記憶が許可を求めない場所
カイトは二人を古い家へと案内した。自分の家ではない、誰も住んでいない、でも午後になるとポーチに座って、誰かが待っているような気分になるのが好きだという。
ハルキは屋根を見つめた。
ユズキは中に入った。
中には空っぽの額縁と、割れていないカップ、そしてコンセントは差し込まれていないのに流れているラジオがあった。
音楽は柔らかだった。
それはまるで、共有された記憶から流れてくるようだった。
ユズキは畳に座った。カイトは窓辺に、ハルキはドア枠に寄りかかった。ソウタは真ん中で眠っていた。
「ここにいた時の自分の記憶は何かある?」
彼女は尋ねた。
「ない。でも、ここに来るたびに…自分が他人ではないと感じるようになる。」
ユズキは床に触れた。
だから、ここは記憶を閉じ込める場所ではなく、思い出を返してくれる場所なのだ。
その夜、四人は空っぽの家に泊まった。
選択肢がないからではない。
必要に迫られて。
春樹はご飯とお吸い物を作った。海人は火を焚いた。柚月はランプの代わりに蝋燭に火を灯した。颯太は黙って食事をした。
食べ終わると、誰も口をきかなかった。
しかし柚月は開いたノートを畳の真ん中に置いた。
春樹はその隣に自分のノートを置いた。
海人はためらいがちに、古くて壊れやすいノートを置いた。
そしてまるで儀式のように、颯太はそれぞれのノートに鼻で触れた。
ベルの音は3種類とも違っていた。
それぞれの作家に1つずつ。
そして沈黙が空間を作った。
言葉が…
少しでも長く残るように。




