新たな体で金稼ぎ1
「行きますよ、ウルフさん!」
カリンの病気問題で色々と時間がない。
俺の呼び方どうするんだ、なんて問題は些事であり、ひとまずウルフさんと呼ばれることになった。
流石にウルフにコボルトさんと呼び続けるのはおかしいということになったのだ。
ただいい呼び方もなく、暫定的にウルフさんと呼んでいる。
一瞬ピンクのバンダナからピンクちゃんになりかけたけど、それだけは嫌だと拒否をした。
そんなこともありつつ、俺たちは再びダンジョンを訪れた。
「目標は三階! カリンのお薬を作るための薬草です! だけど……お金も必要です!」
クリアスが改めて目標を確認する。
目標は二つ。
一つはカリンの病気を治す薬を作るために薬草を採取すること。
もう一つは薬を作ってもらう料金としてお金を稼ぐことである。
今のところどちらもままなっていない。
これからどうなるのかは、合成されて新しくなった俺の能力がどれほどのものかによる。
「君は……諦めずにまた来たんだな」
「あっ! あの時はどうも……ありがとうございました」
ダンジョンの前にいる人は前回よりも少ない。
その中の一人がクリアスに気づいた。
ダンジョンの中で異変が起きていると忠告をくれ、脱出を助けてくれた中年の冒険者だ。
クリアスが頭を下げると、中年の冒険者は穏やかに笑顔を浮かべる。
「あんなことが怖気付かずにまた挑戦できるとは……なかなか冒険者に向いているかもしれないね。少しでも怖い目を見るとやめてしまう人もいるから」
「目標があるんです」
「そうなのかい。魔獣も……合成したのかな? だいぶ強そうになったね」
ネズミに追いかけられて、死にかけた。
出来事としてはなかなかのものだった。
ただクリアスはその事件で死にかけたことそのものはあまり気にしていない。
俺の腕が無くなったことの方が衝撃だったのだろう。
目の前で腕を斬り落としてネズミにくれてやったのだから、確かに衝撃的なことだったかもしれない。
何にしても明確な目標のあるクリアスはめげなかったし、中年の冒険者はそんなクリアスに感心した様子で目を細めていた。
チラリと俺のことも見たが、中身がコボルトの俺と一緒だとは思いもしないはずだ。
「ダンジョンの状態はどうですか?」
「異常な状態は落ち着きつつある。まだ影響はあるから危険で……人は少ないがね。ただお金を稼ぎたいならチャンスだよ」
「どうしてですか?」
クリアスが首を傾げる。
「ダンジョンの異常によって増えた魔物の多くがフォレストラットだった。今でもダンジョンの中に多くて、凶暴な状態が続いている。本来なら封鎖でもすべきなのかもしれないけどダンジョンは誰のものでもない」
フォレストラットというのは、ネズミの正式な名前がそういうものらしい。
中年の冒険者はかなり良い人そう。
医者の時と違って俺もあまり警戒することはない。
「だが自然の沈静化に任せて長いこと入れないのも冒険者にとって痛手だ。だから冒険者ギルドが報奨金を設定した。フォレストラット三匹ごと……だったかな? 何匹分かまとめて倒すと報奨金がもらえるんだ」
ダンジョンの中にも一定の生態系みたいなものがある。
外とは異なるルールで動いていることも多いが、異常が起きてもそのうちに普通の状態に戻る。
ただ人の手を加えればより早く戻すことも可能だ。
今回ネズミが増えすぎたことが異常の原因なので、ネズミを倒して元の状態に戻そうとしている。
ネズミたくさん倒せばお金出すよという話らしい。
これはいいんじゃないかと俺がクリアスを見ると、クリアスも同じように考えている顔をしている。
「今の二階はネズミだらけだ。共食いまで始めるような始末で危険はある……だがリターンもある」
「情報……ありがとうございます!」
「……どんな事情があるか知らないが……頑張れよ。ただ無理はするなよ?」
「はい!」
中年の冒険者は少し娘でも見るような目をしている。
クリアスは再び深く頭を下げると、ダンジョンの入り口に向かう。
「今回も少し危険かもしれません……ウルフさんせめて……無事には帰りましょうね?」
相変わらずダンジョンからは異様な雰囲気が漂っている。
ダンジョンの入り口前に立ったクリアスは一呼吸つく。
「‘今回は俺が三階まで連れていってやるよ’」
危険かもという割にクリアスの目には自信が溢れていた。
そして俺にも同じく自信がある。
クリアスの手鏡で見た俺の姿はちょっと強そうだった。
コボルトを狙ったウルフの、さらにツノまで生えている姿をしているのだ。
牙も爪もコボルトより大きい。
やや明るめの毛色も、ウルフになって落ち着いた暗い色合いになってちょっとカッコ良くもなった。
自分の体に力強さも感じる。
今度こそは三階まで行けると自然と自信も湧いてくる。
「怒られる前に入りましょうか」
前回は入り口の前で突っ立っていて怒られた。
見つめ合うの一瞬で、反省を活かして今回はサッサとダンジョンの中に入っていく。
ダンジョンに入る時の独特の感覚はウルフになって変わらない。
「‘まあまだ緊張するところじゃないか’」
相変わらずヒゲがひくつくような空気感。
全身の毛がザワザワとして、外とは違うのだと本能に訴えかけてくる。
それでもまだ一階はコボルトでも十分に戦えた場所だ。
油断はしないが、精神をすり減らすほどの緊張はない。
三階まで行けるかは、分からない。
胸の奥を撫でるようなほんのりとした不安を振り払うように、俺はダンジョンの奥に目を向けた。




