変なゴブリンの目的1
「‘聞いてくだせえ、自分の話を……’」
「‘まあ、話は聞くって言ったしな’」
俺とクリアスの静かな二人旅が、やや賑やかな三人旅になった。
変なゴブリンは俺に脅されつつも、クリアスの契約を受け入れた。
一応本人の資質なんかによって契約できる魔獣の数は違うらしいのだけど、クリアスは俺とカリンを含めて三体の魔物と難なく契約してみせた。
変なゴブリンは魔獣の証拠として赤いスカーフを首に巻いている。
「‘ありがとうございやす、アニキ’」
変なゴブリンは俺のことをアニキと呼ぶ。
最初は旦那だったけど、なんか嫌だったのでやめさせたらアニキになった。
ゴブリンにアニキと呼ばれるのもなんだか微妙な気分であるが、まあ旦那よりはいいだろう。
変なゴブリンは一人でもしゃべる。
八本足のイノシシに追いかけ回された愚痴を俺は歩きながら聞かされた。
お腹が空いてふらついていたら、他のモンスターの食べ残しを見つけて食べていた。
そこに食べ残しの匂いに釣られた八本足のイノシシがやってきたらしい。
食べ残しよりも新鮮な肉がいいのはどこでも同じ。
変なゴブリンは八本足のイノシシに追いかけ回されることになった。
危ないところを俺たちにたまたま助けられたのだ。
助けたつもりはなかったのだけど、偶然にそんな形となった。
「‘まず自分の身の上から……’」
歩きながらも色々話していたけど、日が落ちて野営をすることになった。
歩いていても話していたのから、歩かなくなれば余計に話すというものだ。
クリアスには言葉が通じない。
だから自然と話される相手は俺になってしまう。
「‘自分は……ただのゴブリンじゃないです!’」
「‘そうだろうな’」
「‘ええええっ!? リアクションうっすっ!’」
俺の淡白な反応に変なゴブリンの方が驚いてしまう。
普通のゴブリンじゃないのはもう明らかだ。
見た目もそうだし、こんなにおしゃべりなのもだ。
今更普通のゴブリンではないと宣言されたところで驚きもしない。
俺はスンとした目をして、変なゴブリン大袈裟なリアクションを眺める。
「またお二人で話してますね……ぷぅ」
何を話しているのか分からなくとも、何かを話していることはクリアスにもわかっている。
焚き火に投げ込む予定の細い枝で地面に何か絵でも描きながらクリアスは少し拗ねていた。
別に俺は人の話聞くのが好きでもないから、代われるなら変わってほしいぐらいだ。
クリアスと変なゴブリンで話していても俺は拗ねたりしないし。
「‘自分、実は野生の魔物じゃないんです!’」
「‘ほう? どういうことだ?’」
ただのゴブリンじゃないことは驚きでもないが、野生の魔物ではないというのは気になる。
魔獣として契約できた以上は、野生の魔物だろう。
クリアスが携帯用の小さい鍋に干し肉なんかを入れて簡易的なスープを作る横で、俺は少しだけ興味を持った目を変なゴブリンに向ける。
「‘自分実は……人間と契約してたんです’」
そんな気はしていた。
自然発生して、人間とも契約もしたこともない魔物だと考える方がおかしい。
「‘合成? とかいうやつで自分は生まれたみたいです。だから……親とか知らないし、契約してた人間が親みたいなものだったんす’」
「‘なるほどな……’」
合成魔物の野生化。
クリアスからそんな話を聞いたことがある。
合成された魔物は既存の魔物の姿をしていることもあれば、新しい特徴を持っていたり新しい姿をしていることもある。
多くの場合では魔獣の方が先に死ぬ。
危なくなったら命令で魔獣を犠牲にしたり、囮にしたり、なんにしても死ぬ時は一緒ということも少なくない。
だが時に魔獣だけ生き残ることもある。
そうなったら魔獣は自由だ。
思い返せば、クリアスを襲った男たちの魔獣は男を殺した後逃げていた。
「‘合成で生まれた……というのも納得だな’」
変なゴブリンも自然に生まれたのではなく、合成によってホブゴブリンとゴブリンの間のような感じで生まれたのだろう。
何かのきっかけで契約していた主人を失った。
腹を空かしてふらついていたとか、八本足のイノシシに追いかけられたとか、野生での経験がないからそうなったと考えると辻褄も合う。
「‘復讐……お前の契約者についてか?’」
こうなると話の先も見えてきた。
復讐に手を貸してほしい。
そんなことを言っていた。
なんに対する復讐なのか、その時は分からなかったが、今はうっすらと予想できている。
そもそも合成で生まれた魔物が関わった相手なんて、それこそ契約者ぐらいのものだ。
「‘うっす……そうっす’」
変なゴブリンは少し暗い顔をする。
何があったのかは知らない。
ただ変なゴブリンは独りだった。
そしてクリアスと契約できたということは、契約者は死んだか、変なゴブリンを自ら手放したということになる。
反応を見るに後者だろう。
「‘良い子だった。冒険者なんてしてたけど……そんなことに向かないような人間だったんす’」
「‘何があった?’」
「‘……騙されて、殺された’」
日が沈む時に、これまた気分が沈むような話がきたものである。
内容も予想できていた。
ただやはり、聞いてしまうと俺も少し気分が重たい。




