生と死3
「せ、先生がくるはずだから……診てもらって……」
焦りを抱えるクリアスの手は震えている。
今の状況がなんなのか、あるいは解決する方法もはなんなのかも分からないので、医者を待つしかない。
「すいません! 誰かいらっしゃいますか?」
静寂の時間を打ち破るように誰かが家のドアを叩く音が聞こえた。
「あっ、出なきゃ……カリン、ここにいてね」
来客に対応している場合でもないが、クリアスも正しい判断をする精神的余裕がない。
クリアスはフラフラと玄関に向かう。
「‘お姉ちゃんどうしちゃったのかな?’」
カリンは自分の状態を分かっていないようで、首を傾げている。
「‘俺の言葉が分かるか?’」
考えたくない可能性を否定するために、俺はカリンに声をかけてみた
「‘えっ!? ウルフさんが何言ってるか分かる! な、なんで!?’」
「‘……はぁ。そうか。とりあえずベッドで大人しくしてろ’」
「‘えっ……ちょ……なん…………で?’」
しかし返ってきた言葉に俺は深いため息をつく。
否定したかったのに、肯定するような反応だった。
困惑するカリンをよそに、俺はクリアスの後を追う。
カリンも心配だが、今の状態のクリアスに変な来客があってもまた心配だ。
「急にすいません。私、冒険者ギルドの調査官です」
玄関に行ってみるとちょうどドアを開けたところだった。
武装した数人の人がいて、先頭のイカつい顔をした男性が身分証のようなものを出してクリアスに見せている。
一瞬イカつい調査官が俺のことを見た。
警戒するような目をしたが、首元のピンクのバンダナを見て魔獣だと警戒を解く。
家の周りから魔物の気配を感じる。
調査官たちは魔獣を連れている気配がない。
おそらく、家は魔獣に取り囲まれている。
「ええと……」
「ちょっと待ってください。私に任せてもらえませんか?」
「ん?」
「こちらの家の人、知り合いなんです」
後ろの方から三十代くらい女性が、イカつい調査官に声をかけた。
「あっ……おばさん!」
「‘おば……? 親戚か何かか?’」
「そうか。ならばジェレインに任せよう」
ジェレインと呼ばれた女性が前に出てくる。
スラっとした体型で、腰に細身の剣を差している。
「久しぶりね、クリアス」
「お久しぶりです……」
「姉さんが死んでからもう一年になるわね」
「あの時は色々とお世話になりました」
クリアスが頭を下げる。
姉さんということはクリアスの母親の妹ということだろうか。
「私たちは今、この人を探しているの」
ジェレインは懐から丸められた紙を取れ出して広げる。
「この人は……」
「ある国で指名手配されて、今は冒険者ギルドの方でも同じく指名手配された犯罪者よ」
「そ、そんな……」
紙には一人の男が描かれている。
細い目をした男性の肖像画で、隅にはサングラスをかけた怪しい顔まで参考として載っている。
あの薬屋の医者だった。
顔の下に名前が書いてあるキツソウというのが医者の名前らしい。
時々聞いていた医者の名前とは違っている。
「どうやらここに向かう……と聞いてきたのだけど」
「き、来てません……来ると聞いていたんですけど……」
クリアスは血の気が引いた青い顔でなんとか答える。
「この人はどうしてここに来る予定だったのかしら?」
「それは……カリンを…………治すためで……その、この人は何を……」
「この医者は元々研究者で、治療を隠れ蓑にして魔物や人間で実験を行なっていたの。非道なものも多くて、中には人を魔物にしてしまうという実験なんかもあったそうね。…………クリアス、どうしたの?」
クリアスの目から涙が溢れた。
「おばさん…………うっ、ふうっ……」
短い間に起きた出来事はあまりにも重たく、理解が難しく、クリアスという少女には受け止めきれなかった。
何も分からない。
頭の容量がいっぱいで、感情がコントロールできない。
「カリンが……カリンがぁ……」
足に力が入らなくなって、泣き崩れるクリアスをジェレインが抱きかかえるように支えた。
「何があったの? 私にできることなら力になるから言ってごらんなさい」
「……うぅ、あぁ!」
クリアスは泣き出してしまった。
こんな状況で、俺はあまりにも、無力。
合成して強くなっても何もできない無力さが、俺の胸を鋭く突き刺しているようだった。




