薬草のために6
「‘おらっ!’」
鈍い爆発音が響く。
共食いのオークの鼻や耳から鈍い色の血が噴き出す。
「‘ぬ、抜けない!’」
硬い頭蓋骨に刺さってしまったためだろうか、ツノが抜けない。
「‘ぐっ!’」
「ウルフさん!」
少し沈黙していた共食いのオークだが、手を伸ばして俺の胴体を鷲掴みにした。
「‘うっ!’」
ツノも抜けないために共食いのオークの手に力が込められて、俺の胴体が悲鳴を上げる。
このままじゃヤバい!
握りつぶされてしまいそうな力を感じて、俺は内心で焦る。
「‘もう一度食らえ! ファイヤーボールだ!’」
ツノが抜けていないこの状況を利用するしかない。
俺はツノに魔力を集めて再びファイヤーボールを放つ。
再び爆発音が響いて、今度は共食いのオークの赤い目玉も飛び出した。
「‘う……ぐ……うそ、だろ……’」
それでも共食いのオークの手の力はますます強くなる。
体が危険を訴えかける。
こいつ不死身なのか。
「ファイヤーランス!」
クリアスが俺を掴む共食いのオークの腕に炎の槍を突き刺した。
炎の槍が共食いのオークの腕を貫いて、肉がブスブスと焼ける臭いが漂うけれど力は緩まない。
「‘ぬっ、おおっ!? イデっ!?’」
もう限界だ。
そう思った時だった。
共食いのオークの体が前に傾き始めた。
そのままゆっくりと傾きは大きくなり、共食いのオークは地面に手をつくこともなく倒れる。
倒れた衝撃でツノが抜け、俺は投げ出された。
背中を地面に打ちつけて、ギャンと鳴き声を出してしまった。
「ウルフさん、大丈夫ですか!」
クリアスが慌てたように俺に駆け寄ってくる。
「‘うぅ……色々痛い……’」
主に掴まれて、打ちつけた腰が痛い。
ただあまりクリアスに心配をかけたくなくて、痛む体を押して俺は立ち上がる。
立てるだけ平気であるとも言える。
「‘ひどい光景だな’」
頭の中に二発も魔法をぶち込んだ。
共食いのオークは頭の穴という穴から体液を垂れ流して倒れている。
「‘おっと’」
共食いのオークの死体がボンッと消える。
そして後に残されたのは肉だった。
「‘霜降り肉……俺はいらないかな’」
普通のオークよりも白い脂肪の筋が多く見える。
いわゆる霜降り肉というちょっと良い肉が共食いのオークのドロップ品であった。
明らかに肉の質は悪かったのに、霜降り肉が出てくることに不思議さがある。
パッと見た感じでは美味そうだけど、共食いのオークのことが頭をチラついて食べる気にはならない肉だった。
「花は……ありますかね?」
部屋の中には何体かオークの死体がある。
俺とクリアスは白い花を探す。
「‘くっさ’」
腐りかけのオークの死体はいい臭いではない。
クリアスの方は多少臭うな程度に顔をしかめているが、俺の方は頭痛がしてくるぐらいだ。
鼻がいいというのも困りものだと思い知る。
手があるなら鼻を塞ぐこともできるのに。
「‘よっこいしょ!’」
俺はツノを差し込んでオークの死体をひっくり返す。
軽く見回してみたが白い花はない。
ただ無いと諦めることもなく、見えていないところにあるかもしれないと探してみる。
「ウルフさん! こっちに!」
クリアスに呼ばれて、俺は無いだろうと思いながら渋々腰布の中を覗き込もうとしていたのを止める。
「あれ、そうですよね?」
クリアスは腰を屈めて、重なり合うようにして倒れているオークの死体を覗き込んでいる。
俺はクリアスを真似してオークの死体を覗き込む。
下になっているオークの死体の頭に白い花が生えていた。
「‘よし、任せとけ!’」
俺は上に乗ったオークを咥えて引っ張る。
花を傷つけないように慎重にオークをどけていく。
「これですよ、ウルフさん!」
下敷きになっていたオークの頭には、可愛らしい白い花が咲いていた。
クリアスはナイフを取り出す。
「慎重に……」
クリアスはオークの頭をナイフで切り開く。
根っこまで必要なために、できるだけ傷つけないようにと血に塗れるのも構わず丁寧に花を頭から取り出した。
「……ウルフさん、これでカリンが助けられますよ!」
クリアスは血に塗れた白い花を震える手で握りしめて笑顔を浮かべる。
これでようやくカリンを助ける準備は整った。
あとは薬を作ってもらうだけだ。
俺も少し胸の奥が軽くなったような思いだった。




