怪しい動き3
「ふふん、やっぱり私の力も必要なようですね」
「‘おおっと……ヘルンのが移ってしまったようだな’」
「‘何が移ったんすか?’」
「‘調子乗りなところだよ’」
「‘なっ!? どこがっすか!’」
クリアスは嬉しそうな顔をして、胸を張る。
そんな様子を見て俺はヘルンみたいだと思った。
クリアスが調子に乗っているのには理由がある。
「いざ尾行ですよ!」
ザイハンシについてエルパーに話した。
危ない奴を野放しにはできないので、渋々ながらもザイハンシの行動パターンについて教えるしかなかった。
ただそこで向こうから思わぬ提案があったのだ。
「あの男の人のこと、しっかり見張っておきましょう!」
手伝ってくれないかと言われたのだ。
どうにも人手が足りないらしく、メルドランギルドとザイハンシを追いかけるとそれでいっぱいいっぱいなようなのである。
そこでクリアスに、ザイハンシが接触していた青年の冒険者の尾行をお願いしてきた。
クリアスは任せてくれるのならと引き受けた。
俺も反対はしなかった。
「‘ただ……どうにもテイのいい厄介払いのような気も……’」
俺としてはザイハンシの周りをうろつかれると面倒だから、こんなことを押し付けたのではないかと感じていた。
ただまあ、クリアスはやる気を見せているし、ザイハンシが何をするつもりなのか気になっていた。
エルパーには隠密に動く能力があるからザイハンシにもバレにくい。
それに青年の冒険者の方が尾行するのも楽そうだ。
「‘ほんで、あいつは何してるんすかね?’」
今日の青年の冒険者はダンジョンに向かわず町を出た。
一人で何をするのかと、俺たちは距離をとって尾行する。
「‘魔物探しか’」
青年の冒険者は街からあまり離れないようなところをウロウロし始めた。
そして複数いる魔物は避けて、一体だけでいる魔物と戦う。
それを見て俺はすぐにピンときた。
先日ザイハンシに青年の冒険者は合成を勧められていた。
合成をするなら少なくとも魔獣が二体必要となる。
青年の冒険者はコボルトを連れている。
他に魔獣はいなさそうなので、合成のためにはもう一体の魔獣が必要になるということだ。
「明らかに動きが悪いですね……ラクさんの方がすごかったです」
コボルトも戦いに参加しているけれど、コボルトなりの動きをしている。
言ってしまえば動きは悪い。
コボルトだから仕方ないが、クリアスの中には俺という基準ができてしまっている。
できるコボルトを見た後じゃあ、青年の冒険者が連れているコボルトの動きが悪いと思っても仕方ない。
なんせコボルトといっても俺だったからな。
「あっ! やってしまいましたね……」
魔獣として従えるためには相手を弱らせねばならない。
相性や魔獣の強さ、契約者の魔力の量などによって変わるが、相性がいいなんて方が珍しいらしく、結構ギリギリまで追い詰めなきゃいけないことも少ないとどこかで聞いた。
冒険者ギルドの酒場で聞き耳を立てて聞いた話なので本当かどうかは知らないが、弱らせなきゃいけないことは確かだ。
ただギリギリまで追い詰めるってのも簡単じゃない。
「‘自分も契約断ったらあんなふうにボコボコにされたんすかね?’」
「‘おうともよ’」
「‘ひぇぇ……’」
「‘一歩間違えるとボコボコどころじゃないからな’」
相手も抵抗する魔物だ。
ギリギリを狙っても失敗はつきもので、失敗すると魔物が死んでしまうこともある。
青年の冒険者は加減をミスって魔物を倒してしまった。
追い詰められると抵抗もより激しくなるからしょうがない。
「‘そのうち俺たちもあんなふうに苦労することもあるんだろうな’」
今の所魔獣との契約についてクリアスはあまり苦労していない。
俺はクリアスに大人しく従ったし、ホーンフォックスも死にかけで半ば取引で契約した。
ヘルンなんか脅して従わせたも同然である。
基本的にこんなふうに契約するのは普通じゃない。
次に魔物を従わせようと思ったら戦ってということになるだろう。
「‘……お前はどうなるんだろうな?’」
「‘なんすか?’」
俺はチラリとヘルンのことを見る。
ふと思ったのだ。
合成したらヘルンは消えるんだろうか、と。
俺は消えない。
見た目は変わっても俺のままだ。
だがそれは俺が特殊であるという話だ。
ヘルンはどうなのか。
こうして話している時点では特殊な魔物であるが、仮に合成したとしてヘルンとしての中身は維持されるのだろうか。
「‘……短い付き合いだったな’」
「‘えっ!? なんすか!? 自分殺されるんすか?’」
多分維持されない。
合成したらヘルンは消えるだろう。
クリアスがどういうつもりでいるのかは知らないが、またどこかで合成するという選択は出てくるはずだ。
俺はともかく、ヘルンはきっと合成後に違う魔物になる。
少し遠い目をする俺にヘルンは困惑している。
考えてしまうとなんとも寂しいもののような気がするけれど、仕方ないことだと割り切るしかない。
いつかその時が来るのかもしれない。
「‘まあしょうがない’」
「‘さっきから何がっすか?’」
「‘んー? お前が弱いって話だ’」
「‘だから何がっすか!’」
弱いから合成するしかない。
この世界の、非情なルールなのだ。




