弱音3
「カリン! 先生を連れてきたよ!」
「おや、話に聞いていたよりは顔色が良さそうですね」
少しカリンの調子も戻ってきたなと思っていたらクリアスが医者を連れて戻ってきた。
「‘怪し……’」
偏見なく医者の第一印象を表現するならば、『怪しい』であった。
開いているのかも分からない細目に、この世界のどこにそんなもの売ってるんだという丸くて小さいレンズのサングラスをかけている。
ドアギリギリの高身長で、割と若めな顔つきをしている。
あくまでも俺の目を通して見ると、すごい怪しい人に見えた。
最終的にはツボでも売りつけられるのではないかと思うほどの雰囲気だ。
「‘あと……なんだこの臭いは?’」
医者からは独特の臭いがしていて、俺は思わず顔をしかめてしまう。
体から滲み出るような臭いは、今の俺にとってかなり強烈だった。
薬剤や薬草の臭いだろうか。
けれどそんな臭いに混じってまた別の何かの臭いもする。
俺の頭の芯を刺激するような臭い。
他の臭いが強すぎて何の臭いかは分からないけれど確かに何かが臭う。
医者は近くにあったイスを手に取ると、ベッド横に置いて腰掛ける。
「ふむふむふむふむ……」
医者はカリンの手を取って脈をはかる。
「失礼……服をまくってもらえるかな?」
「はい……」
「‘これは……’」
カリンが服をまくり上げると、脇腹が黒くなっていた。
内出血とはまた違う、不吉な黒ずみ。
「最近どんな調子だい?」
医者は耳に指先を近づける。
耳の前に小さい魔法陣が展開された。
そして手のひらにも魔法陣を展開させると、カリンの胸に手を近づける。
「ああやって心音を聞いているらしいです」
何をしているのかと覗き込むようにしている俺に、クリアスがそっと耳打ちして教えてくれる。
医者はそのまま魔法を駆使し、カリンから体の状態を聞き出して診察を進めていく。
見た目こそ怪しいが、ちゃんと医者なのだなと感心してしまう。
「今のところ落ち着いているようですし、このまま様子を見ましょう。ただもう少し薬を増やしましょうか」
「先生の手……冷たくて気持ちいいです」
「少し体の熱を下げているからですよ」
医者がカリンの額に手を当てている。
何かの魔法を使っているようで、カリンはやがてそのまま眠りに落ちてしまう。
「少し話しましょうか」
医者は立ち上がるとカリンに布団をかけ直す。
カリンの部屋から移動して、クリアスはお茶を淹れて医者に出す。
「病気は進行しています。もう薬で抑えておくのも限界かもしれないですね」
「そんな……」
冷酷な宣言にクリアスは悲しげな顔をする。
「まだ……間に合いますか?」
「まだ間に合います。ただしもう時間はないと思ってください」
やはりクリアスはカリンのことを普段になんか思っていない。
なんとしてでもカリンのことを治そうとしている。
「薬草……採ってきます。なので薬を……」
「ええ、薬草があれば薬を作りますよ。それに料金もいただきますが」
お茶を飲みながら医者はひょうひょうと答える。
悪い人ではなさそうだが、なんというか人情味みたいなものは感じない。
同情で人を助けていたら商売にはならないのは理解できる。
仕方のないことなのかもしれない。
「頑張ってください。私としても患者には治ってほしいですからね」
医者の細い目の奥は見えず、感情は分からない。
怪しくないかもと思ったけど、やっぱり怪しさのある人だ。
「助けます……カリンのことは絶対に!」
クリアスの目にはやる気が燃えている。
合成成功の余韻に浸る暇もない。
「‘次こそは三階に行かなきゃな’」
カリンがいなくなるのも寂しいものである。
できるなら俺もカリンを救いたい。
のんびりしている暇もない。
能力を確かめるならダンジョンがちょうどいいかもしれないし、次こそは三階まで行ってやると俺もやる気を燃やしていたのだった。




