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応答としての歌
古い市場で、路上ミュージシャンが片手で3本の弦をかき鳴らし、もう片方の手には葉っぱを持っていた。歌は悲しくも、切なくはなく、深く愛されている何かの感覚に染まっていた。葉っぱにはこう書かれていた。「彼女の名前は知らない。でも、彼女はもういない。そして、この歌は今も彼女の故郷だ」。柚木は、歌の中には名前を求めず、ただ居場所を与えるだけのものがあると記した。
その夜、春樹は初めて歌った。音程のためではなく、必要に迫られて。彼の素朴な声は、聞かれるのを待っているようだった。柚木は絵を描きながら伴奏し、颯太は近くに座り、こう綴った。「初めて歌う人は、学ぶのではない。思い出しているのだ」
このエピソードは、音楽が答えであるという確信をもって物語を締めくくる。それは何か新しいものを生み出すことではなく、すでに自分の中に待ち受けていたものを認識することなのだ。




