共に歩む1
「ここって……まさか……」
俺は走り抜けた。
ザイハンシと戦ったところから俺はひたすらに走り、町中も速度を落とすことはなかった。
クリアスはヘルンを抱きしめるように胸に抱えて、俺の背中にしがみついていた
そうして訪れたのは、冒険者ギルドの前。
一瞬なぜここに来たのかクリアスも分からないようだったが、すぐにその意図を察した。
「合成……するつもりですか?」
俺の背から降りたクリアスは驚いたような顔をしている。
「‘そうだ……そのつもりだ’」
俺はクリアスの目を見上げて頷く。
まだ間に合う。
確実に命の灯火は小さくなっている。
しかしまだ燃え尽きていない。
「‘……アニキ…………’」
「‘死ねば終わりだ。死に……意味なんてない。でも死ぬまでに何か一つでも成すことができたなら……生きていた記憶は俺たちの中に残るだろう’」
「ようやく……ラクさんも仲良くなってきてたのに……」
クリアスは目に涙を溜める。
その気持ちは分かる。
「‘だが別れを惜しむ時間もないぞ’」
ヘルンはもう限界だ。
俺の呼びかけにも応じず、時折浮かされるように俺のことを呼ぶ。
「……わかりました。行きましょうか」
俺がクリアスの背中を押してやる。
クリアスは泣かないようにと鼻をすすり上げて冒険者ギルドの中に入っていく。
「彼らが全滅って……」
「メルドランギルドの建物も吹き飛んだと……」
冒険者ギルドの中は相変わらずざわついている。
ただ今日はカウンターの奥の冒険者ギルド側の人たちもなんだか騒がしい。
俺のミミにも不穏な言葉が聞こえてきているが、今はそんなことを気にしていられない。
正直気になるが、後になればきっと分かるだろう。
「今なら空いていますよ」
合成室は運良く空いていた。
待たされたら時間切れになるところだったのでありがたい。
「……ヘルンさん、ありがとうございました」
魔法陣の一つにヘルンをそっと寝かせる。
クリアスの声は震えている。
短い間だったけど、濃い時間を過ごしたものだと思う。
「ぐす……それじゃあ、始めますよ?」
クリアスの頬に堪えきれない涙が一筋流れる。
別に泣かないのが強さじゃない。
泣いたっていいと思う。
俺も魔法陣の上に座って、チラリとヘルンのことを見る。
もうきっと俺のことも見えていない。
「……ラクさんも、ラクさんで戻ってきてくださいね」
クリアスは少し不安げな顔をしている。
一度目の合成は、中身が俺のまま終えることができた。
しかし今後も同じく俺のままでいられるとは限らない。
合成のたびにクリアスとしては不安なのかもしれない。
俺もほんの少しの不安はある。
だけど、多分今回は大丈夫だろう。
「‘行ってくるよ。ヘルンの死を無駄にはしないさ’」
魔法陣が光を放つ。
光が強くなっていき、視界が白く染まっていく。
同時に俺の意識も白く飲み込まれていくのであった。
ーーーーー
「‘なんか……ここは好きになれないな’」
気づいたら白い世界に俺は立っていた。
何もなく、ただ静寂が広がる白い世界は寂しさを覚えさせるようで、胸をざわつかせる。
まるで孤独に放り込まれたかのようだ。
「‘アニキ’」
「‘ヘルン’」
前回の経験から戦いを予想していたが、普通に声をかけられて俺は驚きながら振り返る。
そこにヘルンがいた。
「‘元気そうだな’」
「‘……そうでもないっす。頭の中が……なんか変な感じっす’」
ヘルンを見た瞬間から、戦えと言われているような妙なざわつきが反応を撫でる。
どうやらヘルンも同じらしいが、理性の強さはヘルンもそこらへんの魔物と比べ物にならない。
だから謎のざわつきに抗えている。
「‘自分……死ぬんすね?’」
「‘そうだ’」
「‘……色々と、楽しかったっす’」
ヘルンがフラフラと俺に近づいてくる。
「‘なんでか分からないんすけど、どうしたらいいのかだけなんとなく分かるんす。自分はこれから消える……少し、怖いっす’」
消え入りそうな声のヘルンは俺に抱きついた。
「‘あーあ、もっと生きたかったっす。もうちょっと頑張って強くなって……もうちょっと生きて……アニキとツガイにでもなりたかったっす’」
ヘルンは俺の胸毛に顔をうずめる。
「‘お前……メスだったんだな’」
「‘失礼っすよ? オスだと思ってました?’」
「‘気にしてことなかったな’」
聞くなら最初だったのだろう。
だが特に性別を気にすることもなく、ここまできていた。
一人称は自分だし、声の聞こえ方はやや高めだけどそれで性別が断定できるものでもない。
別にオスだと思っていたということもないが、メスだと思っていたこともない。
ヘルンはヘルンだった。
特に色目を使われたような覚えもなかった。
だからツガイになりたいと言われて、少し驚いた。
「‘それもアニキらしいっす。それが自分の好きなアニキっす’」
「‘……すまなかったな。守ってやれなくて’」
「‘自分がもっとちゃんと動けたらよかったんす。アニキのせいじゃないっすよ’」
静かな会話。
ヘルンにいつもの様なおちゃらけた雰囲気はない。
「‘アニキ……’」
「‘ヘル……ン’」
「‘自分知ってるんす。人間はこうやって情愛を示すって’」
ヘルンは俺の鼻にそっと唇を当てた。
ニコッと笑うヘルンは、どこかメスっぽさがあった。




