空虚もまた語る
カフェは秘密を明かし続けていた。ある朝、女性は柚木の前に、柔らかな筆致で描かれた紙でできた空のカップを置いた。カップには液体は入っておらず、ただ待つことだけが満ちていた。柚木はカップを丁寧に持ち、空虚もまた友情の証だと理解していた。春樹は読書を止め、静かに見守った。宗太は、この不在もまたメッセージだと理解しているかのように、彼女の隣に座っていた。
女性は、カップの中には味ではなく、許可が与えられているものがあると説明した。柚木はノートにこう書き記した。「空虚は、焦ることなく、自分にまだ欠けているものを認識することを教えてくれている」
別の場所で、春樹はメモを受け取った。「もし自分が何を感じているのかわからないまま書くことがあったら…これもまた、感情なのだと思い出してほしい」。彼女はその紙を、まるで待ち望んでいた答えであるかのように、ノートのページに挟んだ。宗太もまた、彼からメッセージを受け取った。「静かに寄り添ってくれる人もまた、声に出して思い出されるに値する」ベルはまるで理解しているかのようなリズムで鳴った。
その日、一組のカップルがやって来て、「まだ起こっていないことのために」を注文した。女性は目に見えない香りのする空のカップを二つ出した。春樹はこう書いていた。「人はいつも期待通りのものを飲めるとは限らない。時には、自分が望むものを掴むこともある。」夕月はカップに差し込む陽光が、まだ起こっていないものを完成させていくのを見ていた。
二人が店を出る時、女性はナプキンを手渡した。そこには、夕月には彼女の言葉は届いていた、春樹には彼女の沈黙も物語の一部だった、颯太には彼の沈黙が他の人たちを言葉にするように促した、と書かれていた。ベルがひとりでに鳴り響き、目に見えない別れを告げた。カフェは閉まったが、香りは残っていた。




