合成の事実1
「こほん……改めて説明しますね」
クリアスがカリンを部屋に連れていった。
そして戻ってきて、改めて二人きりとなる。
「自己紹介はしましたね。私がクリアスです。冒険者をやってます。といっても……まだ駆け出しですけどね」
俺はベッドに腰掛け、クリアスは椅子に座って対面する。
額に浮かんでいた紋章はいつの間にか消えていた。
クリアスの瞳も元に戻っていた。
「冒険者になったのは妹を助けるためです。妹はある病気で……このままだと死んでしまうんです。だからお薬のために、材料とお金が必要なんです」
改めてクリアスは自分の置かれた状況を説明する。
この世界の人間は魔物に対して自分の身の上話をするものなのだろうか?
そんな疑問を俺は抱く。
普通はしないだろうし、自分ならしない。
クリアスの純粋さが故なのかもしれない。
「この町の近くにちょうど必要な薬草が採れるダンジョンがあるんです。そこで薬草を採ってくれば……妹を治す薬を作ってもらえることになってて」
あるいは改めて説明するという形で、自分自身に何をすべきなのか言い聞かせているのかもしれない。
俺としてもクリアスが何をしたいのか分かっている方がいい。
話は大人しく聞いておく。
「冒険者は魔物を従えて活動します。だから……コボルトさん、お願いです。私と……カリンを助けてください」
クリアスは頭を下げる。
だが、コボルトである俺に何ができるのか。
コボルトは非力な魔物。
クリアスを助けられたのだって偶然の産物だ。
恩返しとして助けようとは思うけれど、頭を下げるような価値があるとは思えない。
「‘ふぅ……何ができるか知らないけれど……やるだけはやってみるか’」
でも現状、互いに互いを頼るしかない。
何もできないだろうと考えるよりは、何ができるのか考えて足掻いた方がいい。
俺はベッドから立ち上がると頭を下げるクリアスの肩に手をおく。
任せておけ、とまでは言えないけれど、やるだけやってみるよと頷いてみせる。
「ありがとうございます!」
「‘おっと……!’」
目をうるっとさせたクリアスに抱きしめられる。
久々に人に抱きしめられたなと思いながら、俺は優しくクリアスの背中をポンポンと叩いてやる。
クリアスも不安だったのかもしれない。
冒険者というやつが魔物と契約して、魔物を引き連れて戦うものだということは理解した。
魔物を連れていて魔物と戦うのと、魔物がいない状態から最初の魔物を捕まえるために戦うのではきっと大変さも違う。
変態どもに騙されて襲われかけたということもある。
ようやくちゃんと魔物と契約できた安心感があるのだろう。
仲間を得られた安心感という話なら、俺にも理解ができる。
攻撃してこない信頼できる相手がいて、雨風にさらされない家の中がこれほど心落ち着くものだったのだと、今になってようやく知った気分になる。
「私たちはパートナーです! 頑張りましょうね!」
目尻に滲んだ涙を拭うようにしながらクリアスは笑顔を浮かべた。
流石に正面から笑顔を向けられると少し照れる。
「じゃあまずは登録に行きましょうか!」
「‘登録?’」
俺は首を傾げる。
「契約した魔物は魔獣って呼ぶんです。一応ちゃんと登録しておかないとダメなんですよ。入れ替わりが激しくてちゃんとしていない人もいますけど、登録していないと問題になった時に魔獣が保護されなかったり罪が重たくなったりするので」
クリアスは俺の意図を察したかのように説明してくれる。
ただの魔物というよりは、何も知らない人っぽく扱ってくれている。
その点はありがたい。
「町の方に行かなきゃいけないけど……あっ、そうだ! ちょっと待っててくださいね!」
何かを思い出したようなクリアスは慌ただしく部屋を出ていく。
ベッドに座って足をプラプラさせて待っていると、すぐにクリアスが戻ってくる。
手には何かピンク色の布を握っている。
「魔獣は魔物と区別する必要があるんです。そのために何か特徴的なものを身につけさせるんですよ。人によっては自分の名前が入ったネームプレートに紐を通したものだったり、中には……焼印なんていう人もいます」
「‘なんだか嫌な予感するぞ’」
「でも私はこれでいいかなって思いました!」
クリアスはピンクの布を笑顔で広げる。
やや大きめのバンダナぐらいサイズである。
「‘おい……それをどうするつもりだ’」
俺の言葉はクリアスに通じない。
クリアスはピンクのバンダナを広げたままジリジリと迫ってくる。
「‘お、おい……’」
「動かないでくださいねー」
そのままベッドの上で俺は隅に追い詰められる。
クリアスは俺の頭にピンクのバンダナを被せ、アゴの下でキュッと結ぶ。
「うふふ、可愛くていいですね!」
「‘なんもいくない……’」
頭巾のようにピンクのバンダナを被せられて、俺はなんとも言えない複雑な表情を浮かべていた。
「あっ!」
俺はバンダナを引っ掴むと後ろに下ろす。
そして軽く回して調整し、首に巻きつけるようなスタイルに変更する。
いくら魔物になろうとも羞恥心は残っている。
ピンクも恥ずかしく、その上頭巾のように被っているなんてわずかに残るプライドが許さなかった。
クリアスが期待した顔をしているので、ギリギリピンクは許容するとしても、つけ方だけは返させてもらう。
コボルトにピンクの首巻きバンダナだなんて、かなりミスマッチだなと机の鏡に映る自分の姿を見て思う。
ただ、まだ目に宿る光は人のモノである。
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後書き
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