記憶が留まる場所
列車は彼らの前に停まり、ドアはまるで彼らがもはや必要としない場所へと通行を申し出るかのように開いた。空気は金属的なざわめきで震えたが、二人とも動かなかった。
柚月はノートを撫でながら、最後の一文を誰が書いたのか静かに考えていた。春樹は薄明かりに照らされたレールを見つめた。それはまるで、大地に囚われ、解放されるのを待つ星々のようだった。
「記憶は墨で記されているのかもしれない」春樹は呟いた。
「でも、誰かがそれを繋いでくれるという確信がある」柚月はそう答え、ノートを丁寧に閉じた。
颯太はプラットフォームの端へと歩みを進めた。列車は目的地ではなく、目撃者なのだと理解しているかのように、列車を見つめた。ベルが短い音を立てて震えた。それは、記憶がそこに留まることを決めたことを警告するかのように。
列車はゆっくりと出発し、プラットフォームはまるで目に見えない言葉が眠る場所になったかのように、新鮮で異なる空気を残していった。
柚月は春樹の肩に頭を預けた。急ぐ必要も、終わりもなかった。ただ、記憶が今この瞬間に根付いたという確信だけがあった。
颯太は再び吠えた。今回は驚きではなく、確信だった。
暗く静まり返った空は、まるで見えないページのように、その光景を捉えているようだった。そしてその静寂の中で、誰もが記憶が定位置を見つけたことを知った。




