メニューとしてのコーヒー
再び訪れた時、女性はユズキの名前も言わずにカップを置いた。香りはナッツと湿った土の香りが漂っていた。飲み終えると、カップの底に残った言葉が浮かび上がった。「あなたが思い出すのにかかった時間も、愛情の一部だった」。ユズキはこう綴った。「忘れたくない。でも、思い出を追いかけたくない。傷つけることなく、私に追いついてほしい」
コーヒーテーブルの上のテーブルクロスには、「ここで私は笑った。ここで私は泣いた。ここで、今も私の心に残る言葉をもらった」という言葉が刺繍されていた。ユズキは刺繍された文字に指を走らせ、物語は書かれるのではなく、私たちを支えるものに縫い付けられているのだと理解した。
ハルキは飲み物の代わりに、目に見えない感情のメニューを受け取った。彼は「答えを待つ人々のためのインフュージョン」を選んだ。女性は、これは飲むものではなく、目の前に置いておくものだと説明し、沈黙はそれを友情へと変えた。春樹はこう書いた。「待つことは受動的なことではない。まだ来ていないものを思いやる方法なのだ。」
ついに、柚月は最後の一杯を頼んだ。中には湯気を帯びた小さな葉っぱが浮かんでいた。「来てくれてありがとう。あなたが言った言葉ではなく、あなたがここにいることで存在を許してくれたことに。」彼女が紙を撫でると、春樹は何かが変わったのを感じながら彼女を見つめ、颯太はベルを優しく鳴らしてそれに応えた。
二人は店を出る時、小銭ではなく身振りで支払った。春樹の絵、柚月の言葉、颯太の柔らかな吠え声。ドアが開き、通りは相変わらずだったが、カップの中のカップは空ではなく、テーブルクロスは今も語りかけ、香りは二人の肌に漂っていた。カフェは小さくなり、より永遠になった。なぜなら、場所というものは街の中にではなく、それを記憶しようとする人々の中に生きているからだ。




