書くことは呼吸することと同じだった
丘の上に戻ると、ベンチは空っぽだった。しかし、その上には…別のノートが置いてあった。
結月のノートではない。
春樹のノートでもない。
新品だった。柔らかい布で覆われ、金色のリボンで結ばれていた。
そして、中にはたった1ページ、こう書かれていた。
「感じたら書け。迷ったら書け。他に何をすればいいのか分からなかったら書け。そして…書け。」
結月は書いた。
考えもしなかった。
編集もしなかった。
読まなかった。
ただ書いた。
春樹も同じだった。
颯太は彼女の隣に横たわった。
ベルが鳴った。
そして、空気が静まり返った。
まるで言葉が許されたかのように。
夜、誰も口をきかなかった。
結月は焚き火の前に座っていた。春樹は言葉もなくお茶を淹れた。颯太は安らかに眠った。
炎は、目には名状しがたいものを描き出した。
そしてその静寂の中で…
何かが語られた。
しかし、声ではない。
存在によって。
記憶によって。
音を必要としないという大切なものを持つ、その姿によって。
柚木は理解した。
春樹も理解した。
颯太はほとんど動かなかった。
そして鐘は、皆を代弁した。




