薬草のために3
「‘だが……鈍いな!’」
実際そんなに遅くもない。
だが攻撃は大振りで、狙いは大雑把。
大きな動作で攻撃すればそれだけ攻撃も読みやすい。
オークの腕をかわした俺はガラ空きになっている喉に飛びついた。
俺はアゴに力を込めると、一気にオークの喉を噛みちぎる。
「‘うむ……やはり美味いな。肩の方がよかったけど’」
オークが俺を掴もうと喉に手を伸ばした。
けれども掴もうとした時には、もう俺は喉を噛みちぎって離れた後だった。
気の迷いではなく、オークの肉は美味かった。
そういえばクリアスの炎の槍が刺さったところも焦げの匂いの奥に香ばしい匂いがしている気がする。
「‘お前……焼いても美味いんだな?’」
オークという魔物がどんなものか分かってきた。
噛みちぎられた喉から血が吹き出して、オークは両手で押さえている。
「ファイヤーランス!」
アゴを引いて少しでも出血を抑えようとしていたオークのこめかみに、炎の槍が突き刺さった。
炎の槍はそのまま頭を貫いて、反対側から飛び出していく。
叫ぶように口を開けたまま動きが止まったオークの体が、少しずつ傾き始める。
地面に頭が落ちる寸前でオークの死体が消えて、代わりに肉が現れた。
「どうですか、ウルフさん! 上手く狙ったでしょう?」
相手の動きが止まる瞬間を狙った。
動きを止めようと喉を噛みちぎったわけではないが、結果的にオークの動きは止まった。
クリアスはその瞬間を狙って、頭を撃ち抜いたのだ。
「‘よくやったな’」
「んふっ、くすぐったいですよ!」
褒めてもらうだけじゃなく、褒めてやることも大事。
手があるなら撫でてやるけれど、今は無理なので脇腹を鼻先で突いておく。
「よいしょ……」
肉二つでも意外と重そうにクリアスはリュックを背負う。
「うーん……お金にはなりますけど、ちょっと重いですね」
ネズミの素材もたくさんある。
女の子のクリアスが持つには、重たくなりつつあった。
あまり重いと逃げるような時に邪魔になる。
そろそろ薬草も見つけたいところだ。
「‘なんだ……? 少し臭うな’」
俺は鼻をヒクヒクと動かして臭いを嗅ぎ取る。
うっすらと何かの臭いがする。
臭い。
あまり気分のいい臭いではない。
何かが腐っているような感じがする。
オークを倒してから気分が良くなっていたのに、またヒゲがピクつく。
「オークがいますね。……何かしてるんでしょうか?」
角を曲がって、少し進んだ先に広めの部屋がある。
俺とクリアスは角から顔を出して部屋の方を覗き込む。
部屋の真ん中にはオークの背中が見えていた。
地面に座って、こちらに背を向けている。
ただぼんやりとしているだけでなく、軽くうつむいて何かをしている様子だ。
背中越しでは何をしているのか見えない。
「ウルフさん、あれ!」
「‘消えないオークの死体……しかも花だ’」
部屋の真ん中に座るオークのさらに奥。
壁に寄りかかるようにしてぐったりと座っているオークがいた。
しかし目がうつろで、左腕がない。
動く様子もなく、腕から出血もしていない。
遠くから見ているだけでは分かりにくいが、死んでいるように見えた。
そして、オークの頭には白い花が生えている。
俺とクリアスは顔を見合わせた。
消えないオークの死体に咲く花は本当にあった。
「‘ただオークがいる……まあ、一体だけならなんとかなるか’」
最大の障壁は部屋の真ん中に座り込むオークだろう。
ただここまで戦ってきた感じでは、オーク一体だけなら十分に倒せる敵だと言っていい。
「オークが動きましたね」
部屋の真ん中に座っていたオークが立ち上がった。
何をするのかと様子を窺っていると、オークは部屋の奥の死体に向かう。
「何を……えっ!?」
オークは仲間の死体に手を伸ばした。
足と胴体をそれぞれ掴む。
そしてそのまま足を引き抜くようにしてちぎってしまった。
全く思いもよらない行動にクリアスは驚いてしまう。
俺も内心ではオークの異常行動に驚いている。
ただ驚きはそれだけではなかった。
「た、食べてるんですか……?」
仲間の足を引きちぎって何をするのかと思ったら、オークは足を食い始めた。
骨も関係なくボリボリと食べる音が俺たちのところまで響いてくる。
足を食べ終えるともう一本の足も引きちぎって食べる。
「なかなか……ですね」
クリアスは言葉を選んで青い顔をしているが、共食いの光景など相当クソ喰らえな気色悪いものとしか言いようがない。
「‘目が赤い……?’」
基本的に魔物は仲間を食わない。
仲間でなくとも同種の魔物は食わないはずだ。
二階のネズミのようにかなり飢えれば話も変わるが、そもそもダンジョンで飢えるとかそんなことあるのか俺は知らない。
だがクリアスの様子を見るに普通のことでもなさそうだ。
そしてふと振り返ったオークの目が赤くなっていたことに、俺は気づいた。
少し充血しているとかそんなレベルではなく、目が真っ赤になっていた。
「あっ、腕まで……」
二本の足を食べ終えたオークは残る腕にも手を伸ばす。
「そういえば……ダンジョンのボスにそんなのがいるって聞いたような…………オークなのにオークを食べる……異常な個体……」
「‘なるほど……あれがボスなのか’」
バキバキを骨を噛み砕いて食べるオークの姿に背中がゾワゾワとする。
あれがボスだというのなら異常さも少しは納得できる。
クリアスも顔を青くしている。
ここまであまり魔物に対して感情を表に出すことはなかったけれど、少し吐き気すら覚えているようだ。
「‘あれを倒さなきゃいけないな’」
食事の邪魔をしないので花だけ取らせてください、と言っても通じないだろう。
やはり花のためには共食いのオークを倒さなければいけない。




