薬草のために2
「‘汚いうめき声だな’」
手で目を押さえて、言葉にもできないような声を上げながらオークは俺の方を振り向いた。
体を低く、いつでも動けるようにしておく。
「‘これで死なないのか……’」
オークは手の無くなった腕を地面について、ゆっくりと立ち上がった。
目ん玉にツノブッ刺して死なないなんて、生命力の高さを感じる。
「‘もう片方の目も潰してやろうか?’」
片手もなきゃ、片目もない。
このまま押し切ることもできる自信はある。
「‘おっ?’」
オークが目に怒りの感情を浮かべて一歩踏み出した。
来るなら来いと待ち構えていたのだけど、オークは一歩踏み出したまま動かない。
無事な目がうつろになっていき、グルンと上を向いて白目を剥いてしまう。
おもむろにオークの体が傾いていく。
そのままオークは手をつくこともなく地面に倒れる。
体が浮き上がりそうな衝撃。
オークの肉厚な体は重さもすごそうだ。
「‘……死んだ…………のか?’」
倒れたオークは動かない。
いきなり動き出すかもしれないという緊張感の中、俺は慎重にオークに近づく。
「‘うおっと!’」
そっと前足でつつこうとしたらボンッと音を立ててオークの死体が消える。
驚く俺の目の前でオークは肉の塊となった。
「‘倒したということだな’」
ダンジョンの良いところは、倒せば素材になるというところだ。
つまり明確な生死判定がある。
オークが消えて素材になったのなら、オークを倒したということなのだ。
「‘俺の力は通じるな’」
首を振って、ツノについたオークの血を振り払う。
正面から戦っていないので分からないところはあるものの、俺の攻撃力はオークに通じることは分かった。
攻撃が通じるなら戦いようもある。
「ウルフさん、さすがです!」
クリアスもいつでも魔法を放てるようにと魔法陣を展開していた。
オークが消えたので、クリアスも魔法を放たず魔法陣を消す。
「ウルフさんだけで倒してしまいましたね!」
クリアスはニコニコとして俺が強くなったことを喜んで褒めてくれる。
こうして手放しで褒めてもらうと俺も嬉しい。
「オークの肉は安定した値段で買い取ってもらえるんですよ」
クリアスはオークのドロップ品である肉を回収する。
結構しっかりした大きさがあるので、腰の袋ではなく背中のリュックに入れておく。
二足歩行ならこうした時にも、荷物を持つ手伝いができるのになとひっそりと思う。
「‘まあでも……四足でもリュックぐらいは背負える……かな?’」
「どうかしましたか? どこか痛いところでもあるんですか?」
少し目を細めるようにしている俺の顔を見て、クリアスが首を傾げる。
「‘いや、重たいもん持たせて悪いな……’」
そこらへんの負担も分かち合えればいいが、コボルトの時は非力だったし今は四足歩行の魔物でなかなか手伝えない。
工夫すればやりようもありそうだけど、クリアスの方にも俺に持たせるという発想がないようだ。
「……変なウルフさん」
荷物持つよ、の意思はクリアスを見つめても伝わらない。
割と見つめるだけでも伝わるようにはなってきたが、複雑な意思はまだまだ難しいのだ。
こうしたところも少しずつどうにかしていければな。
「ふふ、だいぶ希望が出てきました」
オークを倒せた。
非常に大きな成果である。
倒せるという事実だけでなく、オークはあまり群れて動くこともなく一体倒せたなら他のオークも倒せる可能性が高いということになるのだ。
「ふふふ……次は私もやりますからね! いけますよね、ウルフさん?」
しかも先ほどは俺だけでオークを倒した。
クリアスも加わればより楽に倒せる可能性が高くなる。
俺はクリアスに頷き返す。
「いきましょう!」
俺とクリアスの士気も高く、ダンジョンを進んでいく。
「いましたよ! ファイヤーランス!」
オークはなんとなく鈍そうだ。
周りを警戒していないのか、慎重に進めば先にオークを見つけることができる。
次に見つけたオークも背中を向けていたので、先制攻撃でクリアスが炎の槍を放つ。
頭を狙えれば楽に倒せたのかもしれないが、離れた距離から頭を撃ち抜くのは簡単ではない。
そこで頭を狙いながらも確実に先手を通ることにした。
「ああっ! 外しました!」
「‘他のは当たってるから及第点だな’」
一気に四本の炎の槍を放った。
一本はオークの頭を狙い、残りの三本は広い背中を狙った。
残念ながら頭を狙ったものは外れてしまった。
クリアスは悔しそうな顔をするけれど、残りの三本の方はしっかりと背中を貫いている。
突き刺さる痛みと体が焼ける痛み。
それぞれに襲われてオークが叫ぶ。
だが倒れることもない。
目を突き刺した時もそうだが、痛みに鈍いのか少しのダメージ程度ではあまり長く怯むようなこともないようだ。
俺は槍が放たれたのを確認してから走り出していた。
飛びかかり、オークの肩に牙を突き立てる。
「‘あっ、うまっ!?’」
オークの肉を食いちぎる。
少し咀嚼してみると口にオークの肉の旨みが広がる。
ネズミの肉や血とは全然違う。
なんで肉なんてドロップするんだと思っていたが、この味なら確かに食えると納得してしまう。
多分焼いたりしたらもっと美味いのだろう。
久々の生肉に心のどこかが喜んでいる感じがする。
「‘ちょっともう一口……おっと!’」
ざっくりと肩の肉を噛みちぎられて怒るオークが俺に向かって拳を振り下ろす。
少しぼんやりしてしまった俺はギリギリのところで回避して、風を切る音にヒヤリとしたものを感じる。
流石にパワーは俺よりもはるかに高い。
殴られたら痛いどころじゃ済まないだろう。




