木の中の森のダンジョン5
「‘飛び出すなよ?’」
「‘うぅ〜〜分かりましたよぅ!’」
今にも襲いかかりそうなので、俺は軽くヘルンの服を引っ張って止める。
「……少し聞き耳を立ててみましょうか」
幸い相手はこちらに気づいていない。
相手の女性が被害者とも確定したわけでもないので、何を話しているのか様子を窺う。
「もう少し奥に行くと出てくる魔物も変わってくる。あまり奥まで行かずに慣れていくのがいいと思いますよ」
「‘つまんねぇアドバイスだな’」
特別な話をしているわけでもなく、ごく普通のアドバイスをつらつらと口にしているだけ。
ダンジョンのことを知らない俺でも言えてしまいそうな浅いアドバイスだ。
ただ相手の子はそんなアドバイスもしっかりと聞いている。
本当に駆け出しのようだ。
「‘……デカいひよこか?’」
二体いる魔獣のうち一体は人の膝丈ほどの大きさがあるひよこであった。
可愛らしい見た目をしていて、暇なのか眠そうな顔をしている。
とてもじゃないが人を食らっているようには見えない。
そして、もう一体は全身に毛がない猿のような魔獣だった。
こちらはジッと女性の冒険者のことを見ている。
毛なし猿の方もそんなに凶暴には見えない。
どちらがどちらの魔獣なのか、位置も微妙で分からない。
「‘会話に怪しいところはないな’」
ひたすらにアドバイスで、怪しい単語が出てきたりはしない。
「‘うちの時もそうだったっす。もうちょいまともなアドバイスでしたけど’」
「‘今はまだ相手の信頼を得ようとしている時期のようだな’」
怪しい行動はせずに女性の冒険者の信頼を得ようとしている、と俺は考えた。
タダで基礎的なことから全部教えてくれるバカみたいに優しい人なんてほとんどいない。
女性の冒険者の目を見るに、もうだいぶ信用してしまっているような感じがある。
「どうしましょうか……」
相手はメルドランギルドの男だけである。
キツソウもいないし、取り巻きの男たちもいない。
ヘルンの復讐したいならチャンスではある。
ただクリアスにとってメルドランギルドの男は復讐の相手ではない。
ヘルンの事情も知らないし、攻撃するつもりはないだろう。
俺たちが勝手に攻撃するわけにもいかない。
変に攻撃して逃げられれば悪いのは俺たちになる。
加えてキツソウも逃げてしまうかもしれない。
「‘あっ、移動しちゃうっすよ!’」
一通りのアドバイスを終えたメルドランギルドの男と女性の冒険者が動き始めた。
「‘いや、ここは撤退だな。別のところに行こう’」
「‘ええっ! 何でっすか!’」
「‘追いかけるにはちょっと辛い’」
木が生えているとは言っても、身を隠すには心許ない。
隠れながら移動するにはちょっと視界が開すぎているので、向こうにバレてしまう可能性が高い。
ただバレるだけなんて、こちらに利益も何もなさすぎる。
追いかけても時間を無駄にして浅いアドバイスを聞かされるだけになりそうだ。
「‘タイミングを見極める。これも大事だ’」
「……どこか行くんですね? 行きましょうか」
「‘くぅ……しょうがない’」
俺はクリアスの服を咥えて軽く引っ張る。
追いかけるつもりがないとクリアスはすぐに察してくれる。
ヘルンはすごく残念そうに肩を落としたが、理由をちゃんと説明してやれば理解できないような奴じゃなくて助かった。
「‘まあ、少なくともアイツは今後も同じようなことをするつもりということが分かった。上手くやればどっかに突き出せるかもな’」
ヘルンの元契約者にやったようなことをまたするつもりなのは容易に予想できる。
人を殺して魔獣に食わすなんて明らかに犯罪で、それが周りにバレれば逮捕される事は間違いない。
相手の女性の顔は分かったのだから、何かがうまく嵌ればメルドランギルドの男をどうにかできるかもしれない。
「‘それよりももっとうまく戦えよ? 戦えるようになればアイツも殺せるかもしれないぞ’」
「‘むっ……頑張るっす!’」




