。連れて行ってくれたのは私だった。」
駅で、彼女は書いたノートをベンチに置いた。数時間後、誰かがそれを読んで、裏にこう書いた。「読む必要があると知らなかったことを書いてくれてありがとう。」結月はその言葉が読者を見つけたのだと理解した。
丘の上では、彼女は二つの石の間にノートを置いた。春樹は一文を書き、結月はもう一つ書き、颯太は足跡を残した。彼女は言った。「これは、私たちがかつて持っていたものと、これからなり得るものとの間に架け橋となる。」風がノートをちぎり、村へと飛んでいった。
その夜、誰も口をきかなかったが、結月はこう書いた。「今日、私たちは何も言わなかった。それでも、すべてが理解された。」春樹はノートの上に石を置き、颯太は近くに横たわった。炎がそれを読んでいるようだった。
このエピソードは、沈黙もまた言葉であり、肉体がなくなっても書き残したものは残るという啓示を凝縮している。




