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以前誰かが彼らを待っていたらしい場所。
寺の裏から続く狭い路地に、若い男が古い自転車の横に立っていた。服装もいつもと変わらない。笑顔もなかった。しかし、その姿勢のどこかが、まるでこの場所にいるかのように感じさせた。
柚月は初めて会ったにもかかわらず、彼に見覚えがあった。
「この村を知っているの?」と彼女は尋ねた。
「知っているべき以上には知っているけど、知りたいほどではないわ。」
春樹が近づいた。颯太は吠えもせずに座った。
若い男はゆっくりと自己紹介した。
「僕の名前はカイト。この自転車は僕のものではないけれど、今でも乗っている。幸せな思い出を思い出すから。」
柚月は微笑んだ。
カイトは彼女を見た。
「君は文章を書くんだね?」
「時々ね」と彼女は答えた。「言葉がわからない時。」
彼はハンドルを指差した。 「そこに古いノートがある。君のものだと思う。君の存在を知る前に見つけたんだけど。」




