復讐の終わり3
「どうするつもりなのでしょうか……?」
「‘まあ、どうしようもないよな’」
人質をとって一時的にこう着状態にしたのはいいが、後がない状況である。
動ける人質ならともかく、動けない人質を取ったところでその場を動くことはできない。
時間が経って青年の冒険者の死が確実になれば、人質としての価値もなくなる。
それならまだ泣きながら命乞いでもした方が逃げる隙を作れそうなものだ。
「……チッ! せっかくここまで来たのに……いや、そろそろ試してみようとも思っていたんだ」
「‘なんだ?’」
ザイハンシは独り言を叫ぶ。
誰に言っているわけでもなさそうに、みんなに聞こえるほどの声量だった。
「コカピヨス! お前の真の力を見せつけてやれ!」
コカピヨス。
なんとも気の抜けた名前である。
ただヒヨコの魔獣にはピッタリ名前だろう。
「‘…………なんだ?’」
眠そうな目をしていたコカピヨスの目がカッと見開かれる。
「‘なんか……様子が変っすね’」
ゆらゆらと揺れていた体が止まり、大きな目で地面を見つめる。
「な、なんですか、あれ!?」
メキョリ。
そんな鈍くて不快な音が俺たちの耳にも聞こえてきた。
コカピヨスの背中が突然盛り上がった。
「‘うわ……うわわわ……’」
背中だけじゃない。
全身がボコボコと膨れ上がって大きくなっていき、コカピヨスの可愛らしかった見た目はあっという間に変化を遂げていく。
周りを囲む冒険者ギルドの連中も困惑したような顔をしている。
「‘こりゃあ、やばそうだな’」
「お前の力を見せてやれ! そのために俺は危険な橋を渡ってきたんだ!」
ザイハンシが高笑いする。
人の頭ぐらいのサイズしかなかったコカピヨスは人よりも巨大化して、黄色い羽がほんのりと赤みを帯びた白に変色した。
まるで蛇のような尻尾が生えてきて、コカピヨスはヒヨコから突然ニワトリになってしまった。
「‘……いや、コカトリスってやつか?’」
そんな魔物の名前を俺は聞いたことがある。
甲高い鳴き声でコカピヨスは叫び、翼を広げる。
「……ピルピザ!」
コカピヨスが口を大きく開けて、灰色のブレスを放った。
ブレスは逃げ遅れた魔獣の一体に当たる。
サルような見た目をした魔獣の体がみるみると石化していき、最終的には全身が石になって動かなくなってしまった。
ヤバそう、というかヤバい。
「‘このままじゃ負けそうだな……’」
冒険者ギルドの方も人質が、なんて言ってられなくなった。
「なっ……ああっ!」
「あっ、エルパーさんが!」
エルパーは戦いが始まってすぐに姿を消して機会を窺っていた。
コカピヨスの後ろから近づいて攻撃しようとしたのだけど、バレたらしく蛇の尻尾に捕まった。
蛇の尻尾が巻き付いて、エルパーは苦痛に顔を歪める。
抜け出そうと足掻いているが、エルパーの力では抜け出せない。
「……あ、ああ…………」
コカピヨスはそのままエルパーを締め上げた。
骨が折れ、何かがつぶれるひどい音がした。
エルパーの目がグルンと上を向いて抵抗がなくなり、コカピヨスは興味なさげにエルパーを投げ捨てる。
「‘し、死んだ……んすか?’」
「‘そうだろうな’」
エルパーの肩に乗っていたカメレオンがサッと逃げていく。
契約が終わりを迎えたのだ。
義理を立ててエルパーに付き合う必要はない。
「ど、どうしましょうか?」
コカピヨスが暴れて、ザイハンシはそれを愉快そうにみている。
六人相手に戦況をひっくり返せないだろうと考えたのは改める必要がある。
冒険者ギルドのギルドの方が負けてしまうだろう。
「‘ヘルン、命をかけてみる気はあるか?’」
「‘アニキ?’」
冒険者ギルドの方が負けてしまえば、ザイハンシは姿をくらますことになる。
メルドランギルドの方にも冒険者ギルドがいってるのだから帰る場所もない。
逃げられたら、もう捕まえることは難しい。
人を食わせて魔獣を強化していたようだ。
ここで逃したら、どこかでまた同じようなことをやるかもしれない。
コカピヨスがもっと強くなったら、それこそ止められなくなってしまうかもしれない。
「‘クリアス、行かせてくれ’」
俺に尊い正義感なんてない。
だからといって未来において、何かの被害を及ぼしそうな悪を見逃せるほど血が冷たいわけでもない。
俺は顔を青くして呆然とするクリアスの脇腹を鼻でつつく。
「ラクさん……? 何をやるつもりなんですか? あんなの……勝てませんよ?」
クリアスは俺の目を見て、何かを察したようだ。
嫌だと首を振る。
俺もあんな化け物に勝てるとは思っていない。
「…………やるつもりなんですね?」
どうせ通じない言葉などいらない。
俺はクリアスの目を見つめた。
「絶対……絶対無事に帰りましょう……危なくなったら逃げると誓ってください」
「‘わかったよ。俺もここで命を捨てるつもりはない’」
「‘んて、どうするんすか?’」
「‘お前の復讐をするんだよ’」
クリアスに分かりやすく頷いた俺は戦いに視線を向ける。
戦いというより冒険者ギルドの奴らがなんとかコカピヨスから逃げ惑っているような状態であった。
「‘狙うのは……ザイハンシだ’」
その中でも俺の目は高笑いするザイハンシに向けられている。




