生きた手紙
夜は落ちてはいなかった。ただ、静まり始めただけだった。まるで、何の前触れもなく肩越しに漂う薄い布のように。
春樹は行き先も告げずに歩き続けた。颯太は、まるで自分の道だと悟った犬のような足取りで、すぐ近くを小走りに歩いていた。柚月は、もし口を挟めば、まだ話していないことを邪魔してしまうかもしれないと感じた。「いつもこうなの?」と、彼女はようやく尋ねた。春樹は少し顔を向けた。「何?」「この空気。この見えない糸。」「いいえ。どうしても忘れられない時だけ。」二人は小さな広場で立ち止まった。低い木々。乾いた噴水。名前が刻まれた木製のベンチ。春樹は座った。柚月もそれに続いた。颯太はまるで自分の家のようにベンチに腰を下ろした。春樹は折りたたまれた紙を取り出した。そして彼女に手渡した。「もう読んだ?」と柚月は尋ねた。「いいえ。少し前にもらったの。答えを求めていない人を見つけたら…教えてあげてもいいって言われたの。」彼女は紙を開いた。青いインクで書かれていて、文字の一つ一つがどこか悲しげな曲線を描いていた。 「もしいつか道が震え、夜が隠れようと決めたら、この言葉を静かに読みなさい。
あなたがどう記憶されたいかを知る前に、誰かがあなたを認識していた。」* 柚木はそっと紙を閉じた。恐怖からではなく、敬意から。
誰がこれを書いたのだろう?
もしかしたら、あなたかもしれない。もしかしたら、あなたの名前を知る前に、あなたを愛したいと思っていた誰かかもしれない。
颯太はベンチから降り、隅の方へと歩き、影の中へと姿を消した。
春樹も彼の後を追った。
柚木はためらった。しかし、いつものように、空気が彼女を前に進ませた。




