歴史が夢を見続けることを選んだ場所
直樹は彼女を円形の部屋へと案内した。部屋の各壁は光で描かれたイラストで覆われていた。いくつかは結月が既に経験した光景を、またいくつかはこれから起こるであろう光景を描いていた。一つは、春樹が今まで見たことのない表情で彼女を見つめているイラスト。
もう一つは、成長した颯太が、今まで見たことのない木の隣にいるイラスト。
「これが私の物語なの?」
直樹は首を横に振った。
「君がそれを拒絶しなければ、君の物語はそうなりたいんだ。」
結月は中央に座った。
直樹は彼女にペンを手渡した。
「まだ言えないことを描きなさい。」
彼女は橋にかかる雲を描いた。
一人で歩く人影。
首輪なしで浮かぶ鈴。
直樹は見ていた。
「それなら、君の次の章は…もう始まっている。」
結月は窓から斜めに光が差し込むと同時に目を開けた。颯太はまだ眠っていたが、呼吸が違っていた。春樹はお茶を淹れていた。部屋の静寂は眠りの静寂のようだった。
彼女はノートを開いた。
最後のページはもう白紙ではなかった。
雲と橋と鐘の絵が描かれていた。
そして、彼女の筆跡らしい、しかしより流麗な文章が書かれていた。
「騎士は今も陸地のない場所を歩き続ける。しかし、彼の一歩一歩が、私の中でまだ信じたいと願う部分に触れる。」
春樹が近づいた。
何か夢でも見たの?
柚希はノートを閉じた。
彼女は微笑んだ。
いいえ。でも、彼は私のことを夢見ていたのです。
家の中は静まり返っていた。まるでまだ隅の方に眠気が残っているようだった。柚希は障子の一つに近づき、そっと開けた。しかし、庭を見る代わりに、ガラスに映る自分の姿を見つめた。それは彼女の顔ではなかった。それは、ある存在の状態に似た何かだった。
春樹はお茶を手に、畳に座った。鈴の音は静まり返っていた。
「たまには外を見てみたらどう?」柚木は囁いた。
「だって、私たちの内側にあるものが、もっと大きな声で何かを訴えているんだから」春樹は声を荒げずに答えた。
陽光が差し込んできた。
柚木はノートを開いた。そこにはこう書いてあった。
「今日は世界を観察したくない。世界が私を観察してくれることを望んでいる。説明を求めずに。」
紙が彼女を魅了した。
そして、ガラス越しに待っている庭…
彼女は柚木を邪魔しないことにした。
その日の午後、予定はなかった。訪問も、外出もなかった。ただそこにいるだけだった。柚木は布団のそばに座り、目を半分閉じ、まるで感情を見守るかのように。
柚木は慌てることなくリボンを刺繍した。春樹はタイトルを探すことなく、古い本を並べた。
静寂は空虚ではなかった。
それは空間だった。
「前に進まないのも、時にはいいのかしら?」と柚木は尋ねた。
「もちろんいいよ」と春樹は言った。時には、留まることが全てを動かし続けるのだ。
時計は、取るに足らない時間を指していた。
でも、まさにその時間…
思い出になるだろう。
焦らずに選んだから。
そして、静かに寄り添ったから。




