セカンドパートナー2
「‘まあ、俺の希望よりクリアスの希望次第だな’」
どうせ希望は伝えられない。
だけどノーは割と簡単に伝えられる。
クリアスが魔獣にしたいと思う中で、俺が嫌じゃなきゃそれでいい。
「‘あー、そういえばスキルって要素もあるな’」
忘れがちだけど、スキルってものもある。
ウルフの体になって疾走やファイヤーボールというスキルを手に入れた。
疾走はお手軽に速度上昇できるし、ファイヤーボールは魔法を習わなくても魔法が使えるようになった。
目に見えている形としてあるわけではないのでふと抜けてしまうが、実はかなり強力な強化だ。
「‘こう……弱くても特殊なスキル持ち……とかそんなのあんのかな?’」
スキルというのもどんなものなのかも、いまいち分かっていないところはある。
ファイヤーボールについては、おそらくホーンフォックスから受け継いだものだろう。
となると他のモンスターからスキルを受け継げる可能性があるということだ。
強いスキルを受け継ぐことができればありがたい。
もちろんパッと分かる強力なスキルも欲しいけど、そんな魔物は強くて捕まえるのも大変だ。
俺が今、魔物じゃ活かしきれないけど実は優れているスキルというのもあるのではないか、と考えていた。
「‘……わかんねぇな。どんなスキル持ってますかって聞くわけにもいかないしな’」
魔物に対しても、知能が高ければ言葉通じそうな気配はある。
ただ基本的に魔物は敵だし、今のところ言葉で返事してきた魔物はいない。
聞いてみてもいいけど、無駄だろうな。
「‘まとめると二足歩行で、俺に色目を使わず、合成する時にもいいぐらいの強さで、良いスキルを持ってる魔物……ダメだな。そんな魔物がどんなもんか想像できない……’」
全ての条件を詰め込んでみた。
魔物博士だって、俺の希望に合致する魔物を見つけるのは大変だろう。
そもそも魔物博士なんているのか?
まあ、いい。
この中でいくつか条件を満たしていればベスト。
せめて俺に色目使わなきゃいいかな。
「どんな魔物がいいか……うーん、何を考えてもウルフさんがいいなって思っちゃいますね」
腕を組んで考えていたクリアスは少し照れくさそうに頬を赤らめる。
どんな魔物がいいかで、俺を思い浮かべてくれるのならそれはそれで嬉しい。
まあ、確かに俺の能力は他の魔物にはないものだと言える。
先頭における能力はともかく、中身は人間だ。
理性的に考えて、理性的に動く。
思考するというところはやはり他の魔物とは一線を画すと自負がある。
魔物と比較して自慢するだけ悲しくなってきた。
「また尻尾がしょんぼりしてますよ? どうかしたんですか?」
「‘なんでもない……’」
魔物から戻れる希望はできたものの、その希望もあまりに細い。
どこかで魔物であることを受け入れつつある自分がいるようで嫌になる。
「‘はぁ……せめて二足にならなきゃ危ないな…………ん?’」
ため息をついた俺のミミがピクリと動く。
何かの音が聞こえる。
「ウルフさん?」
急に俺が立ち止まったものだから、クリアスも不思議そうな顔をして立ち止まる。
俺は音が聞こえる方に顔を向ける。
クリアスに音は聞こえていないよう。
ベースに備わっている能力はやっぱり魔物の方が高い。
「‘何かが走ってくる。音は二種類……?’」
音としては何かが走っている。
近づいてきている。
敵襲かと思ったけど、よく聞いてみると音は二種類ある。
どちらも近づいてきているのだけど、なんとなく音の質感が違う。
「‘追いかけてる?’」
何かが何かを追いかけている。
「‘クリアス、下がってろ’」
俺たちを狙っているわけじゃなさそう。
ただ逃げるにしても相手の移動速度が速い。
特に隠れる場所もないので、逃げればむしろ気を引いてしまうかもしれない。
「何かあるんですね」
分かりやすく唸って異常を知らせてやる。
クリアスは俺の後ろに移動して、俺はいつでも攻撃できるようにツノに魔力を送り込む。
ツノの周りを炎がグルグルと回りだす。
改めて状況を確認する。
デコボコとした田舎道はさほど広くもない。
道の両側は木がまばらに生えた草原だが、草はやや背が高い。
見通しとしては少し悪いぐらいだけど、人ならば胸から上が出るだろう。
今のところ人のようなものは見えない。
何が何を追いかけているのか知らないが、何があったのか確認してからでは対応が遅い可能性がある。
「‘こんなところ走ってくる方が悪いんだ’」
何かが見えたらすぐに魔法を放つ。
そのつもりで俺はやや頭を下げて、音のする方向を睨みつける。
クリアスも魔法陣を展開して魔法を放てるようにしている。
「‘…………ファイヤーボール!’」
草が不自然に揺れる。
何かが飛び出してきた。
とりあえず、人間じゃない。
俺はファイヤーボールを放った。
ただの魔物なら別に攻撃したって構わない。
魔獣だとしたら、こんなところ走らせるのは不注意というものだ。
たとえ人間だったとしても、俺は殺すつもりで一撃を放ったのだ。
「‘なっ……!’」
判断の時間など、ほんの一瞬だっただろう。
草から飛び出して、俺のファイヤーボールが見えて行動に移すまでの時間なんてほとんどなかったはずだ。
なのに飛び出してきたものは俺のファイヤーボールを回避した。




